84 / 282
獣人と建国の章
狼人族のあれこれ
しおりを挟む
それから数日経って最初に顔を見せたのは狼人族だった。前回挨拶を交わしたチェステが今度は礼装でやってきたのだ。礼装とは言っても甲冑姿だが前回の無骨な戦支度ではなく漆塗りの様な光沢のある胴当てと刺繍を施した直垂の様なものを着て毛並みも整えたのか纏まっており小奇麗になっている。
さすがにこれに普段着では失礼なので数日の内に取り寄せた正装に着替えて出迎える事にする。
「さて、コレなら皇帝陛下に会っても可笑しくは無い」
「・・・」
「どうしたアウロラ?」
「はっ!すみません、見とれてました」
「変な所はないか?」
「えっと、大丈夫ですよ!カッコいいです!」
「惚れ直してくれたみたいで嬉しいぞ」
「ふぇっ?!えっ・・・そのあの・・・!」
からかってやると湯気を頭から立ち上らせアウロラはあたふたとしだした。かわいい。
着替えを手伝って貰っていたアウロラからお墨付きを貰い俺は改めて狼人族の待つ客間へと足を向けた。
「お待たせした、二度の訪問を歓迎させてもらおう」
ドアを開けて部屋に入ると手持ち無沙汰そうに部屋で立ち尽くしていたニーミツが俺を見て居住まいを正し、慇懃に頭を下げた。
「勿体無いお言葉、恐悦至極でございます」
「そう畏まらないでくれ、用件をこれから聞くのだからな」
そう言ったがニーミツは恐縮してしまった様子で座るように勧めても緊張した様子で直立するばかりである。よほど生真面目な奴らしい。
「は、それでは・・・」
用件を言うのかと思ったらようやく席に着いた。さすがに緊張しすぎだろう、よほど重要な用件を任されたようだ。
(ううむ、まさか私の予感が的中してしまうとは・・・)
ヴォルカンと対面するニーミツは前回の訪問から数日を要してこの集落との立場を如何様にするか長老達の会議に参加していた時から考えていた。
このような強い力を持つ者が何故このような場所にいるのだろうか?人間は人間の多い地域に住むと思っていた彼はヴォルカンがそれに当てはまらない人間であるという事を踏まえてあれこれと人物像を予測していた。
その時偶然見つけたのは逃げ出したコボルト達が残していった人間の本だった。その本は最近になって人間達との交流を目指して解析が進められ共通言語の習得や彼らの文化様式を学ぶのに大いに助けとなった重要な書類である。
著書のタイトルは『貴族騎士』という物でその昔サマル王国で身分の低い男が貴族の娘と恋に落ち、結婚する為に出世を目指すというものだった。内容もさることながら私達の目を引いたのは主人公の騎士の身体の強靭さである。
馬の引く車に轢かれてもビクともせず、衛兵に袋叩きにあってもへこたれず、さらには王族を助ける為に盗賊に単身で立ち向かいこれを打ち倒した後に褒賞を賜り終には意中の相手と結婚し幸せな家庭を築いたのだとか。この事から察するに少なくともサマルでは強靭な男性は出世できるという事である。
そしてこの物語の終盤では主人公の彼が開拓の仕事に任命されている事から強靭な者は開拓など未開の地を目指す事が窺える。ということは、もし集落の長である彼がサマルから来た人物であるとすると彼はこの物語の主人公よろしく大身の出なのではなかろうか。
さすがに推測が飛躍しすぎているかとも思ったがビシッと整った正装で現れた彼を見たときそんな心配は彼方に吹っ飛んでいた。
(まさか本当に貴族なのでは・・・?)
初めて会った時は少々くすんで汚かった髪も洗って整えてあり、体臭を抑える為か花から取れる希少な油
を塗ってある。そしてなにより身に纏った衣服、上質な布地・・・私の故郷では滅多とお目にかかれない
絹ではなかろうか。糸を作る技術はあるがそれでも高価なもので文字通り高位の御仁が着る礼装でしか使われないもの。そして刺繍の技術は我が国を超えている。それに色が染めてあり、非常に鮮やかな物だ。これもまた我が国とは比べ物にもならない。これは彼らの祖国の国力を表す非常にわかりやすいものだ。
そうなるとこれから長老達の決定に従う事は非常に不味い。なにしろ私が受けた命は彼らに対する強硬策に他ならないからだ。
(あれほど説明したというのに・・・彼らが脅しに屈する筈が無い)
というのはこの屋敷を我ら遊撃隊にて取り囲み、領主を威圧した上でコボルト達の身柄を押さえろとの事だが・・・如何にして千の軍勢を屠る御仁を脅し、なおかつダークエルフと戦いながら散り散りに逃げるであろうコボルト達を捕まえるというのだろうか。
狐人族達との戦いに優位に立ちたいが為に長老達は焦りすぎている。冷静な判断が出来ないほどに・・・、彼らの頭の中には戦う事しかないのだろうか?最早武器を取れる年齢でもあるまいに。
しかしこうなると命令に従うのは群れに生きる者としては当然の事、しかしそれが故国を破滅に導く第一歩になるかもしれない以上はいそうですかと済ませて良い物か・・・。
さすがにこれに普段着では失礼なので数日の内に取り寄せた正装に着替えて出迎える事にする。
「さて、コレなら皇帝陛下に会っても可笑しくは無い」
「・・・」
「どうしたアウロラ?」
「はっ!すみません、見とれてました」
「変な所はないか?」
「えっと、大丈夫ですよ!カッコいいです!」
「惚れ直してくれたみたいで嬉しいぞ」
「ふぇっ?!えっ・・・そのあの・・・!」
からかってやると湯気を頭から立ち上らせアウロラはあたふたとしだした。かわいい。
着替えを手伝って貰っていたアウロラからお墨付きを貰い俺は改めて狼人族の待つ客間へと足を向けた。
「お待たせした、二度の訪問を歓迎させてもらおう」
ドアを開けて部屋に入ると手持ち無沙汰そうに部屋で立ち尽くしていたニーミツが俺を見て居住まいを正し、慇懃に頭を下げた。
「勿体無いお言葉、恐悦至極でございます」
「そう畏まらないでくれ、用件をこれから聞くのだからな」
そう言ったがニーミツは恐縮してしまった様子で座るように勧めても緊張した様子で直立するばかりである。よほど生真面目な奴らしい。
「は、それでは・・・」
用件を言うのかと思ったらようやく席に着いた。さすがに緊張しすぎだろう、よほど重要な用件を任されたようだ。
(ううむ、まさか私の予感が的中してしまうとは・・・)
ヴォルカンと対面するニーミツは前回の訪問から数日を要してこの集落との立場を如何様にするか長老達の会議に参加していた時から考えていた。
このような強い力を持つ者が何故このような場所にいるのだろうか?人間は人間の多い地域に住むと思っていた彼はヴォルカンがそれに当てはまらない人間であるという事を踏まえてあれこれと人物像を予測していた。
その時偶然見つけたのは逃げ出したコボルト達が残していった人間の本だった。その本は最近になって人間達との交流を目指して解析が進められ共通言語の習得や彼らの文化様式を学ぶのに大いに助けとなった重要な書類である。
著書のタイトルは『貴族騎士』という物でその昔サマル王国で身分の低い男が貴族の娘と恋に落ち、結婚する為に出世を目指すというものだった。内容もさることながら私達の目を引いたのは主人公の騎士の身体の強靭さである。
馬の引く車に轢かれてもビクともせず、衛兵に袋叩きにあってもへこたれず、さらには王族を助ける為に盗賊に単身で立ち向かいこれを打ち倒した後に褒賞を賜り終には意中の相手と結婚し幸せな家庭を築いたのだとか。この事から察するに少なくともサマルでは強靭な男性は出世できるという事である。
そしてこの物語の終盤では主人公の彼が開拓の仕事に任命されている事から強靭な者は開拓など未開の地を目指す事が窺える。ということは、もし集落の長である彼がサマルから来た人物であるとすると彼はこの物語の主人公よろしく大身の出なのではなかろうか。
さすがに推測が飛躍しすぎているかとも思ったがビシッと整った正装で現れた彼を見たときそんな心配は彼方に吹っ飛んでいた。
(まさか本当に貴族なのでは・・・?)
初めて会った時は少々くすんで汚かった髪も洗って整えてあり、体臭を抑える為か花から取れる希少な油
を塗ってある。そしてなにより身に纏った衣服、上質な布地・・・私の故郷では滅多とお目にかかれない
絹ではなかろうか。糸を作る技術はあるがそれでも高価なもので文字通り高位の御仁が着る礼装でしか使われないもの。そして刺繍の技術は我が国を超えている。それに色が染めてあり、非常に鮮やかな物だ。これもまた我が国とは比べ物にもならない。これは彼らの祖国の国力を表す非常にわかりやすいものだ。
そうなるとこれから長老達の決定に従う事は非常に不味い。なにしろ私が受けた命は彼らに対する強硬策に他ならないからだ。
(あれほど説明したというのに・・・彼らが脅しに屈する筈が無い)
というのはこの屋敷を我ら遊撃隊にて取り囲み、領主を威圧した上でコボルト達の身柄を押さえろとの事だが・・・如何にして千の軍勢を屠る御仁を脅し、なおかつダークエルフと戦いながら散り散りに逃げるであろうコボルト達を捕まえるというのだろうか。
狐人族達との戦いに優位に立ちたいが為に長老達は焦りすぎている。冷静な判断が出来ないほどに・・・、彼らの頭の中には戦う事しかないのだろうか?最早武器を取れる年齢でもあるまいに。
しかしこうなると命令に従うのは群れに生きる者としては当然の事、しかしそれが故国を破滅に導く第一歩になるかもしれない以上はいそうですかと済ませて良い物か・・・。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
2,385
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる