転生おばさんは有能な侍女

吉田ルネ

文字の大きさ
36 / 49

アランの懺悔

しおりを挟む

「また誘われて、また大儲けできるかもと思ってしまいました」

 ああ、やはり。

「負けたんだね」

「……はい」

「それで」

「はじめは友人が負けた分を貸してくれて。それからは賭博場の胴元が肩代わりしてくれて」



「きみ、それは罠にはめる典型的なパターンだよ」

 カーソン公が気の毒そうに言った。

「はい、後から知りました。負けを取り戻そうとしてそれから三度ほど行きましたが、負けが増えただけでした」



「その友人は?」

「かかわりたくないと、それっきり会ってもくれません」

「もしかすると、その友人もグルだったかもしれないな。気の毒だが」

 カーソン公がそう言うと、アランは死にそうなほど絶望的な顔をした。



 むこうにしたら、いいカモだったのだろうな。若くて金があって、世間知らずで。

「闇賭博はご法度だ。家がどうなってもいいのか」そう脅せば、言うことを聞く。



「いや」

 カーソン公が首をひねった。

「もしかしたら、狙いははじめからメアリだったのかもしれない」

「え!」

「この陰謀に使うために?」



「その賭博場はすぐにでも調査しなければいけないな。ブライス公が絡んでいるならなおさらだ」

「わ、わたしのせいで姉は大罪を……」

 アランはとうとう泣き出してしまった。



「あきらめるな。黒幕がブライス公ならば救済の余地はある」

「ほ、ほんとうですか!」

 アランは縋るように手をのばした。

「わたしはどんな罰でも受けます。でも姉は悪くないんです。姉だけは助けてください。お願いします」

 ひざに額がつくほどに、アランは深くお辞儀をした。

「真相の解明には、きみの証言が必要だ。いいね」

「はい」



 では、とカーソン公は気をとりなおすように言った。

「すこし、事態を整理しようか」

 ハミルトン伯が答えた。

「王太子殿下の容態はわかりません。ルーク殿下、ルイーズ嬢が拘束されています。それから二階の応接室にブライス公、カミラ嬢。ジェームズ殿下がいらっしゃいます。そこへシャーロット嬢とアメリアがグレイ伯によって連れ込まれました」

 聞くとカーソン公は眉をひそめた。

「なぜ、シャーロット嬢が……」

「わかりません」



「ゆるせん」

 カーソン公はつぶやいた。

「王太子殿下の命をねらい、その罪をルーク殿下とルイーズに着せるなど」

「ええ。ええ。なんとしても助けなければ」

「うむ、ブライス公を捕らえよう。なにかを企んでいるのはわかっていたのだ。ただ証拠がつかめなかった。これは逆転のチャンスでもある。まずは国王陛下にお目通りを」



 部屋を出て、見張りの衛兵に「ブライス公のところへ連れていく」と話すと、あっさりと通してくれた。

 ほんとうに、王宮の警備だいじょうぶなんだろうか。



 それからカーソン公について内宮へ向かう。ハミルトン伯は内宮など行ったこともない。どこにあるかもよく知らないくらいだ。



 カーソン公は迷うことなく歩いていく。公爵ともなると内宮まで知っているのだな。さすがだな、などと妙に納得する。



 さて、見張りになんて言おう。またブライス公からの伝言だ、で通るだろうか。と思ったのは杞憂だった。

 立っていた見張りはみな、カーソン公を見るとぴしりと敬礼をした。



 おや?



「形勢は逆転したらしいな」

 カーソン公はにやりと笑った。

 ひときわ豪華な扉の前で、立ちどまる。ふたりの見張りは敬礼をする。

 それから、扉を叩いた。

「カーソン公、ハミルトン伯、おいでです」



 中から扉があいた。顔を見せた侍従はホッとしていた。

「どうぞお入りください」

 カーソン公に続き、ハミルトン伯、アランが入ると扉はふたたび閉じられた。



「おとうさま!」

「ルイーズ?」

 おたがいに駆け寄った。

 国王陛下の部屋には、王妃さまとルイーズ嬢が身を寄せていた。

 しかもルイーズ嬢の惨状はなんだ。



「地下牢に入れたというのよ」

 王妃さまが怒り心頭だ。泥に汚れたドレス。手には包帯が巻かれている。

「転んで擦りむいてしまったの」

 王妃さまの侍女が手当てをしたという。ほかにも打ち身やらなにやらあったらしい。

「なぜ転んだのだ」

 カーソン公はぎりっと詰め寄った。

「乱暴にされたのだろう。ぜったいにゆるさん」

「ああ、絶対にゆるしてはならん。さあ、決着をつけに行こう」

 国王陛下の目には、力がみなぎっていた。



 しばらくの後開いた扉から出てきた国王は、ひさしぶりにタイを締め、フロックコートを着ていた。

 国王は落馬により大腿骨を骨折していたのだった。痛みはだいぶ治まったものの、歩くのはまだ不自由だ。

 杖をつき、カーソン公にささえられる姿は少々痛々しいが、それでもやはり国王としての威厳を放っていたのだった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【だって、私はただのモブですから】 10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした―― ※他サイトでも投稿中

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

お言葉を返すようですが、私それ程暇人ではありませんので

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<あなた方を相手にするだけ、時間の無駄です> 【私に濡れ衣を着せるなんて、皆さん本当に暇人ですね】 今日も私は許婚に身に覚えの無い嫌がらせを彼の幼馴染に働いたと言われて叱責される。そして彼の腕の中には怯えたふりをする彼女の姿。しかも2人を取り巻く人々までもがこぞって私を悪者よばわりしてくる有様。私がいつどこで嫌がらせを?あなた方が思う程、私暇人ではありませんけど?

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

虐げられた人生に疲れたので本物の悪女に私はなります

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
伯爵家である私の家には両親を亡くして一緒に暮らす同い年の従妹のカサンドラがいる。当主である父はカサンドラばかりを溺愛し、何故か実の娘である私を虐げる。その為に母も、使用人も、屋敷に出入りする人達までもが皆私を馬鹿にし、時には罠を這って陥れ、その度に私は叱責される。どんなに自分の仕業では無いと訴えても、謝罪しても許されないなら、いっそ本当の悪女になることにした。その矢先に私の婚約者候補を名乗る人物が現れて、話は思わぬ方向へ・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

処理中です...