ドラゴンになったので世界を救う為に国と跡継ぎつくります!

ファウスト

文字の大きさ
123 / 282
ドラゴンと動力機関の章

掃きだめの原石達 その6

しおりを挟む
風呂上りに出された食事はドワーフのそれらしく味の濃い酒のアテのような内容で汗を流す労働者向けの兎に角量と肉の割合が凄まじかった。男とチビッ子達はモリモリ食べていたが女性は途中から味の濃さに参った様で出された水を何度も飲んでいた。
食後は疲れもあって船を漕ぎ出したチビッ子達を女性達と、ついでにリックスも頼んだ。本人は嫌がっていたが女性達に笑いながら連れて行かれた。こういう時の女性の有無を言わせない雰囲気はやはり母親になれる女性にしか出せないものだ。魔性とは違う抗いがたい女性の普遍的な魅力の一つだろう。なぜか途中から合流したブンロクも連れて行かれたが。
俺はそんな連中を見送った後、一人食堂で酒を楽しんでいると仕事上がりのドワーフたちが俺を取り囲んだ。

「おい兄ちゃん、ターニャの新しい雇い主ってのはお前さんか?」
「ターニャ?」

誰だそいつ。俺が頭に?を浮かべているとドワーフ達はもじゃもじゃのひげに手を当てて思い出したように手を叩いた。

「ああ、そういやアンタにはブンロクって名乗ってたんだったか」
「ブンロク・・・ターニャって名前だったのか」

褐色の肌が眩しい二代目ブンロクの名前はターニャというそうだ。

「ところで、それがどうしたんだ?別に騙してこき使うわけじゃないが」
「そんなことしてみろ、俺達が黙ってねえ!・・・そんな事よりお前さんニホンとかいう国を知ってるらしいな?どっから聞いた?」
「あ、ああー、それね、昔馬車の運賃が足りなくてブンロクに貸してもらったのさ、それでその時に・・・」
「なるほど」
「信じた?」
「もちろん・・・信じるわけねえだろ!」

唾が飛びそうな勢いで怒られる。

「ったく!何も金が欲しいってわけじゃねえ、あの爺さんが何処の生まれなのか知りたいんだ。亡くなった事実を家族に知らせてやりてえ」
「なるほど・・・だが難しいな」
「なんでだ?」
「ニホンってのは遠い国にあって、しかも今となっちゃ行く手段が無くなっちまってる遠い国だからさ」

行けるならもう一度行ってみたい。だがそれは叶わない願いだ。何せ世界を跨いじまってるからな。

「遠いってのは海を挟んでるのか?」
「いや、此処だけの話にしてくれるか?ま、どうせ言っても信じないかもだが・・・」
「勿体つけずに教えてくれ、ニホンってのは一体何処にある?」
「此処とは違う世界さ」

そう言うと皆は静まり返り、驚いた様子だった。

「それ・・・マジか?」
「ああ、マジだ。此処にはない物も沢山知ってるし、作れはしないが・・・逆に此処にしかない物も知ってる」
「じゃあ何であのジーさんはここに・・・?」
「さてな、神のみぞ知るってところさ、時折生まれ変わりやそのまま来る奴も居る様だが・・・あのジーさんがブンロクか?」

チラッと見ると宿屋に集合写真がある。すげえなジーさん。写真かと思ったがアレは木炭で描いた絵のようだ。そこに並ぶようにして一人の老人が非常に写実的に描かれている。思いっきり日本人の見た目だ。

「そうだ、宮廷画家が教えてくれって来る程だった、だがジーさんは金も取らずにああいった不可思議なカラクリとやらを作り続けていたなあ」

希代の芸術家にして工芸家のブンロク。そして俺と同じ世界から来た先達。できることなら生きている彼と話してみたかったものだ。

「あのジーさんの飛びぬけた実力はそう言う世界で磨かれたものだと考えれば確かに納得だな。文字通り世界が違う出来栄えだった」

絵画や文化が何処まで発展しているのかはわからないが恐らく同じ道を歩む人々には強い刺激があったのかもしれないな。集合写真に写るドワーフ達は皆笑顔で描かれ、手には仕事道具が握られている。ドワーフ達は皆職人気質であり仕事への誇り、芸術品への尊敬と憧憬を少なからず持ち合わせている。そんな彼らにとって先代ブンロクはとても好意的に映ったのだろう。

「断言するがあれほどの事ができる人間は向こうでも少ないよ。俺はこの分野に関しちゃ素人だが自信を持っていえることだ」
「そうか・・・」

少し寂しそうに、それでいて少し誇らしげにつぶやいた彼らには今は亡きブンロクを偲ぶ思いがあるのだろう。

「それに恐らく、赤の他人の俺が言うのもなんだが・・・あんた等こそこの世界では家族みたいなもんだろ?」
「俺達がか?」

不思議そうな顔で言うドワーフ達。しかし俺は、少なくとも俺にはそう思う。遠い異国の地で共に仕事をし、己の芸術の価値を解り、互いに情熱を持って仕事ができる間柄だ。血は繋がっていなくとも彼らこそ家族だろう。

「故郷を探すのは難しい、っていうか無理だろう。だがもしも彼を弔いたい気持ちがあるのなら忘れないでやってくれ。そうすればあんた達の思い出の中で彼は生き続ける、だから元気に仕事してた頃を特に覚えててやっておくれよ」
「思い出の中で・・・そうか、そうだな!そうさせてもらおう」

時間をとらせて悪かったな、と彼ら言うと皆思い思いにブンロクの事を思い出し、時に笑い、時に涙しながら酒瓶を傾け、乾杯の音頭を取る。

「ブンロクジーさんの思い出に乾杯か」

ドワーフは長命だ。エルフほどではないものの200から長生きだと300年は生きる精霊の眷族。そんな彼らの記憶の中で希代の芸術家、ブンロクは生き続けるのだろう。
そして技術は二代目のブンロクとしてターニャに受け継がれていく、おそらくその後も、その次の代にも。伝統はこうして受け継がれて行くのだろう。
しおりを挟む
感想 84

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ

シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。  だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。 かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。 だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。 「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。 国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。 そして、勇者は 死んだ。 ──はずだった。 十年後。 王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。 しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。 「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」 これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。 彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!

くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作) 異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...