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ドラゴンと独立宣言の章

そっくりそのまま! その5

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二ヶ月もすればザンナル帝国全土の奴隷が国境付近に移住し、順次小麦に変わっていく。こっそり農村部にも撒いていったのでギリギリ餓死は免れているだろうか?そのせいでサマル派の農村部が出てきてしまった。サマルはこの件についてノータッチなので非情に面倒だ。ザンナルの農民達は力は無いがその分したたかに生きる術を知っている。耐えて耐えてなんとしても生き延びる術を持っている上意外と上の挿げ替えに関してドライな一面も持ち合わせている。
都市部や富裕層では皇帝や軍人に対する期待感などもあるがそれが続いているのも俺の出荷する小麦が生命線という細い物だ。

「さて、農業実験もさせているから持ち直してくれるといいがな」

農村部では飢饉に強い芋類の栽培を行わせている。それとアンダラの苗もあわせて持ち込み痩せた土地に植えるように指示しておく。腹には溜まりにくいが葉っぱも茎も食えるのでいいだろう。
後に養分を多分に使う芋類とアンダラの葉を使った二毛作がヒットし、国民の食卓に多く出回ることになった。

「さて、どうするかな・・・正直軍部は怖いがそれ以外は最早こっちの手に落ちてる。国民の信頼を崩すような風評はいくらでも流せるしな」

都市部と農村部との軋轢もとんでもない事になっている。まあ、自分達が飢えてる時に自分達だけ輸入品の小麦食ってりゃ仲も悪くなろうってもんだが。ダメ押しのなにかが足りない。そういや、どうしてこんな状況なのに国民が暴発しないんだ?最初は都市部しか巡らないだけで石が飛んできたもんだが。

「ストッパーがいやがるな、忌々しいことだ。謁見に居なかった奴かもしれんな・・・」

少なくとも皇帝の傍に侍ってた連中はそういった機微を掴むことは難しそうな無骨者ばかりだった。

「暗殺は嫌いだが・・・仕方ないな」

俺はアウロラを呼び寄せ、精鋭十名を選出してザンナル帝国へと派遣した。前回は遅れを取ったが彼女達のも挽回のチャンスをやろう。

「ザンナル帝国崩壊の最後の防波堤が居るはずだ、探し出して始末しろ」
「ご随意に」

ひよっこであったとはいえダークエルフが遅れを取るほどの軍人が居る国での諜報・暗殺ともなれば細心の注意を払う必要があるだろう。




場所は変わってザンナル帝国首都近郊の農村部。そこではオルムントが東奔西走していた。

「小麦の輸入で大分持ち直したか・・・?」
「多少は・・・しかし焼け石に水ですね。しかし将軍が間に入ってくれたお陰で引渡しも済みました」

農村部に向かう小麦を載せた馬車を見送りながら慣れない食料品の管理に振り回されていたオルムントは農民と都市部の富裕層との間に出来た亀裂に頭を悩ませていた。都市部の人間は皇帝の言う事を聞いてくれるが農村部の人間はそうではないからだ。
なにより地方の貴族や豪族の類は政争に負けて追いやられた者も多く、皇帝や都市部の貴族に反感を持っている者も少なくない。小麦を都市部の者が買いあさり、商人はそれを見て値段を上げる。そして小麦と交換となる獣人達はまるで金貨が出歩いているかのように人攫いや奴隷商人が群がり治安を悪化させていた。

(小麦の代わりに奴隷を売りに出すなど反対であった・・・)

皇帝に反対したくはなかったがオルムントは奴隷の輸出に関して否定的だった。

(国民を売りに出して買った小麦で飢えを凌ぐとは・・・嘆かわしい事だ)

為政には綺麗事では片付かない事がたくさんある。それは理解しているつもりだったがそれでもオルムントには同意しかねる出来事であった。なによりその事が国民の反発を招くのではないのかと言う懸念もあった。

「国難を乗り切るにはどうすればいいのか・・・政治に疎い自分ではどれだけ力になれることやら」

馬を下りて部下達と急速を取っていると不意に女性の悲鳴が聞こえる。

「何事だ!」
「あそこから悲鳴が・・・どうやら奴隷狩りのようです!」

部下が指差した方向を見るとならず者達がフードを被った女性数人を追いかけているのが見える。

「うぬぅ、ワシの目の前であのような非道を行おうとは・・・ゆるせん!あの者達をひっ捕らえろ!」

オルムントが指示を出すと騎士達が急いでそちらへ向かう。ならず者達は結構な数がおり、郊外に常駐する騎士達は女性を保護するどころではないようだ。

「お、お助けください!」
「お嬢さん方、此方へ!」

逃れた女性達がオルムントの方へやってくる。オルムントは彼女達を自身の後ろへと隠しながらならず者達を睨みつける。その前に残った護衛の騎士達が立ちふさがると残ったならず者達とにらみ合いを始める。

「ありがとうございます、騎士様」
「なに、帝国の将軍があの程度の奴らに遅れをとったりはせん」

震えた声でそう言う女性にオルムントは笑顔で答える。

「と、いいますと貴方様が農村部でも信頼の厚いオルムント将軍様でございますか!」
「いかにも、それがどうかしたか?」
「いえ、嬉しいのです、帝国を支えるお方に出会えたことを」
「大げさだ、しかし今の帝国は確かに危うい・・・しかしワシが居る内は帝国を壊させはせん」

そう意気込み剣の柄に手をかけた瞬間だった。

「いえ、私共は居なくなっていただきたいのですよなぜなら私共は・・・」

ゾッとするような冷たい一言にオルムントは振り返ろうとした刹那言葉を失った、黒い刃が胸元から飛び出したからだ。

「き、貴様らは・・・」
「間者、でございますれば」
「む、無念だ・・・」

フードを取った女性の素顔は褐色の肌に長い耳を持つ種族。ダークエルフだった。オルムントは的確に破壊され、それでも血すら漏れ出ない一撃に歯を食いしばったが二発目が頭に直撃した瞬間に崩れ落ちた。
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