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二章
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ファルシュさん、この仕事終わったら家に帰りたいのですが」
再度帰宅希望を口にした。
この王宮にいるかぎり酷使されそうだ。
デビュタントしに王都に来ただけなのにいつになったら家に帰れるか分からないなんて。
「このまま就職してはどうですか?幽霊を視れる利点を活かして」
「幽霊ではなく、アチラの方々、です」
「………。レベナン令嬢は、なんでいつもアチラのって言うのかな?不思議で、いつか聞きたいと思ってたんだ」
何故?と言う視線が四方から寄せられるのがわかった。皆さんも疑問だったんですね。
どう言っていいか。
ちょっと躊躇った。
霊とか、理解の得られ難い内容はあまり他の人に言ったことがない。慣れないことにもじもじと身体を揺らし周りを伺いながら話す。
「幽霊とか、霊なんて言葉を使って、人に聞かれたら変な目で見られるでしょ。だからアチラで誤魔化してるの。そう教えて貰ったし」
おじちゃん神官様からのアドバイスのひとつ。
人が万が一、他人が聞いても気味悪がられない、胡散臭い目で見られない。そう言う言葉を使うのだと。
皆からの注目に気圧されてスカートを握りしめて下を向いた。
困る両親。
怪訝な眼の両親。
怯えて恐怖する両親。
両親に見限られ神殿に預けられた頃の小さな私が心の隅に掠めた。
それが思い起こされ、今更ながらにぶるりと身が震えた。
「はん。なるほどなー。ま、呼び名なんかどーでもいいし」
「ええ。私には視えない斬れない相手の呼び名は、何でもかまいません」
パッと顔を上げるとヴィーエさんは興味無いとばかりにスタスタと歩き、マアディン卿は気にも止めない風だ。斬れないから気にしないのね。
ファルシュさんもヴェクステル館長も変わらず飄々とした表情のままだ。杞憂で済んだことに心の中で安堵した。
ーーまたあの眼で見られるのは、堪らないから。
〈娘も大変なのだなぁ〉
〈ご苦労なさったのね〉
マアディン卿とヴィーエさんの背後の方々がお喋りしている。背後の方々が本体の愚痴を話し合っている図はなんとも言い難い。
マアディン卿とヴィーエさんの頭上を交互に視線を動かす。
井戸端会議じゃないのよ。と突っ込みたいのをグッと抑えていると、当の本人達から訝しげに見られた。
「何見てんだ?」
「どうされましたか?」
〈孫が苦労しているのは忍びないからのう〉
〈そうですわよねぇ。守ってあげられないのだもの〉
今度はウチのじじさまも参加しているし!
上に向かってキッと視つめるとじじさまが肩を竦めた。
「えーと。アチラの方々の井戸端会議がうるさくて」
「側から見たら変だよね」と誤魔化し笑いを浮かべた。
〈いつまでも孫が心配で。トジばっかりじゃからのう〉
〈分かりますわぁ。ウチの孫もなのよ〉
『全く!他の人が聞こえないのをいいことに余計なこと喋らない!』
「確かに。アンタの行動だけ見てたら変だな」
ガァーーン!!
私の一連の行動にヴィーエさんからの辛辣な一言。
「ふん。アンタなんかお婆様に頭ペチペチ叩かれてるくせに」
カッと頬に朱が刺して慌てるヴィーエさん。
お婆ちゃん子なの知ってるよーだ。
「ばっ、婆ちゃんが居るのか?!」
「ええ。いらっしゃいますわよー。品の良い藤紫色のドレスに空色の宝石の髪留めをした、ふっくらほっぺのおばあちゃま。いつもアンタの頭をペチペチ叩いてるよ」
ヴィーエさん。腕で顔半分隠しているけど顔真っ赤だから。
「ゲゲッ」と呻いてるけど丸見えされてるから。
ニタニタ見てたら、「見んじゃねえ!」と先に歩いて行ってしまった。
「揶揄うとは。性格悪いですよ」
「先に言ったのはヴィーエさんだもん」
マアディン卿に諌められた。オカンか。
「しーらない」と私も足早にマアディン卿から離れた。
背後で、〈まだまだ子供じゃ〉とか〈おやおや〉とか。
煩いですよ。
再度帰宅希望を口にした。
この王宮にいるかぎり酷使されそうだ。
デビュタントしに王都に来ただけなのにいつになったら家に帰れるか分からないなんて。
「このまま就職してはどうですか?幽霊を視れる利点を活かして」
「幽霊ではなく、アチラの方々、です」
「………。レベナン令嬢は、なんでいつもアチラのって言うのかな?不思議で、いつか聞きたいと思ってたんだ」
何故?と言う視線が四方から寄せられるのがわかった。皆さんも疑問だったんですね。
どう言っていいか。
ちょっと躊躇った。
霊とか、理解の得られ難い内容はあまり他の人に言ったことがない。慣れないことにもじもじと身体を揺らし周りを伺いながら話す。
「幽霊とか、霊なんて言葉を使って、人に聞かれたら変な目で見られるでしょ。だからアチラで誤魔化してるの。そう教えて貰ったし」
おじちゃん神官様からのアドバイスのひとつ。
人が万が一、他人が聞いても気味悪がられない、胡散臭い目で見られない。そう言う言葉を使うのだと。
皆からの注目に気圧されてスカートを握りしめて下を向いた。
困る両親。
怪訝な眼の両親。
怯えて恐怖する両親。
両親に見限られ神殿に預けられた頃の小さな私が心の隅に掠めた。
それが思い起こされ、今更ながらにぶるりと身が震えた。
「はん。なるほどなー。ま、呼び名なんかどーでもいいし」
「ええ。私には視えない斬れない相手の呼び名は、何でもかまいません」
パッと顔を上げるとヴィーエさんは興味無いとばかりにスタスタと歩き、マアディン卿は気にも止めない風だ。斬れないから気にしないのね。
ファルシュさんもヴェクステル館長も変わらず飄々とした表情のままだ。杞憂で済んだことに心の中で安堵した。
ーーまたあの眼で見られるのは、堪らないから。
〈娘も大変なのだなぁ〉
〈ご苦労なさったのね〉
マアディン卿とヴィーエさんの背後の方々がお喋りしている。背後の方々が本体の愚痴を話し合っている図はなんとも言い難い。
マアディン卿とヴィーエさんの頭上を交互に視線を動かす。
井戸端会議じゃないのよ。と突っ込みたいのをグッと抑えていると、当の本人達から訝しげに見られた。
「何見てんだ?」
「どうされましたか?」
〈孫が苦労しているのは忍びないからのう〉
〈そうですわよねぇ。守ってあげられないのだもの〉
今度はウチのじじさまも参加しているし!
上に向かってキッと視つめるとじじさまが肩を竦めた。
「えーと。アチラの方々の井戸端会議がうるさくて」
「側から見たら変だよね」と誤魔化し笑いを浮かべた。
〈いつまでも孫が心配で。トジばっかりじゃからのう〉
〈分かりますわぁ。ウチの孫もなのよ〉
『全く!他の人が聞こえないのをいいことに余計なこと喋らない!』
「確かに。アンタの行動だけ見てたら変だな」
ガァーーン!!
私の一連の行動にヴィーエさんからの辛辣な一言。
「ふん。アンタなんかお婆様に頭ペチペチ叩かれてるくせに」
カッと頬に朱が刺して慌てるヴィーエさん。
お婆ちゃん子なの知ってるよーだ。
「ばっ、婆ちゃんが居るのか?!」
「ええ。いらっしゃいますわよー。品の良い藤紫色のドレスに空色の宝石の髪留めをした、ふっくらほっぺのおばあちゃま。いつもアンタの頭をペチペチ叩いてるよ」
ヴィーエさん。腕で顔半分隠しているけど顔真っ赤だから。
「ゲゲッ」と呻いてるけど丸見えされてるから。
ニタニタ見てたら、「見んじゃねえ!」と先に歩いて行ってしまった。
「揶揄うとは。性格悪いですよ」
「先に言ったのはヴィーエさんだもん」
マアディン卿に諌められた。オカンか。
「しーらない」と私も足早にマアディン卿から離れた。
背後で、〈まだまだ子供じゃ〉とか〈おやおや〉とか。
煩いですよ。
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