霊感令嬢の視る仕事。〜視るだけの楽なお仕事?視るだけです厄介事はお断りします!〜

たちばな樹

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三章

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寝込んでからと言うもの。

マアディン卿の距離が近い。


前に名前呼びを強要されたが、名前呼びは難易度が高いので、まだマアディン卿呼びだ。しかも手を握ったりスキンシップがふえたし。

それに、手に………キスしたし。
……あ、あれは、挨拶。
そう、挨拶だよね!

なんだがぎこちない心持ちに自分が落ち着かない。つっけんどんな態度になっちゃうけどさ。だってどんな態度すればいいか分からないし。
もじもじわしわしとドレスを握る。手汗が気になる。この汗が冷や汗なのか焦りなのか、それ以外なのか分からないけど。ぐるぐるとした言葉に出来ない何かが胃もたれみたいに居座っている。

『なんか自分がよく分からないよ。じじさま』
〈そう言うのは経験じゃ。なんでも、かんでもじじに聞くでないよ〉
『酷ーい!じじさまが冷たい』
〈冷たいわけじゃないんだがのう。まあ。人生は積み重ねじゃ。悩むのも大事じゃからな〉

〈若人よ悩め〉と笑ってじじさまは消えた。
酷いー!見捨てたー!
じじさまの意地悪ー!!


プンプンと不機嫌気味に外側の通路を歩いていると浮遊しているアチラの方々がざわざわとしている。聴き耳を立てていると声が聞こえた。

『ん?精霊の化身?精霊の御使?ああ、比喩していると……』

「どうしました?」
「精霊の化身が来ると、アチラの方々が騒ついてます」
「精霊の化身?」
「精霊の守護を持つ人です」

そんな人は一人しか知らない。
庭園側の廊下を歩いていると遠くに人影が見えた。ほらと、指を指した先に見知った人物がこちらに歩いてきた。


「こんにちは。レベナン嬢。先日は色々お世話になりました。体調はどうですか?倒れられて驚きました」

ヴェクステル館長が挨拶で身を傾けると長いサラサラの髪が流れるように揺れる。

「こんにちは。ヴェクステル館長。こちらこそ貴重な体験をさせていただきました。ご心配をおかけしましてすみません。もう大丈夫です」

カーテシーでの挨拶もだいぶ慣れた。好きではないのであまりやりたくはないけどね。

「こんなところでお会いできるなんて。本日はどのような用件で登城をされたのですか?」
「結界の解除について相談しておりました」
「ああ。王子様が言ってましたね。またヴィーエさんが協力を?」
「はい。わたくしは魔法館の館長としてやることがありますから」

祝福のこともあるだろうし、ヴェクステル館長の手腕の見せ所か。是非頑張ってもらいたいところです。

「これからお昼を一緒にどうですか?庭園の四阿で食べるのは開放的ですよ?」
「え!庭園ですか!?」
「花を眺めながらは格別ですから」
「是非!なかなかお城にいるのにゆっくりできないから嬉しいです」

視るのはアチラの方々ばかりで、城に滞在しているのに観て回ることはしてこなかった。だから嬉しいと両手をパチリと合わせ喜び勇んでぴょこぴょことジャンプしてしまった。

浮遊していたアチラの方々が止まって見ている。
………見られた。
ピタリと足を止めて、えへへと笑って誤魔化した。

「でも急にご一緒するのは迷惑ではありませんか?」
「ああ。実は登城したら貴女と食事をしようと思って探していたのです。なのでお気になさらなくて大丈夫です」

なんと。誘う策にハマったのは私だったかと。
ちょっと不貞腐れながらチロリと見上げれば。この美人さん、にっこりと笑い返した。
ヤダこの美人。
自分の顔の良さを分かってやってるわ!


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