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ドラゴンと独立宣言の章
男だったら! その3
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互いの激しい剣撃はかなりの時間続いた。互いに肩で息をし、血の混じった汗を拭うこともできずに鋭い剣の応酬が火花を散らしていた。
「ふんっ!」
「なんのぉっ!」
互いに真っ向から受け、ギリギリでかわし、時には目を覆いたくなるほどの危機的状況を獣の感覚で逃れ、再び剣を交える。
「戦士長とここまで打ち合える者は初めてだな」
「うむ、決着は文字通り神のみぞ知るところだろうか」
戦士達は固唾を飲んで見守る。長を務めるだけあって戦士長の技巧は卓越しており、それに追随する隊長の技巧もまた彼らの中で卓越していた。
「ぜぁああっ!」
その中で明暗を別けた一瞬。白刃が中天に差し掛かった陽光に煌めいた刹那。片方の剣が中程から折れ、きりきりと宙を舞った。
「戦士長の剣が・・・!」
「折れたっ!」
「ば、馬鹿な・・・そのような細い剣よりも先に・・・」
してやったと隊長は表情のみで笑みを浮かべたが内心はひやひやしていた。折れたのは偶然だった。
ただ彼らは数日の間騎士達と戦っており、その際に剣についた微細な傷がこの激闘の際に耐久値として決定的な差を作ったのだ。
勝負は決した、後はどうするべきか。一騎討ちの勝者であり、大将に打ち勝った。戦であるならこれはすでにチェックメイトと言っていいが・・・。
「俺の勝ち・・・ということでいいんだな?」
「ぐぬぬ・・・」
いかにも不満げな表情の戦士長に隊長は困り果てていた。
(勝者の決定、彼らの流儀で言えば俺の勝ちはつまるところ天の思し召しと言うやつだろうが・・・)
このまま勝利宣言するのもなんとなく憚られるような、微妙な雰囲気だ。何故?と問いかけたいが彼らの事情に詳しい隊員の姿も見えない。どうやら輪の外に追いやられてしまっているらしい。
もともと人数差があったためこのまま不満が爆発した場合中心にいる自分はもちろん、輪の中に食い込んだ身内の隊員達も危険に晒されてしまう。
(こうなっては一か八か・・・賭けにでるしかあるまい・・・)
隊長は自身の中で決意を固めると上着のボタンに手を掛けた。
「隊長?!」
突然上着を脱ぎ出した隊長に隊員達は戸惑ったがそれは周囲の戦士達も同じようで、戦士長も同様だった。
「何をしている?」
「不満げだからな、俺もこんな決着は望まない・・・」
そう言うと隊長は上着とシャツを全て脱ぎ捨て、ついでにサーベルも鞘に納めて隊員に投げ渡した。
「男だったら拳ひとつで決着をつけると言うのはどうだ?」
「・・・!」
戦士長はまさかの申し出に目を細めると自身もまた剣を投げ捨ててずい、と前に歩みでた。
「まさかここまでの戦士とはな・・・恐れ入った、その挑戦喜んで受けさせていただく」
言葉には端々に敬意が籠っており、それが隊長には嬉しくもあったが同時に恐ろしくもあった。
(あー・・・クソ、こんなゴリラみたいな奴と殴りあいか・・・)
剣では互角だったが体格は相手が上、さらには見た目の筋肉量も同様だった。
「さて、どこからでもかかってきなさい」
隊長がそう言うと同時に囲みが一回り小さくなり、丁度ボクシングのリングくらいの大きさを円形にした感じになった。しかしながら囲むのがどちらも筋骨たくましい興奮ぎみの男ばかりなので窮屈さと熱気は恐ろしくひどいものだった。
「ぐぉおおお!」
「ぐっ・・・このっ!」
「がっ・・・ぐぅっ!」
戦士長が殴れば、隊長も殴り返し、隊長が投げ飛ばせば戦士長がやり返す。
剣撃同様に一進一退の攻防が続くが、ダメージが大きい分、互いに息切れが早かった。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「はーっ・・・はーっ・・・」
戦士長も隊長も殴られては壁に押し戻され、押し戻されては相手を殴り、そしてまた戻ってきた相手に殴られ・・・互いに技量というよりはもはや意地のぶつかりあいになっていた。
「ぐ・・・おぉっ!」
「ふぅ・・・ふぅう!」
隊長の拳が空を切り、どうと倒れる。戦士長も避けた際に足を縺れさせて派手に転んだ。互いに大の字になって荒い息をしながらも目は相手を睨み、先んじて立ち上がろうともがき続ける。
「隊長!しっかり!」
「戦士長!たってください!」
「隊長!相手はもうフラフラですよ!」
「戦士長!とどめ差す好機です!」
応援が入り交じり、足を踏み鳴らしながら互いの長を叱咤激励する。もはや当人には聞こえてくる応援がはたしてどちらを応援しているのかわからない状況だったが、とにかく勝たねばと足に満身の力をこめて立ち上がらんとする。
「はぁ・・・はぁ、足が震えてるぞ・・・はぁー、限界なんじゃないのか?」
「ぬ、ぬかせ・・・ゼイ、貴様こそ・・・ヒュー、目が虚ろじゃないか?」
互いに僅かでも弱っているところを見せまいと軽口を叩きあうがどちらからみても相手が満身創痍なのは目に見えていた。
当然といえば当然である、戦士長は数日にわたる戦闘の後の激闘であるし、隊長は強行軍の先頭で走り続け睡眠もろくにとらないでの戦闘の開始である。
そしてなにより一騎討ちという神経をすり減らすような戦いの後に間をおかず殴りあいを始めたのだ。いかに体力に優れる獣人といえど信じられないオーバーワークであった。
「ふんっ!」
「なんのぉっ!」
互いに真っ向から受け、ギリギリでかわし、時には目を覆いたくなるほどの危機的状況を獣の感覚で逃れ、再び剣を交える。
「戦士長とここまで打ち合える者は初めてだな」
「うむ、決着は文字通り神のみぞ知るところだろうか」
戦士達は固唾を飲んで見守る。長を務めるだけあって戦士長の技巧は卓越しており、それに追随する隊長の技巧もまた彼らの中で卓越していた。
「ぜぁああっ!」
その中で明暗を別けた一瞬。白刃が中天に差し掛かった陽光に煌めいた刹那。片方の剣が中程から折れ、きりきりと宙を舞った。
「戦士長の剣が・・・!」
「折れたっ!」
「ば、馬鹿な・・・そのような細い剣よりも先に・・・」
してやったと隊長は表情のみで笑みを浮かべたが内心はひやひやしていた。折れたのは偶然だった。
ただ彼らは数日の間騎士達と戦っており、その際に剣についた微細な傷がこの激闘の際に耐久値として決定的な差を作ったのだ。
勝負は決した、後はどうするべきか。一騎討ちの勝者であり、大将に打ち勝った。戦であるならこれはすでにチェックメイトと言っていいが・・・。
「俺の勝ち・・・ということでいいんだな?」
「ぐぬぬ・・・」
いかにも不満げな表情の戦士長に隊長は困り果てていた。
(勝者の決定、彼らの流儀で言えば俺の勝ちはつまるところ天の思し召しと言うやつだろうが・・・)
このまま勝利宣言するのもなんとなく憚られるような、微妙な雰囲気だ。何故?と問いかけたいが彼らの事情に詳しい隊員の姿も見えない。どうやら輪の外に追いやられてしまっているらしい。
もともと人数差があったためこのまま不満が爆発した場合中心にいる自分はもちろん、輪の中に食い込んだ身内の隊員達も危険に晒されてしまう。
(こうなっては一か八か・・・賭けにでるしかあるまい・・・)
隊長は自身の中で決意を固めると上着のボタンに手を掛けた。
「隊長?!」
突然上着を脱ぎ出した隊長に隊員達は戸惑ったがそれは周囲の戦士達も同じようで、戦士長も同様だった。
「何をしている?」
「不満げだからな、俺もこんな決着は望まない・・・」
そう言うと隊長は上着とシャツを全て脱ぎ捨て、ついでにサーベルも鞘に納めて隊員に投げ渡した。
「男だったら拳ひとつで決着をつけると言うのはどうだ?」
「・・・!」
戦士長はまさかの申し出に目を細めると自身もまた剣を投げ捨ててずい、と前に歩みでた。
「まさかここまでの戦士とはな・・・恐れ入った、その挑戦喜んで受けさせていただく」
言葉には端々に敬意が籠っており、それが隊長には嬉しくもあったが同時に恐ろしくもあった。
(あー・・・クソ、こんなゴリラみたいな奴と殴りあいか・・・)
剣では互角だったが体格は相手が上、さらには見た目の筋肉量も同様だった。
「さて、どこからでもかかってきなさい」
隊長がそう言うと同時に囲みが一回り小さくなり、丁度ボクシングのリングくらいの大きさを円形にした感じになった。しかしながら囲むのがどちらも筋骨たくましい興奮ぎみの男ばかりなので窮屈さと熱気は恐ろしくひどいものだった。
「ぐぉおおお!」
「ぐっ・・・このっ!」
「がっ・・・ぐぅっ!」
戦士長が殴れば、隊長も殴り返し、隊長が投げ飛ばせば戦士長がやり返す。
剣撃同様に一進一退の攻防が続くが、ダメージが大きい分、互いに息切れが早かった。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「はーっ・・・はーっ・・・」
戦士長も隊長も殴られては壁に押し戻され、押し戻されては相手を殴り、そしてまた戻ってきた相手に殴られ・・・互いに技量というよりはもはや意地のぶつかりあいになっていた。
「ぐ・・・おぉっ!」
「ふぅ・・・ふぅう!」
隊長の拳が空を切り、どうと倒れる。戦士長も避けた際に足を縺れさせて派手に転んだ。互いに大の字になって荒い息をしながらも目は相手を睨み、先んじて立ち上がろうともがき続ける。
「隊長!しっかり!」
「戦士長!たってください!」
「隊長!相手はもうフラフラですよ!」
「戦士長!とどめ差す好機です!」
応援が入り交じり、足を踏み鳴らしながら互いの長を叱咤激励する。もはや当人には聞こえてくる応援がはたしてどちらを応援しているのかわからない状況だったが、とにかく勝たねばと足に満身の力をこめて立ち上がらんとする。
「はぁ・・・はぁ、足が震えてるぞ・・・はぁー、限界なんじゃないのか?」
「ぬ、ぬかせ・・・ゼイ、貴様こそ・・・ヒュー、目が虚ろじゃないか?」
互いに僅かでも弱っているところを見せまいと軽口を叩きあうがどちらからみても相手が満身創痍なのは目に見えていた。
当然といえば当然である、戦士長は数日にわたる戦闘の後の激闘であるし、隊長は強行軍の先頭で走り続け睡眠もろくにとらないでの戦闘の開始である。
そしてなにより一騎討ちという神経をすり減らすような戦いの後に間をおかず殴りあいを始めたのだ。いかに体力に優れる獣人といえど信じられないオーバーワークであった。
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