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vs翡翠 2
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浩二はしばらくして仕事の為に事務所を出て行き、退屈になった俺はいつの間にか寝ていたらしい。
目の前に薄いカーテンが引かれ体には毛布が掛かっている。
賢士が掛けてくれたのかな。
俺は小さくあくびをした。
その時
勢いよくカーテンが開けられ仁王立ちの翡翠が俺を睨みつける。
「な・・なに?賢士は?」
「うるさい」
俺の質問には答えず冷たい声でそう言い放つ。
「お前邪魔なんだよ」
「え?」
「賢士は俺の運命なんだよ。分かってんだろ?さっさと賢士の前から消えろ」
「だって別れたって言ってた!」
翡翠の目は深く暗い青で海底に引き摺り込まれるような気がした俺は慌てて目を逸らした。
「うるさいチビ!別れたんじゃない。それぞれ自分の道を歩く為に離れただけだ。落ち着いたら番うつもりだった。一生側にいたいと思うのはこの世であいつだけだ」
「そんな・・」
同じΩなのにαのフェロモンに当てられたみたいに怖くて震える。
「そもそもお前は賢士の為に何が出来んの?今のお前は愛玩動物だろ。
俺なら賢士の助けになれる。弁護士になったのもαの賢士と肩を並べて人生を生きていく為だ。今の俺は賢士になんだってあげられる。お前は?」
言葉に詰まった。
翡翠の言う通りだ。
俺は何一つ賢士にあげられる物が無い。
それどころかいつも迷惑ばっかりかけて賢士を心配させてる。
何も言えず黙っていると翡翠の手が俺の首にかかった。
「なに?!」
「外せよ。お前にこれをつける資格はない」
翡翠の指が器用に俺のネックカラーを外そうとする。
「だめ!やめて!」
必死で抵抗するけど翡翠は驚くほど強い力で俺をねじ伏せて結局カラーを外してしまった。
「やだ!!!」
取り返そうと手を伸ばすが翡翠の方が背が高いので届かない。
俺はパニックになって翡翠の胸を拳で叩く。
「痛いだろ!触んな」
俺は翡翠に思い切り突き飛ばされ、テーブルで頭を打ち痛みに呻いた。
「別れるって言うならこれは返してやる。賢士には何も言わずに消えろ」
そう言って笑う翡翠の顔はとても醜かった。
こんな綺麗な人なのに勿体ないなとぼんやり思う。
「ダメだよ。勝手に消えたら賢士はどんな事をしてでも俺を探す。もう心配はかけないって約束したんだ」
「は?お前自分にどんだけ価値があると思ってんの?」
「ないよ価値なんて。でも賢士はそれでも俺が良いってそのカラーを巻いてくれたんだ。
でも賢士があなたを選ぶなら俺はいつでも別れる」
そう言った俺に翡翠は苛々と舌打ちして開いている窓に向かいカラーを持った手を振り上げる。
「やめて!!」
翡翠に飛びつくがその時にはもうカラーは翡翠の手を離れ、空に向かって放り出されていた。
俺は迷わず窓枠を蹴って空へと駆け出す。
そして既のところでこの手に取り戻した大切な物をぎゅっと胸に抱きしめそのまま三階の高さから下に落ちた。
「いった・・」
大丈夫。痛いけど生きてる。
仰向けになった先に見えるのは青い空と今までいた部屋。
その窓から翡翠が驚愕の表情でこっちを見下ろしている。
その表情に少し溜飲が下がった俺は口の端で笑った。
「痛・・」
・・・あれ?今俺喋った?
いや、この声・・。
その途端、自分の下で何かがもぞりと動いた。
「けっ!賢士?!」
「おう。怪我ないか?」
俺は慌てて賢士の上から退き、大丈夫と伝えたが賢士こそ大丈夫じゃないだろう。
「なんで?」
「事務所に戻ったら上から大声がして」
「うん」
「窓の側で翡翠がお前のカラーを持ってるのが見えたから投げるつもりならここで受け止めようと思って」
「そしたらお前が降って来た」
だから受け止めてくれたんだ。
「ごめんなさい」
俺は泣きながら賢士にしがみついた。
「お前泣いてばっかだな」
賢士はそう言い、横になったまま俺の手からネックカラーを取ってゆっくり首に巻いてくれる。
それは生まれた時から身に付けていたかのようにしっくりと俺の首に馴染んだ。
「もう危ないことすんなよ」
そう言って俺の頭を胸に押し付ける賢士はこのカラーが俺にとってどれだけ大きな意味を持つかをちゃんと分かってくれている。
俺ははいと小さく返事をした。
「そうだ!救急車呼ばなきゃ!」
俺がそう言った途端、サイレンの音がして救急車が到着した。
誰かが通報してくれたのかな。
まさか翡翠?
上を見上げたがもう彼の姿は無かった。
「肋骨3本?」
「そう。鎖骨も」
病室で駆けつけた浩二に状況を説明する俺も賢士の隣のベッドで仲良く入院となっている。
「肋骨や鎖骨なんか勝手にくっつくんだから入院の必要ないって言ったんだが夏姫がしつこくて・・」
参ったと言う顔をする賢士だが遥かに軽傷の俺に念の為入院しろと怒ったのは賢士が先だ。
「夏姫は大丈夫か?」
「軽い打撲だけ」
下に植え込みがありクッションになった事もあるが3階から落ちて俺がほぼ無傷なのは賢士のおかげだ。
「それにしても翡翠の奴、なんで今更こんな事すんだろうな」
「そんなの知るか。弁護士契約は破棄だ。二度と顔見せんなと伝えてくれ。今度あいつの顔を見たら俺は何するか分からんぞ」
「やむなしだな。別の弁護士を探すよ」
浩二はそう言ってお大事にと帰って行った。
静かになった病室で賢士は身体を起こし俺のベッドの側に来る。
「ごめんな夏姫。こっちの問題でお前を危ない目に合わせた。目を離すんじゃ無かった」
俺の手を握りその甲に口付けながら悔しそうにそう言う賢士に俺は大丈夫と笑った。
「お前が望むなら警察に被害届けを出してもいい。あいつ結構悪どい事してるからバレたら弁護士資格も剥奪されて実刑判決出ると思うし」
「だめ!それはしないで」
俺は慌てて賢士の手を握る。
Ωが弁護士になる為にはαの何倍もの努力が必要だ。
学びたくても大学によっては入学を許可しない所も多い。
そんなにまでして取った資格を無くして欲しくない。
「夏姫は優しいな」
「そんなんじゃない」
翡翠の言った事が本当ならその頑張りは全部賢士の為だ。
それなのに後から出て来た俺が突然番になりましたなんて心底つらかったに違いない。
賢士の事はどうしても譲れない。
だからせめて・・・。
「もう二度とこんな事にならないようにちゃんと手は回す。悪かった。もう一人にしないからな」
「うん。ひとりにしないで」
返事の代わりに賢士の甘い唇が重なる。
頬に触れる指も抱かれる厚い胸も全部全部誰にもあげられない。
うっとりとその腕に溺れながら
俺は賢士に何かしてあげられるだろうか、と蕩けそうな頭で考え続けていた。
目の前に薄いカーテンが引かれ体には毛布が掛かっている。
賢士が掛けてくれたのかな。
俺は小さくあくびをした。
その時
勢いよくカーテンが開けられ仁王立ちの翡翠が俺を睨みつける。
「な・・なに?賢士は?」
「うるさい」
俺の質問には答えず冷たい声でそう言い放つ。
「お前邪魔なんだよ」
「え?」
「賢士は俺の運命なんだよ。分かってんだろ?さっさと賢士の前から消えろ」
「だって別れたって言ってた!」
翡翠の目は深く暗い青で海底に引き摺り込まれるような気がした俺は慌てて目を逸らした。
「うるさいチビ!別れたんじゃない。それぞれ自分の道を歩く為に離れただけだ。落ち着いたら番うつもりだった。一生側にいたいと思うのはこの世であいつだけだ」
「そんな・・」
同じΩなのにαのフェロモンに当てられたみたいに怖くて震える。
「そもそもお前は賢士の為に何が出来んの?今のお前は愛玩動物だろ。
俺なら賢士の助けになれる。弁護士になったのもαの賢士と肩を並べて人生を生きていく為だ。今の俺は賢士になんだってあげられる。お前は?」
言葉に詰まった。
翡翠の言う通りだ。
俺は何一つ賢士にあげられる物が無い。
それどころかいつも迷惑ばっかりかけて賢士を心配させてる。
何も言えず黙っていると翡翠の手が俺の首にかかった。
「なに?!」
「外せよ。お前にこれをつける資格はない」
翡翠の指が器用に俺のネックカラーを外そうとする。
「だめ!やめて!」
必死で抵抗するけど翡翠は驚くほど強い力で俺をねじ伏せて結局カラーを外してしまった。
「やだ!!!」
取り返そうと手を伸ばすが翡翠の方が背が高いので届かない。
俺はパニックになって翡翠の胸を拳で叩く。
「痛いだろ!触んな」
俺は翡翠に思い切り突き飛ばされ、テーブルで頭を打ち痛みに呻いた。
「別れるって言うならこれは返してやる。賢士には何も言わずに消えろ」
そう言って笑う翡翠の顔はとても醜かった。
こんな綺麗な人なのに勿体ないなとぼんやり思う。
「ダメだよ。勝手に消えたら賢士はどんな事をしてでも俺を探す。もう心配はかけないって約束したんだ」
「は?お前自分にどんだけ価値があると思ってんの?」
「ないよ価値なんて。でも賢士はそれでも俺が良いってそのカラーを巻いてくれたんだ。
でも賢士があなたを選ぶなら俺はいつでも別れる」
そう言った俺に翡翠は苛々と舌打ちして開いている窓に向かいカラーを持った手を振り上げる。
「やめて!!」
翡翠に飛びつくがその時にはもうカラーは翡翠の手を離れ、空に向かって放り出されていた。
俺は迷わず窓枠を蹴って空へと駆け出す。
そして既のところでこの手に取り戻した大切な物をぎゅっと胸に抱きしめそのまま三階の高さから下に落ちた。
「いった・・」
大丈夫。痛いけど生きてる。
仰向けになった先に見えるのは青い空と今までいた部屋。
その窓から翡翠が驚愕の表情でこっちを見下ろしている。
その表情に少し溜飲が下がった俺は口の端で笑った。
「痛・・」
・・・あれ?今俺喋った?
いや、この声・・。
その途端、自分の下で何かがもぞりと動いた。
「けっ!賢士?!」
「おう。怪我ないか?」
俺は慌てて賢士の上から退き、大丈夫と伝えたが賢士こそ大丈夫じゃないだろう。
「なんで?」
「事務所に戻ったら上から大声がして」
「うん」
「窓の側で翡翠がお前のカラーを持ってるのが見えたから投げるつもりならここで受け止めようと思って」
「そしたらお前が降って来た」
だから受け止めてくれたんだ。
「ごめんなさい」
俺は泣きながら賢士にしがみついた。
「お前泣いてばっかだな」
賢士はそう言い、横になったまま俺の手からネックカラーを取ってゆっくり首に巻いてくれる。
それは生まれた時から身に付けていたかのようにしっくりと俺の首に馴染んだ。
「もう危ないことすんなよ」
そう言って俺の頭を胸に押し付ける賢士はこのカラーが俺にとってどれだけ大きな意味を持つかをちゃんと分かってくれている。
俺ははいと小さく返事をした。
「そうだ!救急車呼ばなきゃ!」
俺がそう言った途端、サイレンの音がして救急車が到着した。
誰かが通報してくれたのかな。
まさか翡翠?
上を見上げたがもう彼の姿は無かった。
「肋骨3本?」
「そう。鎖骨も」
病室で駆けつけた浩二に状況を説明する俺も賢士の隣のベッドで仲良く入院となっている。
「肋骨や鎖骨なんか勝手にくっつくんだから入院の必要ないって言ったんだが夏姫がしつこくて・・」
参ったと言う顔をする賢士だが遥かに軽傷の俺に念の為入院しろと怒ったのは賢士が先だ。
「夏姫は大丈夫か?」
「軽い打撲だけ」
下に植え込みがありクッションになった事もあるが3階から落ちて俺がほぼ無傷なのは賢士のおかげだ。
「それにしても翡翠の奴、なんで今更こんな事すんだろうな」
「そんなの知るか。弁護士契約は破棄だ。二度と顔見せんなと伝えてくれ。今度あいつの顔を見たら俺は何するか分からんぞ」
「やむなしだな。別の弁護士を探すよ」
浩二はそう言ってお大事にと帰って行った。
静かになった病室で賢士は身体を起こし俺のベッドの側に来る。
「ごめんな夏姫。こっちの問題でお前を危ない目に合わせた。目を離すんじゃ無かった」
俺の手を握りその甲に口付けながら悔しそうにそう言う賢士に俺は大丈夫と笑った。
「お前が望むなら警察に被害届けを出してもいい。あいつ結構悪どい事してるからバレたら弁護士資格も剥奪されて実刑判決出ると思うし」
「だめ!それはしないで」
俺は慌てて賢士の手を握る。
Ωが弁護士になる為にはαの何倍もの努力が必要だ。
学びたくても大学によっては入学を許可しない所も多い。
そんなにまでして取った資格を無くして欲しくない。
「夏姫は優しいな」
「そんなんじゃない」
翡翠の言った事が本当ならその頑張りは全部賢士の為だ。
それなのに後から出て来た俺が突然番になりましたなんて心底つらかったに違いない。
賢士の事はどうしても譲れない。
だからせめて・・・。
「もう二度とこんな事にならないようにちゃんと手は回す。悪かった。もう一人にしないからな」
「うん。ひとりにしないで」
返事の代わりに賢士の甘い唇が重なる。
頬に触れる指も抱かれる厚い胸も全部全部誰にもあげられない。
うっとりとその腕に溺れながら
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