10 / 10
僕は僕です!
「誰だ!お前らは!」
「……歓迎ムードじゃなさそうですね。仕方ない」
ユイがポケットから目薬を取り出して、構えた。
……え?泣き真似の準備?いや、そこは剣であれよ。
「結構な人数ですよ。ひとまず僕はあの端の男のところへ……」
「待て待て。一人くらい目潰しをしてもキリがない。お前はセラヴィスと一緒に岩陰に隠れてろ」
「OKです!」
いい返事だ!そんなに戦いが嫌いなら勇者の称号は今すぐ捨てて欲しい!
魔族達はジリジリと間合いを詰めてくる。一斉に飛びかかってくるのも時間の問題だ。
数にして約二十人ほど。これはまとめて片をつけないと厄介な事になる。
「……魔物ども、来るなら来てみろ」
クレイドは黒衣の裾を払って前へ出た。そして片手を掲げ、指先で空に印を描く。音もなく、淡く青白い魔法陣が空中に広がった。
「——我が言霊にて終幕を降ろせ
黒き帳よ、迷いし魂を包め
『終刻の葬(しゅうこくのもがり)』!」
魔法陣から光が走り、地に刻まれた紋様が魔族たちの足元を囲む。
「っ……!」
「身体が……動かん……!」
一人、また一人とその場に崩れ落ちる。死にはしないが、もう動くことは出来ない。
「……命は取らない。私は葬送士だからな」
だが——岩陰から新たに一人の男が飛び出し、クレイドの死角から背後に周って鉈を振り上げた。
「クレイド!後ろ!」
ユイが叫びながら短剣を投げた。それは魔族の足を貫き、屈強な体に蹈鞴を踏ませる。
「——薄き霧となりて目を塞げ
彼らを夢へと導け
『静寂の楔(せいじゃくのくさび)』!」
爆ぜるような光が全ての敵を包み、魔力が彼らの意識を眠りに誘う。数息の後、全員が地に倒れ、意識を失った。
「凄いですね!便利な技です」
「魔法な?便利とか言うんじゃない」
「それより、ひとまずここから出ないといけないですね」
「ああ、もう気は済んだか?セルヴィス」
「……うあうあう……」
何かを言いたげに必死で手を動かすが、また言葉が元に戻ってしまった。
……流石に回復が早すぎると思ったんだ。とりあえずユイとセルヴィスをここから連れ出さなくては。
「誰だ?お前らは……」
霧の奥から男が現れた。黒銀の双角を持つ堂々たるその姿。明らかに別格の力を持った魔物だ。
男はクレイドたちの前で立ち止まり、その惨状に息を飲む。
「勝手に我らの住処に忍び込み、罪もない相手にこんな事を……何故だ」
「うっ……」
……言われてみれば確かにそうだ。
『魔物は倒すもの』それは人間が持っている当然の考えだった。
けれどこの男の言うことは正論だ。
「安心してください。一人も殺していません。勝手に入ったのは謝りますが、襲い掛かられたんですから正当防衛です」
「……だが、勝手に我らの住処に……」
「それはさっき謝りました。言葉が話せるなら意思疎通を図るべきではないですか?そんなんだから魔物はとか言われるんですよ」
「ぐう……」
……こいつの屁理屈凄い。
クレイドは口さえ挟めず、二人のやり取りを見守る。
「そんなわけで僕たちは失礼します」
「……待て、お前見たことあるな?」
「えっ」
魔物はユイの顔をしげしげと眺め、首を捻った。
「よくある顔ですから。じゃあこれで」
「あっ!!お前、魔王様を倒しに来た勇者じゃないか!!よくも魔王様を!」
「……油断した魔王が悪いんです」
「何てことを!魔王様はお前が女だから情けをかけただけだろうが!」
……は?
……女?誰が?ユイ?
思いもよらぬ魔物の言葉にクレイドは驚愕した。
「男とか女とか関係あります?そもそも僕は自分が女だなんて一言も言ってません」
「じゃあ男なのか?」
「そんなことあなたに言う必要ありますか?僕は僕です。干渉しないでください」
「……う」
反抗期の子供に対峙しているような魔物の姿に、クレイドは少し魔族に対する自分の偏見を疑った。そもそも普通はこんな風に話をするほど身近にいない相手なのだ。
「……歓迎ムードじゃなさそうですね。仕方ない」
ユイがポケットから目薬を取り出して、構えた。
……え?泣き真似の準備?いや、そこは剣であれよ。
「結構な人数ですよ。ひとまず僕はあの端の男のところへ……」
「待て待て。一人くらい目潰しをしてもキリがない。お前はセラヴィスと一緒に岩陰に隠れてろ」
「OKです!」
いい返事だ!そんなに戦いが嫌いなら勇者の称号は今すぐ捨てて欲しい!
魔族達はジリジリと間合いを詰めてくる。一斉に飛びかかってくるのも時間の問題だ。
数にして約二十人ほど。これはまとめて片をつけないと厄介な事になる。
「……魔物ども、来るなら来てみろ」
クレイドは黒衣の裾を払って前へ出た。そして片手を掲げ、指先で空に印を描く。音もなく、淡く青白い魔法陣が空中に広がった。
「——我が言霊にて終幕を降ろせ
黒き帳よ、迷いし魂を包め
『終刻の葬(しゅうこくのもがり)』!」
魔法陣から光が走り、地に刻まれた紋様が魔族たちの足元を囲む。
「っ……!」
「身体が……動かん……!」
一人、また一人とその場に崩れ落ちる。死にはしないが、もう動くことは出来ない。
「……命は取らない。私は葬送士だからな」
だが——岩陰から新たに一人の男が飛び出し、クレイドの死角から背後に周って鉈を振り上げた。
「クレイド!後ろ!」
ユイが叫びながら短剣を投げた。それは魔族の足を貫き、屈強な体に蹈鞴を踏ませる。
「——薄き霧となりて目を塞げ
彼らを夢へと導け
『静寂の楔(せいじゃくのくさび)』!」
爆ぜるような光が全ての敵を包み、魔力が彼らの意識を眠りに誘う。数息の後、全員が地に倒れ、意識を失った。
「凄いですね!便利な技です」
「魔法な?便利とか言うんじゃない」
「それより、ひとまずここから出ないといけないですね」
「ああ、もう気は済んだか?セルヴィス」
「……うあうあう……」
何かを言いたげに必死で手を動かすが、また言葉が元に戻ってしまった。
……流石に回復が早すぎると思ったんだ。とりあえずユイとセルヴィスをここから連れ出さなくては。
「誰だ?お前らは……」
霧の奥から男が現れた。黒銀の双角を持つ堂々たるその姿。明らかに別格の力を持った魔物だ。
男はクレイドたちの前で立ち止まり、その惨状に息を飲む。
「勝手に我らの住処に忍び込み、罪もない相手にこんな事を……何故だ」
「うっ……」
……言われてみれば確かにそうだ。
『魔物は倒すもの』それは人間が持っている当然の考えだった。
けれどこの男の言うことは正論だ。
「安心してください。一人も殺していません。勝手に入ったのは謝りますが、襲い掛かられたんですから正当防衛です」
「……だが、勝手に我らの住処に……」
「それはさっき謝りました。言葉が話せるなら意思疎通を図るべきではないですか?そんなんだから魔物はとか言われるんですよ」
「ぐう……」
……こいつの屁理屈凄い。
クレイドは口さえ挟めず、二人のやり取りを見守る。
「そんなわけで僕たちは失礼します」
「……待て、お前見たことあるな?」
「えっ」
魔物はユイの顔をしげしげと眺め、首を捻った。
「よくある顔ですから。じゃあこれで」
「あっ!!お前、魔王様を倒しに来た勇者じゃないか!!よくも魔王様を!」
「……油断した魔王が悪いんです」
「何てことを!魔王様はお前が女だから情けをかけただけだろうが!」
……は?
……女?誰が?ユイ?
思いもよらぬ魔物の言葉にクレイドは驚愕した。
「男とか女とか関係あります?そもそも僕は自分が女だなんて一言も言ってません」
「じゃあ男なのか?」
「そんなことあなたに言う必要ありますか?僕は僕です。干渉しないでください」
「……う」
反抗期の子供に対峙しているような魔物の姿に、クレイドは少し魔族に対する自分の偏見を疑った。そもそも普通はこんな風に話をするほど身近にいない相手なのだ。
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
私たちの離婚幸福論
桔梗
恋愛
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。
しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。
彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。
信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。
だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。
それは救済か、あるいは——
真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
思いを込めてあなたに贈る
あんど もあ
ファンタジー
ファナの母が亡くなった二ヶ月後に、父は新しい妻とその妻との間に生まれた赤ん坊を家に連れて来た。義母は、お前はもうこの家の後継者では無いと母から受け継いだ家宝のネックレスを奪うが、そのネックレスは……。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
初恋の終わりは
あんど もあ
ファンタジー
おてんばで無邪気な少女と婚約した、第一王子の私。だが十年後、彼女は無表情な淑女となっていた。その事に耐えられなくなって婚約解消したのだが、彼女は「これからは、好きな物は好きだと突き進ませていただきます!」と言わんばかりに豹変! そんな彼女と反対に、私には問題が降りかかり……。