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第1章 変わる日常
第13節 ごまかしと高等魔法
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グラフォスの思考はアカネの興味から一転焦りへと変わっていた。
「ミン姉、それは僕が昨日話したはずでは……?」
「この子からも話を聞いておきたいじゃないか。ああ別にフォスの話を信じていないというわけではないよ」
ミンネはやはり疑っている。森の最奥にはこの街のほんの一握りのランクの高い冒険者しか討伐できないモンスターも存在しているという。
もちろん実際に確認して戻ってきた冒険者が少ないから噂の域を超えないわけだが。
グラフォスは実際に見たわけではないため、この話を信じているか信じていないかと言われれば信じていない。
それでもそんな噂がある森から無傷で街に出てくるなど確かに疑われても仕方がない。
「え、無傷? 私あのときグラフォスむぐっ!!」
気づけばグラフォスは立ち上がり、アカネの背後に回るととっさに彼女の口を自分の両手で押さえていた。
これ以上ミンネに話の続きを聞かせるわけにはいかない。アカネは何も悪くないしただ事実を伝えようとしただけれど、グラフォスにとっては一大事である。
仕方がない対処の仕方なのである。あくまでもグラフォスにとってはであるが。
「あの時アカネは意識がもうろうとしてましたから! 彼女は自己治癒魔法が使えるんですよ! だから何とか無傷で森を出られたんですよ! そうですよね!? ね!?」
グラフォスのあまりの必死な様子にアカネは何かを感じ取ったのか、もごもごと何かしゃべりながらも必死で首を縦に動かす。
「あんたアカネちゃんになんてことしてんだい!」
ミンネの激しい口調にグラフォスはようやく冷静さを取り戻し、今の現状を見返す。
グラフォスは彼女の後ろから腕を回す形で、アカネの口を右手で押さえていた。
冷静になると彼女が必死に何かしゃべろうとするたびに、温かい唇ともごもごと動く感触がくすぐったい。はたから見れば連れ去ってやましいことをしようとしている誘拐犯同然だ。
自分が自ら追いやった状況のまずさに気付いたグラフォスは、急いでアカネの口から手を離すと彼女から少し距離を取る。
「すいません、つい……」
「いえ、大丈夫……です」
アカネは若干涙目になり少し頬を赤くし、乱れた髪を直しながらもグラフォスの謝罪に返事をしてくれた。
しかしミンネの不信感は最高潮のはずだ。
勝負はまだ終わっていない。かといっていい弁明方法も思いつかないグラフォスはとりあえず口を開くことにした。
「まあミン姉、彼女は高等な治癒師。だから無事だったんですよ。そういうことです。僕も彼女のことはよく知らないですけどきっとそういうことです」
我ながら論理のろの字もない説明すらできていないひどい内容だと思う。
しかしここでミンネから目をそらしてしまっても余計に突っ込まれるに決まっている。ここは信じてくれなくてもミンネに折れてもらうしかない。
わけのわからない思考の中数秒かはたまた一瞬グラフォスとミンネの視線はぶつかり合う。
「ふ~ん、怪しすぎるけどとりあえずそういうことにしておこうかい。アカネちゃんはこうして無事なわけだし?」
ミンネは何かをあきらめたかのように大きくため息をつくと首を振った。
ミンネが折れてくれたことにほっと一安心つくグラフォス。
きっとミンネはグラフォスが何か隠していることに当然気づいているだろうが、追及することを何とか避けてくれたようだ。
「確かに高等な治癒士なのかもしれないね。アカネちゃんが自己治癒魔法を使っていたっていう部分が気になる。それは本当かい?」
「……はい、あまり記憶はありませんけどとっさにそういう魔法を使っていたと思います」
意識せずに自己治癒魔法を使える。そんな治癒士の話は聞いたことがない。たいていの場合は長い詠唱を得て一時間継続するかしないかの魔法のはずだ。
彼女の魔法のレベルは高等なんてものじゃないかもしれない。
そんな考えがグラフォスの頭によぎる。
もしくはグラフォスの知らないそういった簡易魔法が存在していて、それを使って生き延びたのかもしれない。
「とっさにねえ……。それはすごいことだよ」
「そうなんですか?」
ミンネも同様の考えを抱いている様子だったが、魔法を使用したアカネ自身には自覚がないようだった。
「……ま、これ以上質問攻めにしても疲れるだけだろ! 本人がわからないことを根掘り葉掘り聞いても仕方ないしね。今日も良ければ泊っていきな。話を聞く限りじゃ行く当てもなさそうだしね」
「逃げてしまったのにお世話になっていいんですか?」
「終わったことはもういいんだよ! 甘えられるうちに甘えときな」
ミンネはにかっと笑うと優しくアカネの頭をなでた。
「すいません、お世話になります……」
「ま、そのうち働いてもらうだろうけどね!」
「ここにはこれ以上働き手が増えても意味がないような気もしますけど……」
「あんたは余計なことを言わない!」
ミンネはグラフォスの気の抜けた反論に一喝しながら、アカネの背中を押しながら部屋を出て行った。
「フォスはそこに残っときな!」
そんな捨て台詞を残しながら廊下へと消えていったミンネとアカネを見送りながら、グラフォスはミンネの言いつけを守るため椅子に再度腰かけて大きく伸びをするのであった。
「ミン姉、それは僕が昨日話したはずでは……?」
「この子からも話を聞いておきたいじゃないか。ああ別にフォスの話を信じていないというわけではないよ」
ミンネはやはり疑っている。森の最奥にはこの街のほんの一握りのランクの高い冒険者しか討伐できないモンスターも存在しているという。
もちろん実際に確認して戻ってきた冒険者が少ないから噂の域を超えないわけだが。
グラフォスは実際に見たわけではないため、この話を信じているか信じていないかと言われれば信じていない。
それでもそんな噂がある森から無傷で街に出てくるなど確かに疑われても仕方がない。
「え、無傷? 私あのときグラフォスむぐっ!!」
気づけばグラフォスは立ち上がり、アカネの背後に回るととっさに彼女の口を自分の両手で押さえていた。
これ以上ミンネに話の続きを聞かせるわけにはいかない。アカネは何も悪くないしただ事実を伝えようとしただけれど、グラフォスにとっては一大事である。
仕方がない対処の仕方なのである。あくまでもグラフォスにとってはであるが。
「あの時アカネは意識がもうろうとしてましたから! 彼女は自己治癒魔法が使えるんですよ! だから何とか無傷で森を出られたんですよ! そうですよね!? ね!?」
グラフォスのあまりの必死な様子にアカネは何かを感じ取ったのか、もごもごと何かしゃべりながらも必死で首を縦に動かす。
「あんたアカネちゃんになんてことしてんだい!」
ミンネの激しい口調にグラフォスはようやく冷静さを取り戻し、今の現状を見返す。
グラフォスは彼女の後ろから腕を回す形で、アカネの口を右手で押さえていた。
冷静になると彼女が必死に何かしゃべろうとするたびに、温かい唇ともごもごと動く感触がくすぐったい。はたから見れば連れ去ってやましいことをしようとしている誘拐犯同然だ。
自分が自ら追いやった状況のまずさに気付いたグラフォスは、急いでアカネの口から手を離すと彼女から少し距離を取る。
「すいません、つい……」
「いえ、大丈夫……です」
アカネは若干涙目になり少し頬を赤くし、乱れた髪を直しながらもグラフォスの謝罪に返事をしてくれた。
しかしミンネの不信感は最高潮のはずだ。
勝負はまだ終わっていない。かといっていい弁明方法も思いつかないグラフォスはとりあえず口を開くことにした。
「まあミン姉、彼女は高等な治癒師。だから無事だったんですよ。そういうことです。僕も彼女のことはよく知らないですけどきっとそういうことです」
我ながら論理のろの字もない説明すらできていないひどい内容だと思う。
しかしここでミンネから目をそらしてしまっても余計に突っ込まれるに決まっている。ここは信じてくれなくてもミンネに折れてもらうしかない。
わけのわからない思考の中数秒かはたまた一瞬グラフォスとミンネの視線はぶつかり合う。
「ふ~ん、怪しすぎるけどとりあえずそういうことにしておこうかい。アカネちゃんはこうして無事なわけだし?」
ミンネは何かをあきらめたかのように大きくため息をつくと首を振った。
ミンネが折れてくれたことにほっと一安心つくグラフォス。
きっとミンネはグラフォスが何か隠していることに当然気づいているだろうが、追及することを何とか避けてくれたようだ。
「確かに高等な治癒士なのかもしれないね。アカネちゃんが自己治癒魔法を使っていたっていう部分が気になる。それは本当かい?」
「……はい、あまり記憶はありませんけどとっさにそういう魔法を使っていたと思います」
意識せずに自己治癒魔法を使える。そんな治癒士の話は聞いたことがない。たいていの場合は長い詠唱を得て一時間継続するかしないかの魔法のはずだ。
彼女の魔法のレベルは高等なんてものじゃないかもしれない。
そんな考えがグラフォスの頭によぎる。
もしくはグラフォスの知らないそういった簡易魔法が存在していて、それを使って生き延びたのかもしれない。
「とっさにねえ……。それはすごいことだよ」
「そうなんですか?」
ミンネも同様の考えを抱いている様子だったが、魔法を使用したアカネ自身には自覚がないようだった。
「……ま、これ以上質問攻めにしても疲れるだけだろ! 本人がわからないことを根掘り葉掘り聞いても仕方ないしね。今日も良ければ泊っていきな。話を聞く限りじゃ行く当てもなさそうだしね」
「逃げてしまったのにお世話になっていいんですか?」
「終わったことはもういいんだよ! 甘えられるうちに甘えときな」
ミンネはにかっと笑うと優しくアカネの頭をなでた。
「すいません、お世話になります……」
「ま、そのうち働いてもらうだろうけどね!」
「ここにはこれ以上働き手が増えても意味がないような気もしますけど……」
「あんたは余計なことを言わない!」
ミンネはグラフォスの気の抜けた反論に一喝しながら、アカネの背中を押しながら部屋を出て行った。
「フォスはそこに残っときな!」
そんな捨て台詞を残しながら廊下へと消えていったミンネとアカネを見送りながら、グラフォスはミンネの言いつけを守るため椅子に再度腰かけて大きく伸びをするのであった。
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