9 / 49
悪意のお茶会
しおりを挟む令嬢には令嬢同士のお付き合いがある。
きょうのシャーロットお嬢さまは、ブライス公爵家のカミラ嬢のお茶会にお呼ばれしている。
「ふう」
ブライス邸に向かう馬車の中、お嬢さまは小さくため息をついた。心持ちうつむいている。
そんなお嬢さまはきょうもかわいらしい。
紺色のデイドレスと帽子は、ピンクの髪と白い肌をひきたたせる。
うん、かわいい。
わたしは満足する。
リカちゃんサイズにして持ち歩きたいかわいらしさだ。
手乗りお嬢さま。
うふっ。
おしゃれカフェに行って、おしゃれスウィーツとならべて写真を撮ったら、さぞかしかわいかろう。
キラキラブルーのクリームソーダとか、真っ赤なイチゴソースのかき氷とか、シャインマスカットのタルトとか。
はっ!
リカちゃんサイズのお嬢さまにマスカットを持たせたらどうだろう。
両手で抱えるかんじで。スイカみたいに!
やだ! めっちゃかわいい!
イチゴとか。
バナナに乗せてみたり。
レインボーわたあめの上に乗せてみたり。ふかふかと。
スマホ! スマホがあれば!
撮りまくるよー。加工もいっぱいしちゃって。
シャーロットフォルダはすぐにいっぱいになるだろうな。
「カミラさまって、ちょっとこわいのよね」
妄想にふけっていたら、お嬢さまがぽつりと言った。
わかります。わたしもあの人ちょっとこわいです。
どんなときでも、うすい笑みを浮かべていて、お面かなって思うくらい、表情がかわらない。
なにを考えているのかわからないのだ。表情の裏の感情が、一切わからない。
こわい。
ぜったい、裏がある。
お茶会が終わったら、だれがなにを言ったとかノートに書いていそう。お茶会デスノート。
お嬢さまが、いやいやながらもこうして向かっているのにはわけがある。
カミラは王太子殿下の婚約者候補の一人だった。けっきょく選ばれたのはルイーズさまだったのだが、どうもそれを根に持っているようなのだ。
シャーロットお嬢さまに対するローズ・ウィンチェスター。
そんな関係。
しかも、ルイーズさまとカミラの家は同格。招待を毎回断るわけにもいかない。それでも二回に一回は断っているのだけれど、いかんせん回数が多い。しつこく誘ってくる。
どうあっても呼びつけたいらしい。行けばカミラの取り巻きたちが手ぐすね引いて待っている。
ルイーズさまは敵陣にひとりで乗りこまなくてはならないのだ。
カミラ自身はなにも言わない。言うのは取り巻きたち。自分の手は汚さないタイプ。
思い出すボスママと取り巻きたち。ざわっとする。
「王太子殿下はカミラさまにやさしくほほえんでくださったのよ」
「特別におことばをかけてくださったの」
それに、なんと答えればいいのだ。
ルイーズさまには日常茶飯事だ。なんなら、チュッてする。ほっぺだけど。きゃ。
だからルイーズさまを孤立無援にしないように、シャーロットお嬢さまも出席なさる。
「わたしはだいじょうぶだから」
ルイーズさまはそう言うけれど、そこで「そうですか」と引き下がるほどお嬢さまは薄情じゃない。
カミラの取り巻きは三人。カミラを入れて四対二。
しかも、シャーロットお嬢さまもルイーズさまも、女の戦いにガンガン切り込むタイプじゃない。
どっちかっていうと防御するのみ。
それをいいことに、やつらはつけ上がる。まったく!
きょうは天気がいいのでお庭でのお茶会。ちょうどバラが見ごろ。さすが公爵邸、すばらしいバラ園である。
あまり見たことのない、黄色いフリフリのバラとかある。なんだろうあれ。すごくかわいい。帰りにおみやげにくれたりしないだろうか。
……バラに罪はない。
侍女たちは、すぐ隣に用意してもらったテーブルにつく。お茶もお菓子もお嬢さまと同じものが出された。
ラッキー。おいしそう。
性格は悪いが気前はいい。
「きょうのお茶はいかがかしら。南方の国のお茶ですって」
カミラが言う。
「まあ、とってもさわやかでおいしいですわ」
取り巻きその一。
たしかに、ミント風味でさわやかだ。はちみつが入っているのか、ほんのり甘い。
「デイビス商会のお茶ですの?」
取り巻きその二。
「そうですの」
「あの商会が扱っているものは確かですものね」
取り巻きその三。
デイビス商会はいくつかある王都の商会の中でも一番高級なお店である。王室御用達。彼らを使うのは一種のステイタスなのだ。
「ルイーズさま」
カミラが言った。
ああ、こいつヘビみたいだ。アナコンダのように、ひんやりとした感触でじわりじわりと締め付けてくる。
いっしゅん、ざわっと寒気が走った。
「いかがです、このお茶」
「ええ。とってもおいしいですわね」
ルイーズさまはにこやかに答える。
「こんど、王家の皆さまにも献上しようと思いますの」
だからなんだ、アナコンダ。
王室にはとっくに納入していると思うけど。
「きっと皆さま、お喜びになりますわね」
能面で返すルイーズさま。
「ルーク殿下もことのほか、お喜びになるのじゃないかしら」
カミラの目があやしく光った!
ん? なんで、ルーク殿下?
シャーロットお嬢さまもルイーズさまも、きょとんとする。
「あらあ、いやだわ、カミラさま。シャーロットさまの前でおっしゃってはいけませんわ」
取り巻きの三人が笑った。きゅうっと目を細めて、口角がいびつに吊り上がる。
ああ、いやだ。集団でひとりをつるし上げるときの特有の顔だ。
「ルーク殿下とルイーズさまが特別に仲がよろしいなんて、告げ口みたいですわ」
はあ?
こいつら、なにを言ってんの?
83
あなたにおすすめの小説
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】
ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る――
※他サイトでも投稿中
転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【だって、私はただのモブですから】
10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした――
※他サイトでも投稿中
多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】
23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも!
そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。
お願いですから、私に構わないで下さい!
※ 他サイトでも投稿中
お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です>
【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】
今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる