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世界が変わる鍵は

三本目の鍵

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ロゼと白たまも打ち解け、3人は話しながら歩いていた。
ふと彩壱が地図を取り出す。


「いいか?お前たち。今我々はここ、忍里の焔の国にいる。ここは付近の国々と比べたら平和な国だ。特に問題は起こらないだろうから、道中買い物をしようか。今は私1人分しか荷物がないからな」


彩壱は地図を広げ、ロゼと白たまに現在地を教える。
ロゼは大陸を知らない。それはまだ分かる。問題は白たまである。白たまが自分はどこにいたか分かっていなかったのだ。

今日日きょうび、地図も持たずに国をまたぐのは阿呆のする事だと彩壱は頭を抱えた。
大陸の海側、忍里のとある区域は最近戦争が頻繁に起こっている。その場所を避けるためにも地図は必須。彩壱は途中買い物で街に寄った時、2人分の地図を絶対買うことに決めたのだった。


「人間主義が多くいるが、私が知る街に行けば獣人といえども隠れなくていいだろう。だが念の為買い物には私一人で行く。何か問題は?...無いな。よし。ここは2人には特に注意する事はないだろう国だ。...だが、焔の国も数年前に戦争があった。相手は焔と敵対している【鋼の国】だ」
「どこどこ?」
「地図でいうと...ここだな。1つ国を挟んだ先にある。これから色々と国を跨ぐこともあるだろうが…この__」
「コノ国の近くに向かウのは危険、デすね」
「あぁその通りだロゼ」


「え?どうして?別にウチらが戦争に参加したわけじゃないから大丈夫じゃない?」


純粋な疑問だった。
その言葉に彩壱は深く頷いた。
自分もそう思うかのように。


「...そうだな。だが、例え参加していなくとも敵国の方から歩いてこられたらその国の者かもしれんと疑うのも仕方がない事だ。間にある国は忍里大体の国と友好関係を築いている。そんな国の者たちが正規の道を通らず来るのはありえない。私たちはこの国の者達とは雰囲気も違うから尚更目立つだろうしな」
「うーーーん...難しい事はよくわかんないけど、駄目だっていうのは分かった。じゃあ反対側に進もうよ!」
「焔の国の下側か。なるほど、いいと思うぞ。忍里の下端の国はここ、焔だ。その下は忍里ではない、完全なる別国になる。そうだな...あぁ【太陽の国】だ」
「【太陽の国】!!なんか楽しそう!」

行き先が決まったことによりはしゃぐ白たまと、
呆れたように彼女を見ながらもどこか楽しみにしているロゼ。彩壱は2人を見て微笑ましく思うが、真剣な顔をして話を続ける。


「だがとりあえず焔の中にいる間に買い物をすまそう。その国は多文化共生国。焔でも影で行われている"全獣人奴隷制度"が、ここでは当たり前にあるとも聞く。私も初めてだからなんとも言えんが、注意するに越したことはないさ」
「全獣人奴隷制度...」
「マントもしくはフード付きローブが買えればいいな。私たちの耳を隠せるほどの」


「お二人も、でスか?」


「先祖と言っても獣人は獣人だろう?ロゼが言うには匂いもあるようし。白も獣人だからな」
「見よこのフサフサお耳を!!可愛い可愛いしっぽを!!」
「...そウ、でしタね」


白は完無視するとして、
なぜ聞いたのか自分でも分かっていないようなロゼ。
彩壱はまだしも、白は見るからに獣人。
なぜだ?匂いで分かると言っていたのに。
体調でも悪いのだろうか。


「どうしたロゼ。体調が優れないのならば遠慮なく言ってくれ」
「イえ、なんデもナイです」
「そうか?」
「んじゃ早速行こうよ!【太陽の国】!!」


ロゼへの心配もそこまでに、【太陽の国】へ歩き出す。この森を西に進めば小さいが多くの人が集まる街がある。人数が多い場所に行くのは逆に人混みに紛れることができるので好都合だ。

しばらく歩くと日が暮れてきた。
夕食として白の二折の魔法、水魔法で魚を捕ることが出来たのでありがたくいただくとする。
夜も更けて寝ようとする。が、またもや問題が。
彩壱は寝袋を持っていたので大丈夫だが、2人はどうするのか。
しかし聞く前に木の上に登っていた白とロゼを見て、獣人の暮らしと人間として暮らしていた自分との差に思わず笑ってしまいそうになった彩壱。
だがそれを顔に出すことはなく、3人は眠りについた。









.






ここは太陽の国
付近の国々を明るく照らす大国
美しく着飾り、華やかな街並みを練り歩く人々の列は飾られた絵画の中に描かれた世界のよう

その見栄えの良さに、住人たちの髪や服、笑顔も見たものに晴れやかな気持ちを持たせる1つの理由だろう
レンガが建物の造形に多く使用されており、オレンジに染まる道は来た者の歩みを止めさせることは無い
国中全ての場所に繋がり、誰も彼も皆通るそれは、さながらこの国が誇る絹の道


...そう、ここは太陽の国
太陽の作り出す暗い陰も、影も、闇も
この国には存在する


地下に隠された巨大な都市
金に娯楽に殺戮、博打、その他もろもろ
人間も獣人もオークションにかけられるような闇商売なんて当たり前
臓器売買、人殺し、違反行為が蔓延る場所
王国の華やかな国民達は知らない地下空間



汚い現実もそこそこにして
一方、地上にはどこからでも見える、一際目立つ大きな城が
太陽の国の中心にあるそれは、1つ町が入ってしまう程に広い
中世を思わせる白で統一された美しい外見
まるで御伽噺の中の様な輝かしい内装

御国のトップが暮らす場所
トップの家族が暮らす場所

城の一角一角が王家の者の住む範囲ごとに決まっている
そんな城の中心近くの大きな屋敷
この国のお姫様の洋服専用の御屋敷だ
小さな家出をしていたらしい
それを宥める使用人は5人ほど

外ハネが目立つ黒髪ボブの可愛らしい女の子
彼女の頭には羊のようなくるんと回った角
キラキラ輝く冠がとても似合っている


「いや!私はこの家を出たいの!自分で暮らしてみたいの!こんなバカでかいお城、飽き飽きしてるのよ!!」


彼女は叫んだ


「姫、落ち着いてください!さぁさ、お城に戻りましょう?国王様は姫がいつまでもお洋服の置き屋にいることを好ましく思われません」

「知らねーよ!ってか揃いも揃ってなんで外に出してくれないの!?ちょっとくらいさぁ、いいじゃん!」

「姫!言葉遣いがなっておられません!」

「この期に及んで注意するの言葉遣いかよ!~~っ私は!守られなきゃ生きていけないほど弱かないやい!!」

「えぇえぇ、よく存知あげておりますとも。先の戦争では齢7歳という幼さで見事この国を勝利に導いて下さいましたことを忘れたことは一度も...」

「うーるさーい!んなことどうでもいいの!」

「どうでも?!いいえよくありません。この国の未来があなた様によって救われ」

「ふんっっ」
窓ガラスバキィィィ

「姫?!」


割れた...いや、割った窓の枠に足をかける
姫と呼ばれた彼女は

「そりゃ」

そのまま外へ飛び降りた


「「姫ぇぇぇ?!?!?!」」


この屋敷は3階建て
だと言うのに難なく着地をした彼女はそのまま走り出す
目指すは城の門

彼女はまだ見ぬ外の世界に手を伸ばした







.








森の中を歩き続ける彩壱、ロゼ、白たま。
無事買い物を終えたらしく地図を片手に太陽の国へ歩みを進める。
珍しい動物や変わった植物。それらに目を奪われながらも進み続けて約1週間。
周り全て緑1色の景色に突然現れたのは


「レンガの、小道?」
「お、白。見えたか?」
「え?うん。ほら、あそこにあるよ」
「あぁ、あれだ。おーいロゼ!降りてこい。太陽の国への入り口だ!」


彩壱が真上の木に声をかける。
ストンッと彩壱の真横に降りてきたロゼ。
この1週間、もしもの時のために木の上から周囲を見ながら移動していたらしい。


「コの道を進んデざっと200m程先に大きナ街が見エまシタ」
「そうか。それこそが私達が目指して歩いていた太陽の国だ。やっとだな」
「早く行こ!楽しみ楽しみ!!!」


レンガの道に既にのっている白たまがこちらに手を振る。
ピョンピョンと跳ねながら小道を軽く行ったり来たりしており、待ちきれないという感情が溢れ出ている。


「待て白。今行く」
「彩壱様、僕ハまた上に」
「いや、もう大丈夫だ。下にいなさい。一緒にレンガを歩こう」
「しかシ...」
「ほら、太陽の国はすぐそこだ!」
「ウワァ!!」


躊躇ためらうロゼの腕を掴み白たまの元に走る。
驚いて躓きそうになるが何とか耐えたロゼ。
2人の足取りは軽やかなものだった。


「イーちゃん、ロゼ!はやくはやく!!」
「分かった分かった。ほら白。お前も」
「!!...うん!!!!!」


しっかりと手を繋いでレンガの道を進む3人。
楽しそうな声を森の木々は見送った。
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