【完結】前世は犬と猫! 〜二度目の恋のやり直し〜

ivy

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15.お泊まり

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「え、ここ?……マジで?」

マンションのエントランスに足を踏み入れた瞬間、思わず声が漏れた。
ガラス張りの自動ドアに、打ちっぱなしのコンクリートの壁。広々としたエントランスロビーには観葉植物と上品なソファが配置され、奥には24時間対応のフロントカウンターまである。まるで高級ホテルだ。

「なにその顔。別に幽霊屋敷じゃねえだろ」

「いや、逆だわ! なにここ、億ションじゃん……!」

「まあ、親が勝手に買っただけだけどな。俺の名義だけど、管理とか全部任されてて、意外とめんどくさいんだよ」

なんだその愚痴。喧嘩売ってんのか。

「……一人暮らしでこのレベルは反則だろ……」

だってフロントにいる女性たち、全員がお前の顔を見た途端に立ち上がって「おかえりなさいませ」なんて言ってるぞ??

ケイは片手を上げるだけの挨拶を返して、オートロック付きのエレベーターに乗った。
止まったのは最上階。外の景色がもう別世界で、夜景が一面に広がっていて、思わず「うわっ」と声が出た。

そのまま玄関に案内され、リビングに入ると、フローリングはピカピカだし、家具もスタイリッシュで高級感がある。壁掛けテレビにBOSEのスピーカー、冷蔵庫は外国製で、キッチンもやたら広い。

「なんか……住む世界が違いすぎて泣きそう」

「泣くな泣くな。せっかくだから楽しんでけ」

ケイはゲーム機をいくつも持っていて、俺の知らない最新のソフトを次々に立ち上げてくれる。
コントローラーを渡され、対戦ゲームでボコボコにされ、悔しくて仕返しにホラーゲームを選ぶと、ケイが本気でビビって絶叫。それを見て俺は大爆笑した。

「なあ、マジでお前、叫び声でかすぎ! 近所迷惑だろこれ」

「この階にあるのはウチだけだから無問題だわ! それより俺ホラーだけは無理って言ったのに! 一人暮らしなのにどうしてくれんだよ!」

なんだかサラッとすごいことが聞こえてきたが、ひとまずスルーして黙々とホラーゲームを続ける。

「やめろって! もーやだよー!」

「嘘つけ。家にあるってことは、自分で買ったんだろ?」

「いや、親の仕事の関係で、ゲーム会社が新作出たらまとめて送ってくるんだよ。あーもう本気でやめてくれ……!」

……またしても何かすごいことが聞こえてきたが……うん、これもスルーだな。

「仕方ない、ここまでにしてやるか」

「ムカつく奴だな。じゃあ映画でも見るか」

そして案内されたのは、奥の部屋、──なんとシアタールームだ!

もう驚かないけどな!!

椅子こそ四つと少ないが、本格的なスクリーンと音響で、映画館の臨場感を楽しめる。
何がいいって、他に客がいないから、即時に感想を言い合えるところだ。

コメディで馬鹿みたいに笑って、アクションで興奮して叫んで、最高の時間を過ごすことができた。

──そして気づけば、時計の針は1時を過ぎていた。

「泊まってけよ。電車もうねーし」

「いや、さすがに悪いって……」

「なに気にしてんだよ。ベッドはダブルだし、客用の布団もあるし。どっちでもいいぞ?」

「……じゃあ、遠慮なく。先に家に連絡入れとく」

「ああ」

うちは過保護じゃないので基本何も言われない。けど、さすがに泊まりとなると、変な誤解をされたら困る。

歯を磨いて、風呂も借りて、ふかふかのベッドに二人で横になった。
さすがに眠気が襲ってきて、天井を見つめたまま、少しだけ沈黙が流れる。

「なあ、タケル」

「ん?」

「そういえばお前と春人の馴れ初め、聞いてねーなって。不思議だったんだよな。登校してきた初日から気にしてたよな? もしかして知り合いだった?」

「……ああ」

迷ったけど、もういいかと思った。
これだけ心許せる相手って、ケイくらいしかいないし。

「変な話に聞こえるかもしれないけど、夢の話ってことでさ、聞いてくれる?」

「ああ。なんでも話せ」

「俺さ、犬だったんだ、前世で。多分捨てられたんだと思う。野良犬でウロウロしてたら、猫になった春人に声かけられた。ちょっとややこしいんだけど、実は犬の前に人間だった時もあって、春人とはその時からの付き合い」

「深いな」

「そうだな……。それで、優しいおばあさんに拾われて、俺たちは幸せに暮らしてたんだ」

「……」

そうだよな、信じられないよな。変な奴だと思われて距離を置かれたらどうしよう。

「……そんで? 二人……いや、二匹はカップルだったのか?」

「ああ」

「その前の人間の時は?」

「その時は俺の完全な片思い。結果、仕事に逃げて三十前に過労死した」

「……悲惨すぎねぇ?」

「そうなんだよなー」

「じゃあ、犬と猫の時は良かったな」

「ああ。俺の最後を看取ってくれたのは、お婆さんと春人なんだ」

「……え、お前、二回とも先に死んだの?」

「え、ああ、一回目は分かんねーな。音信不通だったし」

けれど、年齢から考えて春人が俺より先に死んでたって可能性は低そうだ。

「それって春人、めちゃくちゃ可哀想じゃね?」

「そう言われても……」

俺だって好きで死んだわけじゃないし。特に犬の時は、永遠に一緒に生きていたいと思ってたんだから。

「……」

「……なんだよ」

「今の春人に前世の記憶はないんだろ?」

「そうみたいだな」

「それってさ、いつもさっさと死んじゃうお前に呆れて、見切りつけて忘れることにしたとかねーの?」

「……え?」

その考えはなかった。でも、それちょっと俺も哀れじゃね?

「もしそうなら、ワンチャンあるだろ」

「……ねーよ。春人は麻央を選んだんだぞ」

あの真面目な奴が人を好きになったんだ。この先も、ずっと一緒にいるだろう。

「あー……そっかー。いい考えだと思ったんだけどな」

ケイは本気で何かを考え込んでいるが……え? これ、俺の話を完全に信じてるってこと?

「もちろん信じてるぞ」

ケイがきっぱりと言い切った。

「もしその話が嘘だったり、なんか病気が関係しての妄想だったとしても、お前はそれを本当のことだと思って俺に話してくれたんだろ?」

「あ……うん、そうだけど」

「なら俺も信じる。その話を、というより──お前を信じてるから、その話も信じる」

「……ケイ」

なんていい奴だ。僻んでごめん!
こんないい奴と知り合えるなんて、高校に行って良かった!

「とにかく、今の状況はフェアじゃない。春人が記憶を取り戻しても、麻央が好きって言うならその時は諦めろ」

「でも前世の記憶を思い出させるなんて無理だろ」

「……そこは一旦、俺に預けてくれ」

なに? なにするつもりだよ?!

「じゃあ今夜は寝るか。おやすみ」

「う、うん……おやすみ」

信じてくれた嬉しさ半分、何を考えてるのか分からない怖さ半分で眠れない。

隣からは早速、安らかな寝息が聞こえてきたが──
俺は結局、外が明るくなるまで眠れなかった。
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