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いざ行かん、リットリオ

夜の街で再びやんちゃする

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彼女達はきっと俺の宝になるだろう。血を分けた家族ではないがそれも些細なことだ。リットリオで芽吹いた俺の宝がきっとサマルで生きる家族達にも影響を及ぼす。良い事ばかりじゃないかもな、でもきっと悪い事ばかりでもないはずさ。リリアの頭を撫でてやると笑みを深くして彼女は可愛らしく笑う。ヒューイの元に集う女の子達も笑顔で彼の話を聞いている。昼食も穏やかな気持ちで済ませる事ができ、改装のための資金の目処もついたところで俺は先んじて防犯対策に乗り出すことに。俺はまず塀に防御魔法を掛けることにする。邪心を持つ者を弾き飛ばす聖なる魔法。ドラゴンの俺が使える魔法の一つだ。ドラゴンは伝説でも宝物を守護する存在として知られていたがそれは正解だった。ドラゴンは義理堅く頼まれた物に結界を張って守った。それは掛けた本人が居なくなっても効果は続く物だった。俺は結界を塀に文字として刻んでいく。

「あれ、アンタ屋敷に居ないと思ったら何してるの?」
「ん?ああ、これはお呪いだよ」
「なにそれ、そういえばアンタリットリオの外から来たんだったわね。家に伝わるものなの?」
「そんなところだ、だが効果は覿面だぜ」

ヒューイは首をかしげながらも俺が刻んでいく文字に覚えがあるのか唸りながらも思い出せない様子。

「ふっ、これは魔除けの呪いだ。弾かれて入れないようなオカマになるなよ?」
「それって私が遠まわしにバケモノみたいって言ってるのかしら?」
「いんや、他意はないぜ~。ただ悪意を感知して屋敷の敷地から追い出すようになってるのさ」

意識を集中させると夕方までに塀を全て俺の結界で囲むことに成功する。これでぶっちゃけ門番君が要らない子になっちゃったが彼自身も悪人ではないのでなるたけ長く働いてもらおう。厳つい見た目の割りに人懐っこいし礼儀正しいので彼女達の男性に対する怯えを無くすのにちょうど良い。

塀も高さが三メートル近くあるから飛び越えられないし魔法反射の道具を使っても俺のは人間が使うようなヤワな魔法ではないので反射や無効化はできないのだ。さて、後顧の憂いがなくなったので俺は夜までゆっくり休むことにする。






 「さて・・・お待ちかねの夜の時間だ」

良い子は一番広い部屋を片付けて雑魚寝している。最初はまだまだ元気だった子供たちもヒューイの手に掛かればあっという間に眠ってしまった。

「それじゃ、お姫様たちのことは任せたぜ」
「ええ、任されたわ」

呆れながらも俺がしている事が間違っていないと信じてくれているのだろう。ヒューイは手を振るとトイレに起きてきた数人を引率して屋敷の奥えと進んでいった。つくづく高性能なオカマだ。

 「さてと、ゴロアファミリーの本拠地はどこかな?」

前日に引き続いて色町を散策していると何軒かの店が営業していない様子。もしかしてカリグラファミリーの所有する店か?安全を保障してくれるバックが居なくなって店を運営できないと判断したやつがいるのだろう、

聞き込みをしてみたところまさしくそうらしい。マフィアの後ろ盾がなくなった瞬間から他所のファミリーの圧力を受け、ショバ代を払える店は鞍替えし払えないところは店をたたんでしまったのだ。

「世知辛いねえ、ところでゴロアファミリーのボスがいる場所って知ってる?」
「ええ、でもどうして?」

色町の角で声を掛けてきたお嬢さんにそれとなくチップを渡しながら尋ねるとお嬢さんは気前よく話を聞かせてくれた。

「俺はちょいと耳よりな情報を知ってるのさ。きっといい値がつくようなね」
「ふぅん、きっとアナタってやり手なヒトなんでしょ?騎士様かしら?体もたくましくて・・・」
 「おっと、話を聞かせてくれるまでお預けだ。さあ、ダンスを踊ろう。」

お嬢さんが店に連れ込もうとするのをさりげなくブロックして俺は話を続ける。

 「んもう、アナタはソッチもやり手なのね?いいわ、ゴロアファミリーのボスは・・・んっ、色町の・・・三番目に、ああっ!」
 「そうか、もっと聞かせてくれ・・・」
 「ああっ! 激しいっ・・・あの、『クリミナル』って看板が・・・目印よ」
 「ありがとうよ、手短になるがゆるしてくれ」
 「いいのよ・・・んっ・・・ンンンンッ!」

さて、情報も聞けたし、ちょいとすっきりできたところで俺はお嬢さんを勤め先のボーイさんに彼女に失礼に当たらないだけの金額を持たせて預けるとゴロアファミリーの本部へと向かった。

 「しかしまあ、俺ってこんなにプレイボーイだったかな」

色町を歩きながらふとそう思う。ドラゴンに覚醒してから急速に人間を辞めていった気がするが残念ながら気のせいではないだろう。

 神様が転生する際にくれた三つのギフトを今更ながら思い出してみる。

 一つは強靭かつ長命の体。
 二つ目は記憶と経験をそのままに生まれ変われること。
 三つ目は・・・たしか異性を落とすとか・・・。

うん、俺が女性に対してこれだけ動けるのは間違いなくこの三つ目のお陰だな。そこまで要らないかもとも思ったが俺の子供が将来世界を救うとかいっていたので独身で生涯を終えられるとマズイからだろう。まあ、前世の俺は果てしなく能天気な男だったし老いて一人ぼっちになるまでそれに気付けないくらいの大馬鹿野朗だった。

そしてもう一つが俺の中で燻る好戦的な自分。

武道にとりつかれていた俺は勿論のこと戦いに対する場数や能力は高いだろう。実際殺し合いの戦場にも出ていたしな。だがそれを上回って最近の俺は敵が見つかることに歓喜すらしている。ドラゴンの本能だろうか?

 「わからないな・・・ただ言えることは俺は弱い物イジメをするやつが嫌いだ」

 『クリミナル』の看板が見えたところで俺は牙を剥き出しにするように笑い、事務所へと歩を進めた。すると建物は前回の屋敷よりはずっと小さいがそれなりに大きな建物がある。そして屋根に取り付けられた看板『クリミナル』間違いないだろう。

「よう、兄さん達、ちょいと耳寄りな情報買ってくんねえか」

 例によって例の如く、俺は入り口を固めている見張り番に声をかける。

「情報だあ?お前見かけないツラだが・・・」
「ああ、とっておきのネタ、あのカリグラファミリーのボスがどうなったか知りたくないか?」

そういうと見張り番の表情が一瞬にして強張った。

 「情報は確かか?」
 「ああ、もちろんさ。嘘なら金はいらねえ。信用が欲しくて来たんだからな」

そういうと見張り番は少し考えた後に俺を招き入れてくれた。しかしさすがに前回ほど上手くはいかないようだ。俺は案内された部屋で30人近い男に囲まれた。しかもそれぞれがナイフや剣で武装しているのだ。まあ、それがどうしたといえばそれまでなのだが。

ふと、考え込んでいると窓の外に輝く月に目が行った。この世界では新月の代わりに月が赤色に妖しく輝く。その夜は自然と人間の気がおかしくなりやすいのだと言い伝えられている。

 「良い月だな、チンピラ共」

 三十人を前に全く動じない俺をみて察したのかボスらしい男が仇を見つけたとばかりに目を鋭い物にかえた。

「お前がカリグラファミリーを潰したヤロウか。カリグラと俺は親友だったんだ、覚悟してもらう」
「なるほど、じゃあお前も買ってるってのか?人を?なら好都合だぜ、閻魔様が首を長くして待ってる早いとこ地獄へ行け!」

 刹那、男の隙間を縫って速攻で距離を詰めるとボスが突き出したナイフを逆用して首筋に突き刺した。

「特急券付きだ、カリグラによろしくな」
「ぐげげ・・・き、貴様・・・」

ボスが血の海に沈むのを確認してから俺は呆然としている男たちに振り返った。

「手下諸君、お仕事ご苦労様。逃げたいやつは逃げていいぜ、ボスが殺されてどうでもいいような腰抜けなら相手にするのも面倒だしな」
「ふざけんじゃねえええええ!!」

そう言って飛び掛ってくる男達。そう、そうだぜ、ヤクザはやっぱこうじゃねえとな。しかし俺のドキドキとは裏腹に三十人はあっという間に全滅しやがった。

 「やっぱ人間やめたからかな・・・テンション下がるぜ」

 舐めプレイもびっくりの相手の弱さに俺は退屈していた。しかしこれはなにも俺の鬱憤を晴らすための物だけではない。 金庫から金目の物を持ち出し、地下室へ向かうと案の定牢屋とその中に閉じ込められている女の子達がいた。カリグラのときは少女というくらいの女の子だったが今回は驚いた事にもっと小さい。10歳に満たない子供ばかりではないか。

 「カリグラとウマが合うはずだぜ。趣味はこっちのほうがブッチギリでクレイジーだが」

 痛々しい傷跡が彼女達に残っていることが俺の怒りを沸々と湧き上がらせる。

まずは治療か。俺は広域に掛かるようにヒールを唱える。この世界の回復魔法は速効系と遅効系があるが遅効系の方がコストが高い代わりに効力が高い。速効系のヒールが外側から治す魔法だとすると遅効系のヒールは内側から治す魔法。俺が展開したのは遅効系と速効系のダブル。 理論は単純、速効のヒールと遅効のヒールで内側と外側を同時に治療するのだ。もちろんこんな事ができるのは人間業ではないがとりあえず牢屋の中のちびっ子たちには必要なことだ。痛みが消え、地下室をヒールの暖かい光が満たしていることに気付いた女の子たちが不思議そうに寄せ合った体を持ち上げて俺を見つめてくる。

 「怖いおじさんはお兄さんがやっつけてやったからでてきなよ」

そういうと俺は牢屋のドアを壊して女の子達を助け出した。最初はとても恐る恐るといった様子だったが女の子達は直に慣れて自由になった喜びに笑顔を見せてくれた。よかった、泣かれたりしたらショックでもらい泣き確定だったからな。ちびっ子たちは奴隷の首枷も呪文もなかったがその分扱いがひどかったらしい。小さい子は恐怖で縛ってしまえば自然と逆らわなくなるからだと思われる。

 「おじさんどうしたの?」

その内、不意にちびっ子の一人から声を掛けられた。

「ん?」
「さっき、おじさん怖い顔してた・・・」

 私なにかいけないことした?と尋ねるちびっ子に俺は思わず顔に手をやった。

「ちびっ子は何も悪くないさ、・・・そんなに怖い顔してたか?」
「うん、でも・・・どうして?」
「怒ってたからさ、ただ君たちにじゃない。俺は弱い物イジメが嫌いだからさ」
「そうなの?」
「そうさ、ちびっ子、君たちはそうなってくれるなよ」

うん!私将来おじさんみたいになる!とちょっと困った返事が返ってきたのは内緒だ。それにおじさんって・・・とほほ。

 「さて、今日から此処が君たちの家だ」

ピクニックのような状態でちびっ子を引率していくとようやく根城にたどり着いた。途中でおねむの子供が増えたので四輪の荷車を法外な値段で買い取る羽目になり、かなり遠回りになってしまった。

眠っている子供が大半なので返事もまばら、しかたないか。いままで碌な目にあってないんだろうし。居眠りしている門番の横を素通りして一階に入った。荷車も入れるくらい玄関が広くて助かった。

 「あら、遅かったわね」

ヒューイがかなり眠たそうな顔で出迎えてくれた。ナイトキャップを被っているので起きていたわけではなさそうだ。

 「ああ、結果は上々だがな」

 新入りさんだ、と荷車の中で眠る女の子達を示す。

「驚いた、数日でこの屋敷は一杯になるんじゃない?」
「建物なんて後で建てればいいだろ。それより俺はこの国が心配だぜ」

リットリオは豊かで、人口も多く食料も足りているはずなのにひとたび裏側をのぞけばマフィアたちが暗躍する闇が広がっているのだ。

「たしかにね・・・この子達何処から来たのかしら?」
「借金のカタに売られたにしちゃ多すぎる」

リットリオに何故此処までの闇が広がっているのか・・・。俺は眠っている少女達の影になにやら捨て置けないなにかがある気がしてならなかった。
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