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第30話 ほのぼのショータイム

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「ユノちゃんとグレンちゃんは、自分たちを抑えて!!私たちは私たちで、残りのメンバーを倒すから!!」
「分かりました!!」
「ああ、分かったよ子猫ちゃん」

 グレンはグレンを、のの花はのの花を足止めしにかかる。
 グレンのキャラ変に驚くサクラだったが、構っていられる余裕もない。

「こりゃえぐい。唯一の救いは、顔で本物かどうか見分けられることだな」

 リュウの言う通り、偽物のメンバーには表情がない。
 どこか透き通って青ざめた表情をしているため、間違えて味方に攻撃することはなさそうだ。

「私が私に勝てるのかな……」

 自分を相手にして、のの花は不安に襲われる。
 実力は当然のことながら五分五分。
 運がものをいう勝負だ。

<【戦略的撤退】>

 偽物のの花の声から発せられたのは、覇気のないひどく無機質な声。
 見た目と能力は同じだが、中身はやはり違うのだろう。

「【戦略的撤退】!!」

 相手のスピードについていくためには、自分のAGIを上げるしかない。

<【一網打尽】>
「【一網打尽】!!」

 お互いがハンマーを地面に叩きつける。
 50%の確率で気絶が発生する武器スキル【一網打尽】。
 完全な運ゲーで、お互いに踏ん張った。
 どちらも気絶していない。

「なかなかやるね」
<……>

 話しかけても、相手は全く反応しない。
 まるでNPCのようなその様に、のの花は目の前の自分が狸の置物かと思えてきた。

<【水斬剣】>
「【水斬剣】!!」
<【トルネード・スピアー】>
「【トルネード・スピアー】!!」

 相手が剣で斬りかかる。のの花も剣で応戦する。
 相手が槍で突いてくる。のの花も槍で跳ね返す。

 思考もコピーされているのか、のの花と相手のやろうとすることがぶつかり合ってしまう。
 このままでは埒があかない。
 のの花は、同じく自分と戦っているグレンに呼びかけた。

「グレンさん!!」

 長剣で火花を散らしながら、グレンが背中越しに応答する。

「何だい?かわいい子猫ちゃん」
「2対2に持ち込めますか?」
「僕もそれを言おうとしていたよ、任せておけ!!」

 グレンは剣を交えながら、徐々に位置をずらしていく。
 そして見事に、のの花たちとの距離を詰めた。

「ちょうどよかった。正直、やられる心配はなかったけどやれる自信もなかったんだ」

 どうやらグレンも、自分自身を相手に苦戦していたようだ。

「グレンさん、私に特殊攻撃は効きません。【驚異的な回避術】発動時は物理攻撃も効きません」
「それはまた、馬鹿げたスキルだね。心得ておくよ」

 苦笑いをこぼすグレン。
 自分の偽物と距離を取り、のの花の方へ斬りかかった。

<【驚異的な回避術】>

 グレンの長剣が宙を斬る。

「これかい?」
「これです。効果時間は5分です」
「分かった。のの花ちゃん、後ろ」
「気付いてます」

 グレンの偽物がのの花に斬りかかるが、察知していたのの花は大盾で防いだ。

<【不動の心】>

 のの花の分身は、冷静にスキルを使っていく。

「グレンさん、【不動の心】を使ったら1分は動けません!!今のうちにグレンさんの偽物を!!」
「分かった!!出来るだけ削るとしよう!!あ、ちなみに僕には、特殊攻撃通るからね」
「了解です!!」

 一旦のの花の偽物は放置し、グレンの方を削れる限り削ることにした。

「【五流剣・炎剣】!!」
<【五流剣・水剣】>

 グレンの燃える剣と偽物の水をまとまった剣がぶつかり合う。
 炎が消され、水が蒸発した。
 拮抗した力がせめぎ合い、お互いによろけて一歩下がる。

「今だ!!子猫ちゃん!!」
「はい!!【太陽砲】!!」

 グレンの合図で、のの花が太陽のごとく巨大な火の玉を撃ちこむ。
 落下した太陽が、地面を思いっきりえぐった。

「当たりましたか⁉」
「かすったね。ただ、ほとんどは避けられたよ」
「そんな……」
「それよりも、あっちの子猫ちゃんが復活しそうだ」

 グレンの指さす先で、のの花の偽物が斧を構えている。

「遠距離から斬撃を飛ばしてきます!!お腹の高さ辺りに水平に!!」

 武器で直接斬る訳ではないので、斧で斬撃を飛ばす【四方裂き】は特殊攻撃。
 のの花に特殊攻撃が当たらないのは相手も承知済みだから、これはグレンだけを狙った攻撃だ。

「【曲芸演武・空中散歩】!!」

 偽物のの花が斧を振るより早く、グレンが飛び上がる。

 ―回避が早すぎる!!

 のの花が焦るが、グレンがそんなイージーミスをするはずがなかった。

「あ、あれ?」

 飛び上がった足の下を、斬撃が通り過ぎていく。
 グレンはそれを悠々と見送った。

「さあ、子猫ちゃんと僕を騙る亡霊《ゴースト》たち。ショータイムを始めようじゃないか」

 空中にとどまったまま、高々と両手を掲げる。
 危機にも笑顔を絶やさない、むしろ危機でこそ笑顔になるその姿に、のの花も自然と笑っていた。

「そのショータイム、お付き合いします!!」
「何言ってるんだい?君も主役さ!!」

 2人の呼吸が、自然とそろっていく。

「グレンさん!!1分耐えられますか⁉」
「当然!!」
「お願いします!!【驚異的な回避術】!!【不動の心】!!」
「1分、短すぎるくらいさ」
<【太陽砲】>
<【五流剣・炎剣】>

 偽物2人が、同時に攻撃に出る。
 グレンは、余裕の表情を崩さない。

「君たちは仲が悪いのかい?同時に火で攻撃してきたら、防ぎやすくなっちゃうじゃないか」

 偽物たちの間には、のの花とグレンのような連携がない。
 これは、チームを組んだからこそ生まれる有利な状況だ。

「【曲芸演武・火喰い】!!」

【太陽砲】と【五流剣・炎剣】を堂々と受け止めるグレン。
 しかし、その体は全くダメージを受けていない。

「美味しかったよ。ただ、ちょっと温度が足りないかな」

 グレンは軽く咳をして、口から黒い煙を吐き出す。

「こっちのターンだね」

 最強の剣士が剣を構え、不敵に笑った。
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