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第2話

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 ネイトとの再会から数日が経ったが僕はネイトともトレヴァー様とも会うことが出来ずにいた。トレヴァー様は相変わらず僕を拒否していらっしゃるし、ネイトとはどうやって会えばいいのかさえ分からない。それとなくペールさんに聞いてみたがお茶を濁すばかりでどうなっているのか教えて貰えない。
 
「ネイト……」
 
 本来ならトレヴァー様とお会い出来ないことを気にしなければならないはずだが、ネイトのことばかりを考えてしまう。この家に居続けるにはトレヴァー様の子供を産まねばならないが、僕はネイトと……そこまでで考えるのをやめた。ネイトは僕を求めていないだろう。僕に嫌悪感をむき出しだった伯爵家さえあれほど怒気のこもったフェロモンは出していなかった。ネイトが僕に向けた膝をつく程の威圧フェロモンは思い出すだけで身震いする。ネイトを求める気持ちがオメガとしての本能なのか僕という人間としてなのかは分からない。ただネイトに会えたことが本当に嬉しかったのだ。だからこそ僕はこの気持ちに蓋をする。トレヴァー様の子供を産めば僕はこの家にいられるしネイトとも会えるかもしれない。それだけで十分じゃないか。
 
「うん、ともかくトレヴァー様に会えたらな」 
 
 部屋からは御手洗以外で出ないように言われていた。施設と違って静かな部屋で1人でできることは限られている。外に出たとしてもトレヴァー様の部屋の前まで行って門前払いされるのを繰り返しているだけだ。そろそろまたペールさんが来てトレヴァー様の部屋に行く時間なので、気持ちを切り替えて今日こそは会えるように祈るだけだ。
 
「テオドア様、失礼しますぞ」
 
 ペールはノックしてから扉を開けるとズカズカと部屋に入ってきた。彼は立場が微妙な僕に対して敬語を使うものの妙に遠慮がない。僕としては気が楽でいいのだが。
 
「トレヴァー様は本日お仕事で外出されます。つまり部屋から出られる。その隙をつきますぞ」
「ノリノリですね……」
 
 ペールは僕以上にどうやってトレヴァー様に会ってもらうか考えることに張り切っているようで毎日こうして作戦を練ってくれている。日に日に強引になっているのは気のせいではないだろう。 
 
「さぁ行きますぞ、身だしなみを整えください」
 
 メイドさんに貰った櫛でさっと髪を整えてペールの後に続く。トレヴァー様の部屋は僕のいる使用人用のフロアではなく1階上にある。会えないだろうと思っていてもトレヴァー様の部屋に行くまでの道はドキドキする。 
 
 
「トレヴァー様お待ちください」
 
 ペールは少し先にトレヴァー様を見つけたようで少し大きな声を出した。長い廊下の先に美しいプラチナブロンドが見えた。恐る恐る近づいていくとフォークナー伯爵そっくりの碧の双眸と目が合った。
 
「ペール、それがオメガか?」
「左様でございます」
 
 てっきり怒号が飛んでくるものだと思っていたが届いた言葉は、呆気に取られたような気の抜けたものだった。
 
「おい、お前」
「は、はい」
「ナサニエルと知り合いだそうだな」
「そうです、おなじ施設にいました」
「気に入った。今晩同衾してやる、準備をしておけ」
 
 わかりました。そう答える自分の声は酷く冷めていた。やっとお会い出来ただけでなく同衾してくださると言っているのになんで僕は嬉しくないんだろう。さっき決めたばかりなのに。去りゆくプラチナブロンドを見ながら僕は頭を殴られたようなショックを受けていた。
 
「テオドア様……お部屋に戻りましょう」
 
 ペールはそっとそう呟いた。僕は黙って頷いた。
 
 ***
 
 その日の夕方、僕はまだ現実を受け止め切れていなくて胸が張り裂けそうな思いだった。大丈夫だ、それでいいと決めたじゃないか、これが最善の道じゃないかと自分に言い聞かせようとしても無駄だった。
 
 コンコン
 
 その時、ふと扉が叩かれた。ペールかと思ったが遠慮がちなそれに違和感を覚える。
 
「はい」
 
 こちらも遠慮がちにそう答えると扉がゆっくりと開いた。 
 
「ネイト……!」
 
 そこにいたのは、ネイトだった。
 
「テオお前、兄上と……」 
「うん、そうだよ。そのためにこの家に来たんだもん」 
「お前は、それでいいのか」
「……仕方がないでしょ」
「仕方がないかどうかじゃなくてお前がどうか聞いているんだ」 
 
 ネイトはまた、威圧フェロモンを出し始めた。怖くて悲しくてへたりこんでしまいそうだ。
 
「僕は……僕はこのままでいいよ。そのために来たって言ったでしょ」
「……そうかよ」
 
 ネイトはイラついた様子で踵を返し立ち去ろうとする。
 
「待って」
 
 僕は思わず叫んだ。
 
「ネイトはなんでそんなに怒っているの?僕にそんなに会いたくなかった?」
「はぁ?そんなわけ……」
「ナサニエル様」
 
 ネイトの言葉を遮るように入ってきたのはペールだ。
 
「旦那様がお帰りです戻られた方が……」
「そうか、助かった」
「ネイト!」
「テオ……また来てもいいか?」
 
 なんで、なんでそんなことを聞くんだろう。毎回威圧フェロモンを出すくらい嫌いなくせになんで……でも嬉しい、また来て欲しい。ネイトと一緒にいたい。
 
「うん、いいよ」
「そうか……また来る」 
 
 ネイトはふっと微笑むとそう言って去っていった。僕にはネイトの真意が分からなかったが再び会う約束ができたことは本当に嬉しくて思わずベッドサイドに置いてあったペンダントにキスをした。
 
 
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