196 / 282
ドラゴンと独立宣言の章
観兵式でのあれこれ その3
しおりを挟む
そんなアレクシアの不安を他所に叙任式は滞りなく完了し、サマル王とヴォルカンは教会と貴族の面々が見守る中で伯爵位への正式な叙任と杖の授与が行われた。
「アダムスター伯爵、これで君はお父上に次ぐ爵位になった。これからも国の為に尽くしてくれる事を期待する」
「全力を以って当たらせていただきましょう」
お決まりの定型句を述べて杖を恭しく受け取ると周囲から祝福の言葉が贈られる。教会以外の人間の中には心中穏やかざる者も居るだろうが王族に次ぐ権威の象徴たる教会が睨みを利かせている中で反論出きる者はいない。もちろん教会には多額の寄付がアダムスター領から流れている事も補足しておく。
経典を文書化して保管・量産できるようになったので教会は金銭と同様に不可欠な援助を受けているといっていい。
「それでは次いでザンナル帝国跡地における我が孫アレクシアの総督の任命式とその補佐たる貴殿の任命式を執り行う」
サマル王の言葉を受けてアレクシアが王宮の二階から叙任式を行った会場へと降りてくる。皆はアレクシアの凛々しさに目を奪われ、男のみならず・・・というか女性が黄色い声を上げていた。
「陛下、アレクシア・ウルリカ・フリドリン・サマル参上いたしました」
膝を突いて臣下の礼を取ると会場の皆も一斉に膝をつく。
「うむ、これよりそなたをザンナル跡地を統括する総督に任命する。これよりは一人前の王族として任を全うせよ」
「はっ!仁政を敷き、サマルの栄光を遥か遠くの地平まで轟かせてご覧に入れましょう」
「次に、ヴォルカン・アダムスター伯爵」
「はっ」
場所を入れ替えてサマル王の正面に立つ際にアレクシアの隣を通るとアレクシアは此方を見つめているのでヴォルカンは口角を持ち上げて視線をぶつける。するとアレクシアは少しだけ驚いた様な顔をしていたが笑顔を見て緊張が解れたのか柔和な笑みを浮かべて一歩下がった。
「そなたを総督府補佐官へと任命する。アレクシアを補佐し、ザンナルを立派な土地へと再建せよ」
「全霊をもって任にあたります」
ヴォルカンの返事に満足げに頷いたサマル王は内心礼儀正しく振舞うヴォルカンが似合わな過ぎて噴出しそうだったが大舞台に慣れているので表情を微塵も崩さずに任命式を完遂した。
「任命式の終了に伴いこれよりはアレクシアが国を出、総督就任を祝う宴を開催する。夕刻を告げる鐘まで時間を取るのでそのときにまた見えよう」
サマル王の言葉を受けて一旦解散となり貴族達は礼装を脱いでパーティ用の服装に着替えるべく退席していく。本来ならば即開催しても良かったが貴族や騎士の中には礼装に鎧を採用している者も多く妻を迎えに行く時間やお色直しの時間が必要なのである。
「ふぅ、やっと終わった・・・」
続々と王宮を後にする皆を見つめながらアレクシアはほっと息を吐いた。鎧を脱いで普段の服装に着替えたい思いで一杯だったが鎧を脱いだとしても次に着るのはパーティ用の服装なのだ。
一時期は母も彼女にドレスを着せたがったが余りにも似合わなかったので皆が言葉を無くしてしまい、それ以降は男装の礼服を身に纏っている。しかしそんな彼女も乙女、ヴォルカンを前に背伸びして見せたいお年頃である。
(私がドレスを着たらヴォルは喜んでくれるだろうか・・・)
似合わないとは思いつつも母から女性が着る晴れ着の一つとして教えられている彼女にとって愛する男性の前で綺麗でいたいと考えるのは当然であろう。
「御爺様・・・その、よろしいですか?」
「なんだねアレクシア」
モジモジと歯切れの悪い孫を前に心当たりの無いわけではないサマル王だったがヴォルカンの礼儀正しい姿を思い出してバカ笑いしたい所だったのでちょっと素っ気無い返事を返してしまう。
「ヴォルの事なんですg」
「ぶふぅ!」
ヴォルカンの名前を聞いて遂に国王は決壊した。
「お、御爺様?!」
「ゲーッホゲホゲホ!んんっ!ゲフンゴフン!」
「大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫だ!」
不遜な態度がデフォのヴォルカンが慇懃に振舞う姿はサマル王にとって無茶苦茶違和感の激しいものだった。激しい笑いを引き起こすほど似合わないものでもあった。最低限の礼儀を嗜んではいるがヴォルカンの本筋は和の方の礼儀なので全くといっていいほど似合わないのだ。
「あ、アダムスターはくしゃ・・・ぷぷ・・・伯爵がどうした?」
「ええ、彼の為にその・・・ドレスが着てみたくて」
「えっ?」
サマル王の思考がフリーズする。完全に予想外の言葉であった。
「ドレスか・・・確かにパーティ用のドレスは妻も、皇太子妃殿も持っていたが・・・」
そう言いつつアレクシアを見ると彼女はモジモジと頬を染めながら長い髪をいじっている。
(これが恋の力か・・・まさか嫌いであったドレスを着てみたいだなどと・・・)
恋は人をとても精力的にする。優柔不断で有名な皇太子フリードリッヒに決断という難行を即決させた人生の一大イベント。
「言いたい事はわかった、間に合うかはわからんが掛け合ってみよう」
「本当ですか!」
アレクシアの喜びに満ちた表情に笑顔で頷くとサマル王は使いを出す事にした。
「アダムスター伯爵、これで君はお父上に次ぐ爵位になった。これからも国の為に尽くしてくれる事を期待する」
「全力を以って当たらせていただきましょう」
お決まりの定型句を述べて杖を恭しく受け取ると周囲から祝福の言葉が贈られる。教会以外の人間の中には心中穏やかざる者も居るだろうが王族に次ぐ権威の象徴たる教会が睨みを利かせている中で反論出きる者はいない。もちろん教会には多額の寄付がアダムスター領から流れている事も補足しておく。
経典を文書化して保管・量産できるようになったので教会は金銭と同様に不可欠な援助を受けているといっていい。
「それでは次いでザンナル帝国跡地における我が孫アレクシアの総督の任命式とその補佐たる貴殿の任命式を執り行う」
サマル王の言葉を受けてアレクシアが王宮の二階から叙任式を行った会場へと降りてくる。皆はアレクシアの凛々しさに目を奪われ、男のみならず・・・というか女性が黄色い声を上げていた。
「陛下、アレクシア・ウルリカ・フリドリン・サマル参上いたしました」
膝を突いて臣下の礼を取ると会場の皆も一斉に膝をつく。
「うむ、これよりそなたをザンナル跡地を統括する総督に任命する。これよりは一人前の王族として任を全うせよ」
「はっ!仁政を敷き、サマルの栄光を遥か遠くの地平まで轟かせてご覧に入れましょう」
「次に、ヴォルカン・アダムスター伯爵」
「はっ」
場所を入れ替えてサマル王の正面に立つ際にアレクシアの隣を通るとアレクシアは此方を見つめているのでヴォルカンは口角を持ち上げて視線をぶつける。するとアレクシアは少しだけ驚いた様な顔をしていたが笑顔を見て緊張が解れたのか柔和な笑みを浮かべて一歩下がった。
「そなたを総督府補佐官へと任命する。アレクシアを補佐し、ザンナルを立派な土地へと再建せよ」
「全霊をもって任にあたります」
ヴォルカンの返事に満足げに頷いたサマル王は内心礼儀正しく振舞うヴォルカンが似合わな過ぎて噴出しそうだったが大舞台に慣れているので表情を微塵も崩さずに任命式を完遂した。
「任命式の終了に伴いこれよりはアレクシアが国を出、総督就任を祝う宴を開催する。夕刻を告げる鐘まで時間を取るのでそのときにまた見えよう」
サマル王の言葉を受けて一旦解散となり貴族達は礼装を脱いでパーティ用の服装に着替えるべく退席していく。本来ならば即開催しても良かったが貴族や騎士の中には礼装に鎧を採用している者も多く妻を迎えに行く時間やお色直しの時間が必要なのである。
「ふぅ、やっと終わった・・・」
続々と王宮を後にする皆を見つめながらアレクシアはほっと息を吐いた。鎧を脱いで普段の服装に着替えたい思いで一杯だったが鎧を脱いだとしても次に着るのはパーティ用の服装なのだ。
一時期は母も彼女にドレスを着せたがったが余りにも似合わなかったので皆が言葉を無くしてしまい、それ以降は男装の礼服を身に纏っている。しかしそんな彼女も乙女、ヴォルカンを前に背伸びして見せたいお年頃である。
(私がドレスを着たらヴォルは喜んでくれるだろうか・・・)
似合わないとは思いつつも母から女性が着る晴れ着の一つとして教えられている彼女にとって愛する男性の前で綺麗でいたいと考えるのは当然であろう。
「御爺様・・・その、よろしいですか?」
「なんだねアレクシア」
モジモジと歯切れの悪い孫を前に心当たりの無いわけではないサマル王だったがヴォルカンの礼儀正しい姿を思い出してバカ笑いしたい所だったのでちょっと素っ気無い返事を返してしまう。
「ヴォルの事なんですg」
「ぶふぅ!」
ヴォルカンの名前を聞いて遂に国王は決壊した。
「お、御爺様?!」
「ゲーッホゲホゲホ!んんっ!ゲフンゴフン!」
「大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫だ!」
不遜な態度がデフォのヴォルカンが慇懃に振舞う姿はサマル王にとって無茶苦茶違和感の激しいものだった。激しい笑いを引き起こすほど似合わないものでもあった。最低限の礼儀を嗜んではいるがヴォルカンの本筋は和の方の礼儀なので全くといっていいほど似合わないのだ。
「あ、アダムスターはくしゃ・・・ぷぷ・・・伯爵がどうした?」
「ええ、彼の為にその・・・ドレスが着てみたくて」
「えっ?」
サマル王の思考がフリーズする。完全に予想外の言葉であった。
「ドレスか・・・確かにパーティ用のドレスは妻も、皇太子妃殿も持っていたが・・・」
そう言いつつアレクシアを見ると彼女はモジモジと頬を染めながら長い髪をいじっている。
(これが恋の力か・・・まさか嫌いであったドレスを着てみたいだなどと・・・)
恋は人をとても精力的にする。優柔不断で有名な皇太子フリードリッヒに決断という難行を即決させた人生の一大イベント。
「言いたい事はわかった、間に合うかはわからんが掛け合ってみよう」
「本当ですか!」
アレクシアの喜びに満ちた表情に笑顔で頷くとサマル王は使いを出す事にした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
俺得リターン!異世界から地球に戻っても魔法使えるし?アイテムボックスあるし?地球が大変な事になっても俺得なんですが!
くまの香
ファンタジー
鹿野香(かのかおる)男49歳未婚の派遣が、ある日突然仕事中に異世界へ飛ばされた。(←前作)
異世界でようやく平和な日常を掴んだが、今度は地球へ戻る事に。隕石落下で大混乱中の地球でも相変わらず呑気に頑張るおじさんの日常。「大丈夫、俺、ラッキーだから」
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる