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第12話:小さなお姫様

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<前回までのあらすじ>
主人公白石圭太は美人保険医が顧問の『服飾文化研究会』
に強引に入れられる。
しかしそこは服飾研究とは名ばかりの
コスプレHを楽しむ場所であった。
そこで圭太は言われるがままに女装して、
顧問の沙由美と先輩部員の葵たちに
オモチャにされる日々を送っているが、
自分のことについてもについて考えるのであった。

「で、私に何をしろと?」
「行きませんか?映画」
一条葵に圭太がこんなことを言い始めたのがすべての発端である。
「……なぜ私が行かなければならないのかしら?」
葵は不機嫌そうに圭太を見つめた。
「家族にタダ券もらったんですけど、
沙由美先生からは好みの映画じゃないっていうし、
翠さんはあまり出歩かないし・・・」
「なんか消去法で私にしたと言いたげね。」
「そんなことないですよ!ただ俺は葵さんなら
一緒に行ってくれるかなぁって……」
「ふんっ!」
「だめですか?」
「まあ……いいわよ。付き合ってあげる」
葵はそっぽを向いて答えた。
「ありがとうございます!!」
礼を言って去る圭太を見送りながら、葵は
「・・・まったく気付いてないけど、
これデートの常套句よ・・・白石君」
とあきれたようにつぶやいた。
***
週末。
圭太と葵は映画館に来ていた。
上映中の作品は話題のロマンス巨編だった。
チケットを買って座席に着く。
隣同士で座ったのだが、お互いの距離感が近いことに 
葵はちょっとドキドキしていた。
「近所の人が無理やり置いてって、
処分に困っていたので助かりましたよ。」
「あなたそろそろ物事をハッキリ言いすぎるの
気を付けた方がいいわよ。」
二人は軽口を叩きあいながらも映画を見始めた。

が、
まあフタを開けてみれば、その出来は酷かった・・・。
話題性だけを優先して、演技力皆無のアイドルを
主役に据えた棒読み演技、ご都合主義しかない脚本、
安っぽい演出に退屈な展開・・・
(私たちは何を見せられてるの・・・)
と葵が呆れながら隣を見ると・・・
隣の圭太はすでに眠りに落ちていた。
しかもスヤスヤという可愛い寝息を立てている。
(えぇー・・・)
葵は困惑した。
「ちょっと!何一人で勝手に寝てるの!
確かに退屈な映画だけど!起きなさい」
「・・・そんな、裸エプロンなんて・・・」
(どんな夢を見てるの!?)
葵は圭太に突っ込みを入れようとしたが、
この調子では無理だとあきらめた。
仕方なく自分も眠ろうと思ったが、
(うぅ・・・全然眠れない・・・)
結局、最後まで居心地の悪い思いをすることになった。
上映後、圭太が起きてきた。
「・・・なんかすごい映画でしたね。
序盤も中盤も全く盛り上がらない。」
「ちっとも見てなかったでしょ!」
「すみません。でも途中から葵さんが
ずっとこっち見てくるんで恥ずかしくて・・・」
「それはあんたが爆睡してるから起こそうとしただけで
別に他意はないわよ!」
「…タダ券を無理やり押し付けていった人の
気持ちがわかりますね。」
「・・・もう二度と行かない」
「・・・すいませんでした。」

その後2人はモール内をブラブラした。
特に何か買ったり食べたりということはなかったが、
お互いに楽しかったようで、時間を忘れるほど遊んだ。

***
帰り道、モール外の公園を歩いていると、誰かが声をかける。
「あれ、葵じゃないか?」葵が呼ばれた方を見ると
さっと顔色が変わる。
「お兄様・・・」
そこには葵の兄、一条幸一がいた。
葵は露骨に嫌そうな顔をする。
どうやら葵はこの男が好きではないらしい。
しかも幸一は葵の知らない女性を連れて歩いていた。

(え?お兄様には婚約者がいたはず・・・)
家で期待されて育った兄は、
親の期待通りの大学に行ったはずだ・・・
そして卒業したら親の決めた婚約者と結婚するはず・・・
葵が混乱していると、
「久しぶりだな、元気だったか?そちらは?」
と幸一が聞いてくる。
「……後輩です。たまたま会ったので
一緒に帰ってるところです」
「そうか、うちの妹がいつも世話になっています」
「いえ、こちらこそ葵さんにはよくしてもらっているので」
お互い簡単な挨拶をする。
「あの・・・お兄様、そちらの方は?」
「ああ、紹介してなかったね、この人は西条さん。
卒業したら結婚するつもりだよ。」

「え?!・・・でも確かお兄様は」

「うん、だから婚約破棄になるだろうね。
これから二人で相談するところなんだ」
「・・・そうですか」
葵はうつむき、それ以上何も言わなくなった。
「それじゃ、また」
「失礼します」
二人は去っていった。
「葵さん、大丈夫で・・・」
「帰って!」
「え?」
「お願いだから帰って頂戴!」

「葵さん……」
「早く行って!!」
「はい・・・」
圭太はすそっと走っていった。


***
兄はずっと期待されていた。
そのせいで期待されなかった自分。
何とか親に振り向いてもらおうと頑張っていた自分。
でも無駄だった・・・。
自分が欲しかったものをすべて奪っていったその兄が、
今その欲しがっていたものをすべて捨てようとしている・・・

葵は嫉妬と怒り、悲しみと後悔、
色々な感情が入り混じった複雑な思いを抱えて
心の中がぐしゃぐしゃに壊されていく感覚に襲われた。
(今家に帰ってたらきっと私はますます壊れてしまう・・・)
そう思って夕暮れの公園のベンチで一人途方に暮れていた。

「よかった!こんなところにいたんだ!」
うつむく葵に声をかける人物・・・
それはさっき帰ったはずの圭太だった。

「なんでもないわ。帰ってって言ったでしょう!」
「葵さんこそ、何時までもこんなところにいて
どうするつもりなんですか!」
圭太が声を荒げる。圭太が怒ることは滅多にないので葵は少し驚いた。
「さあ行きましょう!」圭太が葵の手を引っ張る。
「え?どこへ?!」
圭太が連れてきた先はカラオケボックスだった。
「俺がもうちょっと大人なら、
もう少し気の利いた場所に行けたんですけど。」
圭太が申し訳なさそうにする。
圭太には珍しく緊張した面持ちをしている。
受付を済ませ、部屋に入ると、圭太は再びどこかへ行った。
何が何だかわからないまま待っていると、圭太が戻ってくる。

その姿は、ミニスカートにブラウス、
カーディガンというコーデにウィッグをかぶり
メイクもばっちり決めているギャルであった。
「100均コスメも結構馬鹿にできませんね。」
とウインクする。

「え?これどういうこと?」
「葵さんの気持ちが少しでも落ち着くようにと思って。」
「私のため?」
「はい。僕は葵さんのご家庭の事情はなんとなくですが聞いています。
でも僕はあなたよりも年下だし、何が正解なのかもわかりません。
でもまずは、気持ちを落ち着けてほしいんです。」
「どういうこと?」
「・・・いいですか一度しかいいませんよ!」
と圭太はすぅっと息を吸い込むと、

「心行くまで僕を襲ってください!」

ここだけ聞くととんでもないセリフが放たれる。

「え?!・・・ちょっと何言ってるの!あなた無茶苦茶よ!」
葵はそう言うが圭太の顔はあくまで真剣だ。
「いいですよもう、どうせ恥ずかしいことばかりしてきたし。」
そんな圭太を見て、葵は何か吹っ切れたような気がした。

そして自然と笑みがこぼれてくる。
今まで兄に対して抱いていた黒い感情が嘘のように消えていく。
(不思議。圭太くんと話しているだけで
どんどん楽になっていく・・・)
「もう・・・本当に…あなた馬鹿よ!
・・・ホントに・・・ホントにバカなんだから!」
そう言って圭太を抱きしめた。圭太は突然のことで驚くが、
そっと葵の背中に手を置く。

それからしばらく二人は抱き合っていた。
「いいですよ襲っても。
てか言っちゃった手前僕も引っ込みつかないし」
と圭太が言う。

その言葉を聞いて葵は顔が真っ赤になる。
だがそれは圭太も同じだった。

二人は見つめ合う。お互いの顔が近づいていく。
唇が触れ合った。

「ん・・・ちゅ・・・はぁ」
葵が艶っぽい吐息を出す。圭太は興奮を抑えられない様子で、
葵を抱き寄せキスを続ける。
「はぁ・・・圭太くん・・・もっとぉ」
二人は夢中で互いの舌を求めあう
「・・・でも監視カメラにばっちり映っちゃってますね」
「いいわよ。今は二人とも女の子だもの」
そうして再び口づけをする。今度は長く、深いものだった。

葵はテーブルに上半身だけう乗せうつぶせになる。
そしてスカートをまくり上げ「お願い・・・来て・・・」
「いいん・・・ですか?」
「うん・・・きて・・・」
圭太は自分のモノを取り出し、ゆっくりと挿入していく。
「あああん!」
「くっ・・・葵さんの中すごい熱いです!」
「圭太君・・・」
そのまま圭太は激しく腰を打ち続ける。
女の子同士が交わるその姿は遠くで見たら
ちょっと奇妙だったかも。

「う・・・葵さん!・・・・もう、そろそろ・・・!」
「お願い・・・いっぱい‥来てぇ・・・」
次の瞬間葵は身体に熱いものが放たれるのと、
自分の中で、ドクドクと脈打つ圭太のモノを感じた。
圭太は、うつ伏せの葵に覆いかぶさるように抱き着いて
しばらく動かなかった・・・。


葵は思い出す。
小さいころ、悲しんでいたらどこからか
王子様が来てくれると夢見ていた頃を。
でも実際やってきたのは

小さなお姫様だった・・・

(まるでロマンのかけらもないじゃない・・・)
私はこの子に救われていたんだなと思うと葵の目からは涙が溢れてきた。

***
事が終わって二人は帰路に就く。
その途中で葵が質問する。
「でもなんでギャルだったの?」
「モールで着れそうな服を探し回っていたら、
中古コスプレ衣装屋があって
手持ちで買えそうなのがそれしかなかったんですよ。
ウィッグと化粧品は100均で揃えました。」
「へー、あの店にそんなのあったのね」
「まぁおかげでいろいろと役得がありましたけど。」
といたずらっぽく笑う圭太。
「ところで圭太君。私、卒業したら留学しようと思ってる」
「え?」
「知らないところで、頑張ってみようかなってね」

「そっか。じゃあ俺も頑張らないといけませんね」
「ふふ、一緒に頑張りましょう」
「はい!」
そうして二人は笑いながら家路に着いた。


後日談。
あの後も葵は部室に顔を出している。そして相変わらず
言動は厳しい。
ただ生徒会長としては、
「ちょっとだけ角が取れて優しくなった」
という評価に変わっていた。

***

「葵さん、また映画のタダ券もらってきたんですけど」
「・・・私一応受験生なんだけど?
それにあなたの持ってくる映画はもう2度と行かない。」
「うーん面白そうなんだけどな『
怪奇!殺人バタートーストと水着美人の逆襲』」
「・・・あなたの家に映画のタダ券置いてく人何なの?!」

そんなわけで彼女を取り巻く日常は
比較的穏やかなものとなった。

おわり
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