超名門貴族の次男、魔法を授かれず追放される~辺境の地でスローライフを送ろうとしたら、可愛い妹達が追いかけて来た件~

おさない

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第26話 ハウラの崩壊1

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「お、お願いします……どうか……どうか怒りをお鎮め下さい……!」
「うるさい黙れッ! この俺に口答えする気かあぁぁぁッ!」
「きゃあっ?!」

 そう言って、デルフォス様は私の顔を殴る。

「ハウラ、貴様もオリヴィアと同じように俺に逆らうのか? メイドはメイドらしく命令に従ってれば良いんだよッ!」
「も、申し訳……ございません……」
「ふん、分かったら大人しく罰を受けていろ。あのクズどもが逃げ出した責任の一端は貴様にもあるんだからなッ!」
「はい…………分かりました……」
「違う、『ありがとうございます』だろハウラ?」
「…………っ!」

 醜悪な笑みを浮かべるデルフォス様。私は……どうしてこんな人間に仕えているのだろうか。

「どうした? 早く言えよ」
「あ、ありがとう……ございます……っ!」

 痛みで朦朧とする意識の中で浮かんだのは、私があれほど忌み嫌っていたアニ様の顔だった。

 *

 この国の由緒正しい貴族の家系に生まれた私は、生まれながらにして成功が約束されていたようなものだった。

 道ゆく人間は私の為に道を開け、私に気に入ってもらう為に媚を売る。子供の時からずっとそうだ。

 大の大人が貴族である私の言うことに振り回され、顔を真っ青にしたり真っ赤にしたりする。

 これほど楽しくて愉快なことはない。

 ……だから、親の命令で長年親交のあるヴァレイユ家に仕えることになった時は、心底絶望した。

 人に仕えることで、私の横暴な態度を改めさせようという両親なりの気遣いだったことは後になって分かったが、いずれにせよ余計なお世話である。

 ――初めはそう思っていたが、能力のある私はメイドの仕事も卒なくこなすことができ、あっという間にヴァレイユ家のメイドとしてもそれなりの地位に収まることができた。

 ヴァレイユが実力主義であり、務めた年数よりも有能さで評価する珍しい家であったことも大きい。

 こうして、私は命令一つでこの家の使用人のほとんどを自由に動かすことができるようになったのだ。

 結局、ヴァレイユ家に来ても私の地位が揺らぐことはなかったのである。

 ……だが、あの女――オリヴィアが現れてから全ておかしくなった。

 いきなりこの家に入り込んできた、素性不明のメイド。

 私よりも歳下でまだ子供と言って良い年齢のくせに、死んだ目をしていて愛嬌がまるでない不気味な女――それが私の第一印象だった。

 なぜグレッグ様はこんなメイドを雇ったのか、まるで理解できない。

 あんなガキ、どうせすぐに逃げ出して姿を消すだろう。

 ……そう思っていたのに、気付いた時にはあの女の方が私よりも上の地位に居た。

 あの女が任されたのは、次の当主として最も有力視されているデルフォス様の世話係。

 それに対して私が任されたのは、グレッグ様が何処かから連れてきた隠し子――アニ様の世話係。

 差は歴然だった。

 だからアニ様は、その時の私にとって将来を奪う厄介者でしかなかったのである。

 オリヴィアに負けたことに対する怒りの矛先は、当然アニ様に向いた。

 *

「はぁ…………」

 私はため息をつきながら、アニ様の座る机を両手で叩く。

「昨日あれほど教えたのに、まだここが分からないんですか?」
「ご、ごめんなさい……ハウラさん……」

 怯えた目でこちらを見てくるアニ様。いつも憂鬱だったが、アニ様を詰めている時だけは胸のすくような感じがして楽しかった。

「謝られても仕方がありません。この問題が解けなかった場合どうするかは、あらかじめ言いましたよね?」
「………………あ、あの……でも、あのあとは……けんじゅつのおけいこがあって……ちゃんとふくしゅうするじかんが……」
「言い訳をするのですか? デルフォス様だったらこの程度、難なくこなしますよ?」

 私は適当なことを言ってアニ様の逃げ道を塞ぐ。

 尊敬しているデルフォス様の名前を出せば、こいつは何も言えなくなるのだ。

「悪いのはあなたですよね?」
「は、はい…………」
「おまけに、言い逃れをして罰から逃げようとまでしましたね?」
「ご、ごめんなさい…………」
「分かれば良いんですよ。あなたは本当に駄目な子ですね。――それでは、『お仕置き部屋』へ行きましょうか♪」
「…………はい」

 私が耳元でそう囁くと、アニ様は分かりやすく怯え始める。

 その様子を見て心を躍らせながら、私は彼を『お仕置き部屋』へと連れて行くのだった。
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