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いざ行かん、リットリオ
ドラゴンが如く
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暗躍する影の姿を見送りながら俺は欠伸をかみ殺した。
「アレから立ち直るの早いな・・・それにしてもこれの片付けまで気を回してくれると助かるんだが。」
俺は切り刻まれた哀れなアウトロー達を屋上から見下ろし、人が居ない事を確認すると遺体を始末した。方法は簡単、臭いの残らないレベルの火炎でサクッと焼くだけ。 完全に灰にしてやると痕跡は焼き跡だけ。石畳だと困ったが土なので多少焦げた程度で済んだ。
「旦那! どうかアンタの傘下に俺達を加えて下せえ!」
翌朝、ぶらっと散策するつもりで屋敷を出たところで俺は色町の店主に囲まれた。
「ちょいと待て、どういうことだ?俺は金貸しはしてないが?」
「旦那、隠したって無駄でさあ。」
わかってるんだぜ?と言わんばかりの店主達に俺が首をかしげていると闘技場の受付嬢が申し訳なさそうに手を振っている。
「闘技場で腕が立つからってか・・・。」
「それだけじゃねえ、アンタはソッチでも腕利きで人情のわかる男だろ?」
「客の情報を悪用するのがプロのやり方か?」
少し凄んでみたが店主達もどうやら本気らしい。探るまでもないが彼らは個人経営の店主達なのだろう。マフィアに睨まれて小さくなっていたが俺が台頭してきたのを機として売り込みを開始したようだ。
「旦那、俺達は所詮ケチな娼館を切り盛りする女衒。同じ穴の狢だ。だが、頭下げるなら相手選びてえ。」
一人が語りだすと集まった店主達は口々に言った。
「カリグラや他の連中みたくありもしねえ借金のカタで女を闇に売り渡したりしてる連中に金を払いたくねえんだ。」
「俺達だって商売やってんだアコギな連中の手口だけはゆるせねえ。」
店主達はそう言うと俺に視線を集中させる。娼館のオーナーになれってことか?
「しかたねえ・・・、条件は幾つかあるが一つ目、名義は俺の名前にしろ。」
「名義?」
「権利の全ては俺にありますと言い訳するんだ。アガリもすべて掻っ攫われてますとな。」
面倒ごとを引き受ける形になる。どうせマフィアは直につぶれるだろうがその前にまともな店の連中が俺を頼ってくれるのはありがたい。闘技場が絡んでるとなると無碍にもできないしな。
「それと、できるだけこの屋敷に近い場所・・・俺の手の届く範囲で店をやってくれ。」
金の管理と店の権利を一手に引き受けることで代わりにマフィアから守る用心棒を引き受けるワケだ。
「その屋敷は使えないのか?」
「ここはいたいけな女の子専用だ。教育によろしくないヤツの出入りはゆるさねえ。」
「そういうことか、わかったよ。」
屋敷からは子供達のはしゃぐ声。それだけで察してくれたのはありがたい。
「それと・・・そこのお嬢ちゃん。」
「は、はいっ!」
「屋敷の近くの土地をどうにかして確保するようにお嬢ちゃんのボスに掛け合ってくれ。」
「土地ですか?」
面白い事になる。弟子もいいが少しくらい遊んでいくか。とりあえず他の娼館を焼畑商売で潰してから正規に値段に戻せば奴らはすぐさま干上がるだろう。
邪魔しても金も女も所属は俺にしとけば取り上げるのも難しくなるし、魔導金属の売買が軌道にのれば金銭面も問題はなくなるだろう。
「さて、俺からの提案はこれで仕舞いだがお前さんたちの意見はあるか?」
「権利も名義もアンタ持ちか・・・それで俺達になんの利益がある。」
「賭けるか賭けないか・・・お手並み拝見となるか、なるようになるかはお前さんたち次第だよ。」
手を振って俺は輪から離れる。まったく柄じゃないが仕方ない。前はカミさんどころかツレひとつ出来なかった俺が娼館のオーナーとは笑える冗談だ。
だが夜の街の出来事なんて冗談みたいな世界だ。そしてこの世界は魔法なんてものがあって人間以外の人型もたくさん居る世界。
まったくもって冗談みたいな世界で冗談に乗っかって踊るのも悪くない。
元々マフィアを潰すついでにはじめた街の高級クラブ化も本腰入れなきゃな。
笑顔で立ち去るヴォルカンの背を見送り店主達はそれぞれの意見を交わす。
「どうする?いくらあの男が話しのわかる男だとしても権利を手放せるか?」
「さてな・・・、だがあれはやるといえば必ずやる男だ。カリグラとゴロアを潰したように。」
「そうだな・・・組織と渡り合える男となりゃ下手な用心棒より遥かにいい。それにあの男、魔導金属の精錬ができるらしいじゃねえか。」
魔導金属の精錬方法は知っているだけで価値があるがそれを実践できることは価値を数倍に跳ね上げる。
「金に困ってるってワケじゃなさそうだが・・・それじゃあ何故ヤツは俺達の店の権利を欲しがる?」
「わからねえ、だがあれは相当マフィアに恨みが有るみたいだ。」
「殺しもやってんだろ、騎士に睨まれるんじゃないのか?」
「騎士ごときでどうにかできるのか?」
単純な戦闘ではどうにもならないだろう。それは闘技場でも、噂でも確認はできている。適当な罪状をでっち上げようにも彼はリットリオの外からきたらしいではないか。そうなるとサマルかそれ以外にしろ騎士は簡単には手が出せないだろう。
ましてや闘技場のボスが彼と面識をもっている以上裏からのアプローチを受ける可能性も高い。騎士の中で彼を簡単に止めることはもはや不可能である。
「罠にかけるとして、不十分な罠にかけた瞬間そいつが悲惨な最後を遂げる事は目に見えてる。」
「命か社会か、どちらかの死が待ってるだろうな。」
なにせマフィアの待ち受ける屋敷に単身乗り込んでどうにか出来てしまうのだ。
騎士が彼を捕らえるとなれば騎士団総出でかかる大捕り物になるだろう。
そうなれば騎士団の面子は地におちる。しかも騎士団の恥部を彼も知らないうちに握っているのだ。騎士達も叩けば埃の出るやつもいるし、そうでないヤツもごみ掃除をしている物好きを咎めることは出来ないで居た。
もしも組織なら彼らもどうにかできただろうだが彼は個人、動くのにしがらみもなにもない。それでいて目先の欲望に惑わされない。
金か女か、どちらかにギラギラした化け物ならいくらでも手段はあるが彼は無欲だ。実際はそうでもないが価値観が彼らにとっては全くの異質なのだ。
物欲や自己顕示欲で生きる世界の住人にとって欲望が自己完結しているヴォルカンの行動パターンは理解できない。なにしろ孤児院を趣味で経営し、売春宿ですら趣味で経営しようとしている。個人が持ち得る思想で堕ちた女を解放し浚われて売り物にされる子を助けて養う。
人情という観点なら理解も出来るがそれを行動で示すには彼はまだ若い。
そのはずなのに彼はまるで若者らしくない老獪さと無欲さで行動しては掃き溜めを浄化しようとしている。マフィアや享楽的な貴族とはまさに水と油。
最低限の利益で満足すれば失敗も反発も少ないがそれが出来るものは少ない。
大抵は欲に駆られて失敗するか、欲がしぼみ活力がなくなって失速するかのどちらか。
しかし彼に限ってはそれはないのだろう。なぜなら奪い取った場所で孤児院を開き魔導金属を精錬できるはずなのに無頼漢として色町は闘技場を練り歩いているのだ。どこぞの高貴な生まれなのか・・・。そんな疑念すら生まれてくる。
金も名誉も儚いものだと思っているヴォルカンはそんな彼らの世界から飛び出した存在なのだ。実際は本来だれもが一度は望む物を掴んだ事があるので今更目指す気もないだけなのだが。
「アレから立ち直るの早いな・・・それにしてもこれの片付けまで気を回してくれると助かるんだが。」
俺は切り刻まれた哀れなアウトロー達を屋上から見下ろし、人が居ない事を確認すると遺体を始末した。方法は簡単、臭いの残らないレベルの火炎でサクッと焼くだけ。 完全に灰にしてやると痕跡は焼き跡だけ。石畳だと困ったが土なので多少焦げた程度で済んだ。
「旦那! どうかアンタの傘下に俺達を加えて下せえ!」
翌朝、ぶらっと散策するつもりで屋敷を出たところで俺は色町の店主に囲まれた。
「ちょいと待て、どういうことだ?俺は金貸しはしてないが?」
「旦那、隠したって無駄でさあ。」
わかってるんだぜ?と言わんばかりの店主達に俺が首をかしげていると闘技場の受付嬢が申し訳なさそうに手を振っている。
「闘技場で腕が立つからってか・・・。」
「それだけじゃねえ、アンタはソッチでも腕利きで人情のわかる男だろ?」
「客の情報を悪用するのがプロのやり方か?」
少し凄んでみたが店主達もどうやら本気らしい。探るまでもないが彼らは個人経営の店主達なのだろう。マフィアに睨まれて小さくなっていたが俺が台頭してきたのを機として売り込みを開始したようだ。
「旦那、俺達は所詮ケチな娼館を切り盛りする女衒。同じ穴の狢だ。だが、頭下げるなら相手選びてえ。」
一人が語りだすと集まった店主達は口々に言った。
「カリグラや他の連中みたくありもしねえ借金のカタで女を闇に売り渡したりしてる連中に金を払いたくねえんだ。」
「俺達だって商売やってんだアコギな連中の手口だけはゆるせねえ。」
店主達はそう言うと俺に視線を集中させる。娼館のオーナーになれってことか?
「しかたねえ・・・、条件は幾つかあるが一つ目、名義は俺の名前にしろ。」
「名義?」
「権利の全ては俺にありますと言い訳するんだ。アガリもすべて掻っ攫われてますとな。」
面倒ごとを引き受ける形になる。どうせマフィアは直につぶれるだろうがその前にまともな店の連中が俺を頼ってくれるのはありがたい。闘技場が絡んでるとなると無碍にもできないしな。
「それと、できるだけこの屋敷に近い場所・・・俺の手の届く範囲で店をやってくれ。」
金の管理と店の権利を一手に引き受けることで代わりにマフィアから守る用心棒を引き受けるワケだ。
「その屋敷は使えないのか?」
「ここはいたいけな女の子専用だ。教育によろしくないヤツの出入りはゆるさねえ。」
「そういうことか、わかったよ。」
屋敷からは子供達のはしゃぐ声。それだけで察してくれたのはありがたい。
「それと・・・そこのお嬢ちゃん。」
「は、はいっ!」
「屋敷の近くの土地をどうにかして確保するようにお嬢ちゃんのボスに掛け合ってくれ。」
「土地ですか?」
面白い事になる。弟子もいいが少しくらい遊んでいくか。とりあえず他の娼館を焼畑商売で潰してから正規に値段に戻せば奴らはすぐさま干上がるだろう。
邪魔しても金も女も所属は俺にしとけば取り上げるのも難しくなるし、魔導金属の売買が軌道にのれば金銭面も問題はなくなるだろう。
「さて、俺からの提案はこれで仕舞いだがお前さんたちの意見はあるか?」
「権利も名義もアンタ持ちか・・・それで俺達になんの利益がある。」
「賭けるか賭けないか・・・お手並み拝見となるか、なるようになるかはお前さんたち次第だよ。」
手を振って俺は輪から離れる。まったく柄じゃないが仕方ない。前はカミさんどころかツレひとつ出来なかった俺が娼館のオーナーとは笑える冗談だ。
だが夜の街の出来事なんて冗談みたいな世界だ。そしてこの世界は魔法なんてものがあって人間以外の人型もたくさん居る世界。
まったくもって冗談みたいな世界で冗談に乗っかって踊るのも悪くない。
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笑顔で立ち去るヴォルカンの背を見送り店主達はそれぞれの意見を交わす。
「どうする?いくらあの男が話しのわかる男だとしても権利を手放せるか?」
「さてな・・・、だがあれはやるといえば必ずやる男だ。カリグラとゴロアを潰したように。」
「そうだな・・・組織と渡り合える男となりゃ下手な用心棒より遥かにいい。それにあの男、魔導金属の精錬ができるらしいじゃねえか。」
魔導金属の精錬方法は知っているだけで価値があるがそれを実践できることは価値を数倍に跳ね上げる。
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「わからねえ、だがあれは相当マフィアに恨みが有るみたいだ。」
「殺しもやってんだろ、騎士に睨まれるんじゃないのか?」
「騎士ごときでどうにかできるのか?」
単純な戦闘ではどうにもならないだろう。それは闘技場でも、噂でも確認はできている。適当な罪状をでっち上げようにも彼はリットリオの外からきたらしいではないか。そうなるとサマルかそれ以外にしろ騎士は簡単には手が出せないだろう。
ましてや闘技場のボスが彼と面識をもっている以上裏からのアプローチを受ける可能性も高い。騎士の中で彼を簡単に止めることはもはや不可能である。
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「命か社会か、どちらかの死が待ってるだろうな。」
なにせマフィアの待ち受ける屋敷に単身乗り込んでどうにか出来てしまうのだ。
騎士が彼を捕らえるとなれば騎士団総出でかかる大捕り物になるだろう。
そうなれば騎士団の面子は地におちる。しかも騎士団の恥部を彼も知らないうちに握っているのだ。騎士達も叩けば埃の出るやつもいるし、そうでないヤツもごみ掃除をしている物好きを咎めることは出来ないで居た。
もしも組織なら彼らもどうにかできただろうだが彼は個人、動くのにしがらみもなにもない。それでいて目先の欲望に惑わされない。
金か女か、どちらかにギラギラした化け物ならいくらでも手段はあるが彼は無欲だ。実際はそうでもないが価値観が彼らにとっては全くの異質なのだ。
物欲や自己顕示欲で生きる世界の住人にとって欲望が自己完結しているヴォルカンの行動パターンは理解できない。なにしろ孤児院を趣味で経営し、売春宿ですら趣味で経営しようとしている。個人が持ち得る思想で堕ちた女を解放し浚われて売り物にされる子を助けて養う。
人情という観点なら理解も出来るがそれを行動で示すには彼はまだ若い。
そのはずなのに彼はまるで若者らしくない老獪さと無欲さで行動しては掃き溜めを浄化しようとしている。マフィアや享楽的な貴族とはまさに水と油。
最低限の利益で満足すれば失敗も反発も少ないがそれが出来るものは少ない。
大抵は欲に駆られて失敗するか、欲がしぼみ活力がなくなって失速するかのどちらか。
しかし彼に限ってはそれはないのだろう。なぜなら奪い取った場所で孤児院を開き魔導金属を精錬できるはずなのに無頼漢として色町は闘技場を練り歩いているのだ。どこぞの高貴な生まれなのか・・・。そんな疑念すら生まれてくる。
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