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第1章 変わる日常
第20節 子どもたちの夢と行きたいところ
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グラフォスは目を閉じながら本をぱたんと閉じる。
一瞬彼の周りに静寂が広がるが、後方に立っていた大人たちの手をたたく音を皮切りに子どもたちも一斉に拍手をした。
アカネも子どもたちと同じようにきらきらとした目をこちらに向けながら胸の前で小さく拍手をしていた。
「やっぱり選ばれるなら『剣闘士』だよな!」
「えー私は『魔術士』がいいなー」
「僕は『生花士』がいいな」
「生花士? 男なら剣か拳だろー!」
拍手をやめた子どもたちは一斉に固まると各々なりたい職業を身振り手振りで話している。
彼らも確か近々『選定の儀』があるはずだ。このころの話題など選定職業の話題しかないだろう。
「グラフォスも『書き師』じゃなくて『吟遊士』に選ばれればよかったのになー!」
「バカ! グラフォス兄ちゃんのお話聞いてなかったのか! 『書き師』も極めれば立派な職業なんだよ!」
「そういうことです。僕は好きで書き師を選びましたからね」
「ねえねえお姉ちゃんは何の職業なの?」
「え、私!? 私は……えっと……」
「はい、今日はここまで。もう暗くなるんだからまっすぐおうちに帰ってください」
子どもたちに職業の話を振られ、あからさまにうろたえるアカネをかばうように彼女の前に立ったグラフォス。
再びアカネに群がろうとしていた子どもたちを頭をなでたり、背中を押したりすることでそれを引き留めていた。
「えーなんでだよー、グラフォスのけちー」
「そうだそうだー」
「君たちの帰りが遅くなって怒られるのは僕なんですから。お話ならまた今度いつでも聞かせてあげるから、ほら帰った帰った!」
「約束だからねー?」
「今度はグラフォス兄ちゃんが作った話ね!」
「わかりましたわかりました」
その言葉を聞きようやく子どもたちは帰路へと足を向ける。
満面の笑みで手を振ってくる彼らにグラフォスは苦笑いを浮かべながら見送っていた。
その隣でアカネもほのかに口角をあげながら子供たちに手を振り返していた。
「み~つけた」
物陰からアカネのことを不穏な目で見つめるひとつの影がいたことに気づくこともなく……。
「グラフォス君、さっきはありがとう」
子どもたちの姿が見えなくなったころ、二人は再び椅子に腰かけると話し始めた。
「さっきって何のことですか?」
「私が子どもたちに職業聞かれたとき、ごまかしてくれて」
「……ああ。まあなんてことはないですよ」
自分の行動の真意を見抜かれていたことに少し照れを覚えたグラフォスは、それを隠すように苦笑いを浮かべながら頬を掻く。
「それよりももう日が暮れてしまいそうですね……。結局ミン姉にもらったお金もあまり使ってないですし……どうしましょうか」
「確かに言われてみれば、この串焼きを買ったくらいかな?」
普段から外でお金を使う習慣がないグラフォスに加えて、この街の知識がないアカネ。
そんな二人が急に大金を持ったとしても、一日で使えるほどの行動力があるはずもなかった。
「アカネはどこか行きたい場所とかありますか?」
「んー……」
突如そう尋ねられ特に何も考えていなかったのかアカネは首をひねりながら考えるそぶりを見せる。
少しの間悩んだアカネはグラフォスのわきに置かれているリュックに目を向けて、何かを思いついたかのように表情が晴れやかになった。
「どうしました?」
「グラフォス君っていつもそんなに本を持ち歩いてるの?」
「ええ、これは僕の財産ですからね。これだけは何があっても手放せません」
「本とかってヴィブラリー以外でも売ってるの?」
「いえいえ、ああいう一般向けの本は今時商売になりませんから。この街でああいう魔物書とか魔法書を売ってるのはうちくらいですよ」
「そうなんだ……。じゃあグラフォス君が持っている本もヴィブラリーのもの?」
「いえ、僕のは中身が白紙ですから違います。……ちょうどいいですから、よかったら行ってみます? まだやってるかどうかわからないですし、行っても楽しくはないかもしれませんが」
「行ってみたい!」
アカネはその日一番の大きな声を出すと目を輝かせながら立ち上がる。そして大きな声を出してしまったことに恥ずかしさを覚えたのか、周りをきょろきょろすると顔を赤くしてうつむいてしまった。
「ほんとに楽しくはないとは思いますよ?」
そんなアカネの様子を見ながらグラフォスもかすかに微笑みながら立ち上がると、リュックを背負う。
グラフォスが持つ本に何か彼女の琴線に触れる部分があったのだろうか。
「グラフォス君が普段言ってるところが気になるなあと思って……。そ、それに表紙とかきれいだなと思って!」
「じゃあ行ってみますか」
「うん!」
グラフォスは軽く伸びをして答えると、町はずれに向かって歩き始める。その後ろを恭しくついていくアカネであった。
一瞬彼の周りに静寂が広がるが、後方に立っていた大人たちの手をたたく音を皮切りに子どもたちも一斉に拍手をした。
アカネも子どもたちと同じようにきらきらとした目をこちらに向けながら胸の前で小さく拍手をしていた。
「やっぱり選ばれるなら『剣闘士』だよな!」
「えー私は『魔術士』がいいなー」
「僕は『生花士』がいいな」
「生花士? 男なら剣か拳だろー!」
拍手をやめた子どもたちは一斉に固まると各々なりたい職業を身振り手振りで話している。
彼らも確か近々『選定の儀』があるはずだ。このころの話題など選定職業の話題しかないだろう。
「グラフォスも『書き師』じゃなくて『吟遊士』に選ばれればよかったのになー!」
「バカ! グラフォス兄ちゃんのお話聞いてなかったのか! 『書き師』も極めれば立派な職業なんだよ!」
「そういうことです。僕は好きで書き師を選びましたからね」
「ねえねえお姉ちゃんは何の職業なの?」
「え、私!? 私は……えっと……」
「はい、今日はここまで。もう暗くなるんだからまっすぐおうちに帰ってください」
子どもたちに職業の話を振られ、あからさまにうろたえるアカネをかばうように彼女の前に立ったグラフォス。
再びアカネに群がろうとしていた子どもたちを頭をなでたり、背中を押したりすることでそれを引き留めていた。
「えーなんでだよー、グラフォスのけちー」
「そうだそうだー」
「君たちの帰りが遅くなって怒られるのは僕なんですから。お話ならまた今度いつでも聞かせてあげるから、ほら帰った帰った!」
「約束だからねー?」
「今度はグラフォス兄ちゃんが作った話ね!」
「わかりましたわかりました」
その言葉を聞きようやく子どもたちは帰路へと足を向ける。
満面の笑みで手を振ってくる彼らにグラフォスは苦笑いを浮かべながら見送っていた。
その隣でアカネもほのかに口角をあげながら子供たちに手を振り返していた。
「み~つけた」
物陰からアカネのことを不穏な目で見つめるひとつの影がいたことに気づくこともなく……。
「グラフォス君、さっきはありがとう」
子どもたちの姿が見えなくなったころ、二人は再び椅子に腰かけると話し始めた。
「さっきって何のことですか?」
「私が子どもたちに職業聞かれたとき、ごまかしてくれて」
「……ああ。まあなんてことはないですよ」
自分の行動の真意を見抜かれていたことに少し照れを覚えたグラフォスは、それを隠すように苦笑いを浮かべながら頬を掻く。
「それよりももう日が暮れてしまいそうですね……。結局ミン姉にもらったお金もあまり使ってないですし……どうしましょうか」
「確かに言われてみれば、この串焼きを買ったくらいかな?」
普段から外でお金を使う習慣がないグラフォスに加えて、この街の知識がないアカネ。
そんな二人が急に大金を持ったとしても、一日で使えるほどの行動力があるはずもなかった。
「アカネはどこか行きたい場所とかありますか?」
「んー……」
突如そう尋ねられ特に何も考えていなかったのかアカネは首をひねりながら考えるそぶりを見せる。
少しの間悩んだアカネはグラフォスのわきに置かれているリュックに目を向けて、何かを思いついたかのように表情が晴れやかになった。
「どうしました?」
「グラフォス君っていつもそんなに本を持ち歩いてるの?」
「ええ、これは僕の財産ですからね。これだけは何があっても手放せません」
「本とかってヴィブラリー以外でも売ってるの?」
「いえいえ、ああいう一般向けの本は今時商売になりませんから。この街でああいう魔物書とか魔法書を売ってるのはうちくらいですよ」
「そうなんだ……。じゃあグラフォス君が持っている本もヴィブラリーのもの?」
「いえ、僕のは中身が白紙ですから違います。……ちょうどいいですから、よかったら行ってみます? まだやってるかどうかわからないですし、行っても楽しくはないかもしれませんが」
「行ってみたい!」
アカネはその日一番の大きな声を出すと目を輝かせながら立ち上がる。そして大きな声を出してしまったことに恥ずかしさを覚えたのか、周りをきょろきょろすると顔を赤くしてうつむいてしまった。
「ほんとに楽しくはないとは思いますよ?」
そんなアカネの様子を見ながらグラフォスもかすかに微笑みながら立ち上がると、リュックを背負う。
グラフォスが持つ本に何か彼女の琴線に触れる部分があったのだろうか。
「グラフォス君が普段言ってるところが気になるなあと思って……。そ、それに表紙とかきれいだなと思って!」
「じゃあ行ってみますか」
「うん!」
グラフォスは軽く伸びをして答えると、町はずれに向かって歩き始める。その後ろを恭しくついていくアカネであった。
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