俺の召喚獣たちはデバフがかかってるくらいでちょうどいい。

メルメア

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第9話

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「それで、私たちは今どこに向かってるの？」

「サングロワの森だ。ゴーレムよりも強いモンスターが多く出没する場所だな」

　冒険者ランクを上げるのに必要なこと。
　それは何と言っても実績だ。
　出来るだけ強いモンスターを、出来るだけ多く倒すこと。
　これ以上の近道はない。

　厳密に言えば、サングロワの森はEランク冒険者が立ち入ることを推奨されていない。
　一般的なEランク冒険者の実力に対し、出てくるモンスターが強いからだ。
　でも絶対に入ってはいけないというわけでもなく、最終的には自己責任なので、俺らは躊躇なく入っていく。
　何せ俺のデバフさえあれば、大抵のモンスターはスライムと変わらないからな。

「むっ、早速のお出ましだよ」

「了解」

「準備に入ります」

　ネミリが敵を察知すると、全員が直ちに特性を発動して戦闘に備える。
　出会ってからまだ日は浅いが、だいぶ連携も良くなってきた。

「【筋力低下アスト】【速度低下ギルホス】【攻撃力低下メルガ】」

「ちょぉ！？何するの？」

「ご主人様これは一体？」

「リミッターだよ。【破滅への導き手】の影響を受けただけだと、まだ攻撃の威力がでかすぎるからな。遠距離攻撃をした時に、流れ弾でやられたらたまったもんじゃない」

　彼女たちが始めてスライムを倒した時も、それはそれはすさまじい風圧と衝撃を感じだ。
　デバフを重ねがけするくらいが、逆にちょうどいいだろう。
　ただ当然、このデバフは俺にもかかっているわけで。

「俺はもうマジで動けないからな。流れ弾だけは注意してくれよ」

「かしこまりました」

「むーむーむーむー。動きづらい動きづらいー」

　レイネが頭を下げ、ネミリが文句を言っている間に、モンスターがその姿を現す。
　が、すぐにデバフの影響を受けて地面に突っ伏した。
　これは……アンデッドスパイダーというモンスターだ。
　毒系の攻撃をしてくるが、最大の特徴は一度致命的な攻撃をしても復活するということにある。
　つまりは2回殺さないといけないのだ

「ほんと、グレンが自分にデバフをかけさえしなきゃ最強なのにね。何でも一撃で倒せるじゃん」

「全くだ。まあ、その代わりにお前らがいてくれるということで。ちなみにこいつ、2回殺さないと死なないからな」

「ま、攻撃は任せといてよ。じゃあレイネよろしく」

「お前はやらねえのかよ！」

「仕方ないわね」

　レイネが了承すると、ネミリはぴょんとジャンプする。
　空中で1回転して、少し離れた俺の前に着地した。

「むー。やっぱ動きづらい」

「十分動けてるから安心しろ」

　レイネはすでに戦闘準備に入っている。
　高く飛び上がり、空中で体勢を整えた。

「あの状態の敵にあそこまでするかね」

「あれしかできないの。軽くちょんっと攻撃するみたいな能力は、あいにく私たちは持ってないからね」

「不便なもんだよな」

「だからお互い様だって」

　飛び上がっていたレイネが、一気に急降下しつつ両手に1本ずつ炎の矢を宿す。
　俺は慌てた。
　万が一、リミッターがこれでも不十分だった場合、森が火災になってしまう可能性がある。

「【炎能力低下グレズム】」

　俺は【筋力低下アスト】のせいで上手く動かない手を震わせながら何とか伸ばし、レイネにデバフをかけた。
　彼女が攻撃を放つ寸前、何とか間に合ったようだ。

「【炎滅矢リザバス】」

　右手から放たれた炎の矢がアンデッドスパイダーを貫く。
　まずは一発。でもこれでは死なない。
　しかしすぐさま左手の矢が襲い掛かる。
　2本の矢が確実に命中し、地面からはもうもうと土埃が舞い上がった。

　モンスターが倒れたかどうかは確認するまでもない。
　問題は火事が起きていないかだけど……

　大丈夫そうだな。
　土埃が散ったあとには、炭とかしたアンデッドスパイダーと丸く焦げた地面が残されている。
　ドロップアイテムも無事みたいだ。

「これがドロップアイテム？これもぽよぽよしてるね」

　ネミリが紫色の丸いアイテムを拾い上げた。
　俺もデバフを全て解除して近づく。

「よく触れるな。普通、さっきまでのデバフかかった状態で触ったら相当ダメージを受けるはずなんだが」

「これ、そんなにやばいの？」

「アンデッドスパイダーのドロップアイテムは、猛毒の入った毒袋だ。この中に入ってる毒を、武器に仕込んだりして使う冒険者もいる」

「なーるほど。そういえば毒もデバフのうちに入らなかったっけ？グレンも毒を使えば敵を倒せるんじゃ？」

「面白い冗談を言うな。俺が毒なんか使ったら、敵が倒せても自分も死ぬだろうが」

「あ、そっか」

　前に1回やったことがあるな。
　あの時は確か、そのあと1週間くらい意識不明になったんだっけ。
　それ以来、俺は毒なんか使っていない。

「それとレイネ。炎系の能力を使う時は気を付けてくれ。火事が起きたら大変だからな」

「申し訳ありませんでした」

「はいよ。それじゃあ先に進むか」

　俺たちはまた森の中を歩き始める。
　しばらくして、ネミリが立ち止まった。

「モンスターか？」

「ううん。人間みたい」

「じゃあ冒険者だな。それ以外はこんなところ、滅多に立ち入らない」

　木の影から、3人の冒険者が姿を現す。
　男が1人に女が2人。
　真ん中にいる長剣を持った男に、俺は見覚えがあった。
　名前はちょっと覚えてないけど、少し離れた支部に在籍する冒険者だ。
　前に一度、俺の能力を聞きつけてパーティーに勧誘してきたが、即日追放しやがった。
　ちゃんと俺の能力について説明した上で、それでもいいからと勧誘したくせになぁ。

「……これはこれは。いつぞやのクッソクッソクッソ使えないデバフ冒険者じゃないか」

　レイネとネミリの額に青筋が浮かぶ。
　おい、名前は覚えてないけどお前、絶対に触れちゃいけない逆鱗に触れたぞ。

「これはこれは。いつぞや俺のデバフ食らって一歩も動けなかった冒険者じゃないか」

「ご主人様、やりましょうか？」

「今のレイネの顔で言うと『やる』が『殺る』に変換されるんだが？」

「あいにく手加減できませんので、結果的にそうなってしまうかもしれません」

「怖いことをさらっと言うなよ」

「何をごちゃごちゃ言ってんだ……って、めちゃんこかわいい子猫ちゃんじゃないか！」

　レイネとネミリを見て、男の顔がパッと輝く。
　そういえばこいつ、ひたすらに女好きだったっけ。
　名前は覚えてないけどそれは覚えてるんだよなぁ。

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