29 / 83
第26話 ハウラの崩壊1
しおりを挟む「お、お願いします……どうか……どうか怒りをお鎮め下さい……!」
「うるさい黙れッ! この俺に口答えする気かあぁぁぁッ!」
「きゃあっ?!」
そう言って、デルフォス様は私の顔を殴る。
「ハウラ、貴様もオリヴィアと同じように俺に逆らうのか? メイドはメイドらしく命令に従ってれば良いんだよッ!」
「も、申し訳……ございません……」
「ふん、分かったら大人しく罰を受けていろ。あのクズどもが逃げ出した責任の一端は貴様にもあるんだからなッ!」
「はい…………分かりました……」
「違う、『ありがとうございます』だろハウラ?」
「…………っ!」
醜悪な笑みを浮かべるデルフォス様。私は……どうしてこんな人間に仕えているのだろうか。
「どうした? 早く言えよ」
「あ、ありがとう……ございます……っ!」
痛みで朦朧とする意識の中で浮かんだのは、私があれほど忌み嫌っていたアニ様の顔だった。
*
この国の由緒正しい貴族の家系に生まれた私は、生まれながらにして成功が約束されていたようなものだった。
道ゆく人間は私の為に道を開け、私に気に入ってもらう為に媚を売る。子供の時からずっとそうだ。
大の大人が貴族である私の言うことに振り回され、顔を真っ青にしたり真っ赤にしたりする。
これほど楽しくて愉快なことはない。
……だから、親の命令で長年親交のあるヴァレイユ家に仕えることになった時は、心底絶望した。
人に仕えることで、私の横暴な態度を改めさせようという両親なりの気遣いだったことは後になって分かったが、いずれにせよ余計なお世話である。
――初めはそう思っていたが、能力のある私はメイドの仕事も卒なくこなすことができ、あっという間にヴァレイユ家のメイドとしてもそれなりの地位に収まることができた。
ヴァレイユが実力主義であり、務めた年数よりも有能さで評価する珍しい家であったことも大きい。
こうして、私は命令一つでこの家の使用人のほとんどを自由に動かすことができるようになったのだ。
結局、ヴァレイユ家に来ても私の地位が揺らぐことはなかったのである。
……だが、あの女――オリヴィアが現れてから全ておかしくなった。
いきなりこの家に入り込んできた、素性不明のメイド。
私よりも歳下でまだ子供と言って良い年齢のくせに、死んだ目をしていて愛嬌がまるでない不気味な女――それが私の第一印象だった。
なぜグレッグ様はこんなメイドを雇ったのか、まるで理解できない。
あんなガキ、どうせすぐに逃げ出して姿を消すだろう。
……そう思っていたのに、気付いた時にはあの女の方が私よりも上の地位に居た。
あの女が任されたのは、次の当主として最も有力視されているデルフォス様の世話係。
それに対して私が任されたのは、グレッグ様が何処かから連れてきた隠し子――アニ様の世話係。
差は歴然だった。
だからアニ様は、その時の私にとって将来を奪う厄介者でしかなかったのである。
オリヴィアに負けたことに対する怒りの矛先は、当然アニ様に向いた。
*
「はぁ…………」
私はため息をつきながら、アニ様の座る机を両手で叩く。
「昨日あれほど教えたのに、まだここが分からないんですか?」
「ご、ごめんなさい……ハウラさん……」
怯えた目でこちらを見てくるアニ様。いつも憂鬱だったが、アニ様を詰めている時だけは胸のすくような感じがして楽しかった。
「謝られても仕方がありません。この問題が解けなかった場合どうするかは、あらかじめ言いましたよね?」
「………………あ、あの……でも、あのあとは……けんじゅつのおけいこがあって……ちゃんとふくしゅうするじかんが……」
「言い訳をするのですか? デルフォス様だったらこの程度、難なくこなしますよ?」
私は適当なことを言ってアニ様の逃げ道を塞ぐ。
尊敬しているデルフォス様の名前を出せば、こいつは何も言えなくなるのだ。
「悪いのはあなたですよね?」
「は、はい…………」
「おまけに、言い逃れをして罰から逃げようとまでしましたね?」
「ご、ごめんなさい…………」
「分かれば良いんですよ。あなたは本当に駄目な子ですね。――それでは、『お仕置き部屋』へ行きましょうか♪」
「…………はい」
私が耳元でそう囁くと、アニ様は分かりやすく怯え始める。
その様子を見て心を躍らせながら、私は彼を『お仕置き部屋』へと連れて行くのだった。
10
あなたにおすすめの小説
美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった
ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます!
僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか?
『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
付きまとう聖女様は、貧乏貴族の僕にだけ甘すぎる〜人生相談がきっかけで日常がカオスに。でも、モテたい願望が強すぎて、つい……〜
咲月ねむと
ファンタジー
この乙女ゲーの世界に転生してからというもの毎日教会に通い詰めている。アランという貧乏貴族の三男に生まれた俺は、何を目指し、何を糧にして生きていけばいいのか分からない。
そんな人生のアドバイスをもらうため教会に通っているのだが……。
「アランくん。今日も来てくれたのね」
そう優しく語り掛けてくれるのは、頼れる聖女リリシア様だ。人々の悩みを静かに聞き入れ、的確なアドバイスをくれる美人聖女様だと人気だ。
そんな彼女だが、なぜか俺が相談するといつも様子が変になる。アドバイスはくれるのだがそのアドバイス自体が問題でどうも自己主張が強すぎるのだ。
「お母様のプレゼントは何を買えばいい?」
と相談すれば、
「ネックレスをプレゼントするのはどう? でもね私は結婚指輪が欲しいの」などという発言が飛び出すのだ。意味が分からない。
そして俺もようやく一人暮らしを始める歳になった。王都にある学園に通い始めたのだが、教会本部にそれはもう美人な聖女が赴任してきたとか。
興味本位で俺は教会本部に人生相談をお願いした。担当になった人物というのが、またもやリリシアさんで…………。
ようやく俺は気づいたんだ。
リリシアさんに付きまとわれていること、この頻繁に相談する関係が実は異常だったということに。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる