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第41話 深まる誤解

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「ど、どうしてドレースがこの町に……?」と、オリヴィア。

 目の前にいるオークの人は、ドレースという名前らしい。

「……そちらの方は…………デルフォス様ではありませんよね……?」

 そう言って僕の方を凝視してくるドレースさん。ちょっとこわい。

「ええと……アニ様です……」
「ぶひ…………」

 ドレースさんは、訝《いぶか》し気な表情で僕たちのことを見てくる。

 もしかして、僕とオリヴィアが一緒にいると何かまずいのかな……?

「駆け落ち……ですか……?」
「え?」

 突然そんなことを言われたので、僕は驚いて思わず声を上げてしまう。

「ちちちちっ、ちがいますっ! おかしなことを言わないでくださいっ!」
「隠さなくても良いのですよオリヴィア。……そうですか、ついにやってしまったんですわね……! ブヒーっ!」

 ドレースさんは、何故か顔を赤らめている。

「えっと……これはどういうことなの……?」

 意味がまるで分からない僕は、オリヴィアに聞いた。

「あの……どこから話せば良いのか分かりませんが……見ての通りドレースは私の友人で……フェルゼンシュタイン家の使用人をしているんです」

 フェルゼンシュタイン家といえば、確か魔族の国を治めているすごい家系だったはずだ。

「デルフォス様とリーン様が魔法を授かった年の儀式に私達も参加して……そこで仲良くなって……今も時々、文通をする仲なんですのよ」
「私が辛かった時にも、ドレースはたくさん励ましてくれました。本当に感謝しています」
「ぶひ、持ちつ持たれつ……というやつですわ。私も何か失敗をする度、オリヴィアに励ましてもらいましたもの。…………お互い、色々と手のかかる主に仕えていますからね……」

 ドレースさんの目に涙が滲む。

「そうですね……うぅっ……!」

 それに同調するオリヴィア。二人とも色々と苦労してきたのだろう。

「……ぶひ、オリヴィアがデルフォス様にされてきたことを考えれば、私なんてまだまだですわ……! 本当によく頑張りましたわね……応援していますわよ……!」
「あの、ドレース。何か勘違いをしていませんか? 私は別にアニ様と駆け落ちしたわけではありません……」
「もう、オリヴィアは強情ですわね。手紙にあれだけアニ様のことばかり書いていれば、いくら鈍感な私でも気付いてしまいますわ。身分と歳の差を超えた愛……いけないと思えば思うほどより燃え上がる恋心……! ぶひいぃぃぃぃっ!」

 どうしよう、全く話が掴めない。

「あの、オリヴィア……ドレースさんはどうしちゃったの?」
「ええとですね……どうやら私とアニ様が大恋愛の末に駆け落ちしたと勘違いしているみたいです。……魔族の女性はその……何というか……情熱的な方が多いので……そういう話が大好きなんですよ……」
「か、駆け落ちなんかしないよっ! だ、だって僕はオリヴィアのことを愛しているんだ!」

 話を聞いていて急激に恥ずかしくなってきた僕は、必死に否定する。

 確かに僕が追放されて、オリヴィアが追いかけて来たって状況だけみれば駆け落ちっぽいけど、そんなことは断じてありえない。

 あってはいけない。

「そう……ですよね……」

 だけど、なぜかオリヴィアは悲しそうに返事をした。

「か、家族?! まさか……幼いアニ様相手にもうそこまで……! ブヒーーーーーッ!」
「ど、どうしてそうなるんですかっ! 違いますっ! 違いますからぁっ!」

 ドレースさんの言うことを必死に否定するオリヴィア。それを聞いて、僕まで悲しい気持ちになる。

「そんな……まだ家族だって認めてくれないの……? この前の晩にベッドの上で言ってくれたことは……嘘だったの……? もう我慢しなくていいんだよ……?」
「ブヒイイイイィィィッ!」
「こ、言葉選びを考えてくださいっ! 誤解が深まってますっ!」

 オリヴィアは、すごく慌てた様子でそう囁いてきた。

「だって本当のことだよ? 僕とオリヴィアが家族だってこと、友達のドレースさんにまで隠さないといけないの?!」
「そうではないんですぅっ! このままだと私が色々とひどい人間だと思われてしまうんですぅぅっ!」
「分からないよ……オリヴィア……僕は何を信じればいいの……?」
「私の言葉を信じてくださいっ!」

 そこまで言うなら……仕方がない。

「分かったよ……オリヴィアと僕の関係は、ただのメイドとその主人だ…………それ以上でもそれ以下でもない……。これで……いいんだね……?」

 僕は胸が締め付けられるような思いになりながら、そう絞り出す。

「へ? あ、いや、まって――」
「ぶひいいいぃぃっ! 駄目ですわアニ様っ! オリヴィアはただ……ちょっと奥手で臆病なだけなんですのおぉぉぉっ!」
「ドレースは静かにしていてくださいっ!」

 どうしてオリヴィアがそんなに慌てているのか、僕には分からない。僕たちが家族であることをドレースさんにまで隠そうとするなんて……。

 ――きっと、オリヴィアは暗殺者に怯えるあまり、友達まで信じられなくなってしまったのだ。

 だけどそんなのって……悲しすぎるよ……。

「ごめんね……オリヴィアが一人で苦しんでたこと……ぜんぜん気付けなくて……っ」

「ぶひっ……ひっぐ……どうか、オリヴィアのたった一晩の過ちを許してあげてください……アニ様ぁっ……!」

「ぜんぶぜんぶ誤解なんですぅぅっ! うええええええええんっ!」

 その後、三人揃って町の入り口で泣いていた僕たちは、不審に思ったオークの兵士――ドレースさんの部下に保護された。
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