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訪れた雪解け
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翌日からの一週間は、まさに怒涛の攻勢だった。
まぁ色々と仕掛けてくる仕掛けてくる。一切の油断ができないとはこのことだ。
考えてみればそうだ。
シェリーからすれば、アロイ様は後一歩で落とせるし、私も破滅させられる。攻め時はまさに今で、一気にもっていきたいのだろう。
そうは問屋が卸さない。
悪意が抜けた私には一切無効である。
「シェリー、そこは違うわ。こうしないとケガするわよ」
「危ないわシェリー。お茶はそう運ぶのではありません。もう一度お手本を見せるわね」
「洗濯物を持ちすぎですわ、シェリー。腰を痛めてしまいましてよ?」
「あら、お腹の具合が良くないの? それはいけませんわ。女子たるもの、お腹は大事にしなければなりません。すぐにお医者様を。ピクニックは中止しましょう」
「そのようにカップを持ってはお茶をこぼしてしまいますわ。お気をつけて」
「あら、服の裾が汚れていましてよ。ちゃんと洗濯してもらっていますの? とりあえず着替えてらっしゃい」
「今日はもう遅いわ。急ぎのお仕事でないのなら寝なさい。お肌に悪いわよ」
「寝坊? あらあら。日頃の疲れかしらね。近くにお休みをいただきましょうか」
などなど。
しかもイヤらしいことに、全部アロイ様が関わってくる場面でやらかしてくれるのだ。さすがに怒鳴りたくなる。
けど、そうすればアロイ様はシェリーに同情する。きっと、辛く当たられてめそめそするシェリーをアロイ様がこっそり慰める構図はできているはずだ。
だから、そんなことはさせない。
そんなシーン、想像するだけで胸が張り裂けそうだ。
私は徹底的にシェリーを貶めないように注力し、よりいっそう周囲への気配りも忘れない。そう。シェリーにだけ優しくしても意味がない。
世間の評判を取り戻すこともまた、アロイ様との関係修繕に効果がある。
その甲斐があったのは、シェリーが仕掛けを始めて二週間目だった。
恥ずかしながら、私が体調を崩したのである。
軽い発熱だったが、アロイ様がお見舞いに来てくれた。
寝室での面会は久しぶりだった。
それだけ、遠ざけられていたんだよね。
「大丈夫かい? セシル。倒れたと聞いたけど」
「はい。めまいを起こしてしまって……それに熱も出してしまいました。公務に穴を開けてしまうかもしれず、申し訳ありません」
「そこは問題ないよ。けど……」
アロイ様は本当に心配している表情だった。
「もしかして、ずっと体調が悪かったのかい?」
そして、探るように聞いてきた。
「え?」
「その、少し前まで、君は人が変わったようだった。悪いけれど、とても酷かったんだよ。特にシェリーに対して」
「あ、ああ……」
「もしかして体調が悪かったからなのかい?」
そう聞かれて、私は戸惑った。
嘘は、つけない。
でも、まだ本当もいえない。まだシェリーと密接に繋がっているだろうから。
「いえ、今回の体調不良とは関係はないのですが、でも、確かに……申し訳ありません。その時の記憶がほとんど残っていないのが本当のところです」
「記憶が残っていない?」
「ええ。おそらく、呪いの類だと思われます。知り合いの祈祷師を手配してなんとか解放されたのです」
「呪い……そうだったのか」
アロイ様は面食らったような表情を浮かべたけど、やがてかみ締めるように頷く。どうやら納得してくれたらしい。
というか、信じてくれた、かな?
まだその信頼が残っていることが嬉しいけれど、こんな言い方しかできないのも忸怩たる思いだった。
「いや、呪いで気をおかしくされていたなら、納得がいく」
「それほど酷い変わりようだったのですね……」
「特に舞踏会がある辺りは別人のようだった」
「ご心配をおかけして申し訳ありません。気に病ませたくなく、黙っていたのですが……シェリーにも謝っておかねばなりませんね」
これでなんとか体裁は整えられただろうか。
「それにしても、誰が……」
「分かりませんが、調査はしています」
「僕に言ってくれればよかったのに」
「申し訳ありません。私自身が気を確かでなかったのと、何が影響してアロイ様に被害が及ぶか分かりませんでしたので。でも今は大丈夫です」
最後の言葉を強調して言う。
すると、アロイ様は心得ているように頷いた。
「そうだね。舞踏会以後の君は元通りだったよ。とても優しい」
「ありがとうございます」
お礼を言うと、アロイ様は私の手を取ってくれる。あたたかい。熱がある私よりも、あたたかい。心が流れ込んでくるかのようだ。
けど、アロイ様の表情は少し暗くなってしまった。
「……ごめんよ、セシル。僕は懺悔しなければならない」
「アロイ様?」
「僕は君に失望しかけていた。シェリーが可哀想に見えて仕方がなかった。いつしか、暴力的な極みの君から、シェリーを守らないといけないと思っていた。でも、君は許婚だし、それ以上の絆があるし、迷っていたんだ」
アロイ様は正直に告白してきた。
この篤実さが、彼の良いところだと思う。
ずっとそうだったのだ。だから、私はアロイ様を愛している。
「でも、それは愚かなことだった」
「アロイ様。それは、違いますわ。アロイ様が優しいからです」
「いや、君を信じ切れなかったんだ。本当に済まない。ここ最近はそのせいで素っ気無い態度にもなっていたし、それで体調を崩させたのかもしれない」
「アロイ様……」
「体調が悪いのに、話し込んでしまったね。元気になったら散歩にでもいこう。またいつものように」
そうアロイ様は微笑んでくれた。とても嬉しかった。
それからもアロイ様が手配してくれた薬のおかげで、私は数日で元気になれた。
なんだろう、幸せだ。
まぁ色々と仕掛けてくる仕掛けてくる。一切の油断ができないとはこのことだ。
考えてみればそうだ。
シェリーからすれば、アロイ様は後一歩で落とせるし、私も破滅させられる。攻め時はまさに今で、一気にもっていきたいのだろう。
そうは問屋が卸さない。
悪意が抜けた私には一切無効である。
「シェリー、そこは違うわ。こうしないとケガするわよ」
「危ないわシェリー。お茶はそう運ぶのではありません。もう一度お手本を見せるわね」
「洗濯物を持ちすぎですわ、シェリー。腰を痛めてしまいましてよ?」
「あら、お腹の具合が良くないの? それはいけませんわ。女子たるもの、お腹は大事にしなければなりません。すぐにお医者様を。ピクニックは中止しましょう」
「そのようにカップを持ってはお茶をこぼしてしまいますわ。お気をつけて」
「あら、服の裾が汚れていましてよ。ちゃんと洗濯してもらっていますの? とりあえず着替えてらっしゃい」
「今日はもう遅いわ。急ぎのお仕事でないのなら寝なさい。お肌に悪いわよ」
「寝坊? あらあら。日頃の疲れかしらね。近くにお休みをいただきましょうか」
などなど。
しかもイヤらしいことに、全部アロイ様が関わってくる場面でやらかしてくれるのだ。さすがに怒鳴りたくなる。
けど、そうすればアロイ様はシェリーに同情する。きっと、辛く当たられてめそめそするシェリーをアロイ様がこっそり慰める構図はできているはずだ。
だから、そんなことはさせない。
そんなシーン、想像するだけで胸が張り裂けそうだ。
私は徹底的にシェリーを貶めないように注力し、よりいっそう周囲への気配りも忘れない。そう。シェリーにだけ優しくしても意味がない。
世間の評判を取り戻すこともまた、アロイ様との関係修繕に効果がある。
その甲斐があったのは、シェリーが仕掛けを始めて二週間目だった。
恥ずかしながら、私が体調を崩したのである。
軽い発熱だったが、アロイ様がお見舞いに来てくれた。
寝室での面会は久しぶりだった。
それだけ、遠ざけられていたんだよね。
「大丈夫かい? セシル。倒れたと聞いたけど」
「はい。めまいを起こしてしまって……それに熱も出してしまいました。公務に穴を開けてしまうかもしれず、申し訳ありません」
「そこは問題ないよ。けど……」
アロイ様は本当に心配している表情だった。
「もしかして、ずっと体調が悪かったのかい?」
そして、探るように聞いてきた。
「え?」
「その、少し前まで、君は人が変わったようだった。悪いけれど、とても酷かったんだよ。特にシェリーに対して」
「あ、ああ……」
「もしかして体調が悪かったからなのかい?」
そう聞かれて、私は戸惑った。
嘘は、つけない。
でも、まだ本当もいえない。まだシェリーと密接に繋がっているだろうから。
「いえ、今回の体調不良とは関係はないのですが、でも、確かに……申し訳ありません。その時の記憶がほとんど残っていないのが本当のところです」
「記憶が残っていない?」
「ええ。おそらく、呪いの類だと思われます。知り合いの祈祷師を手配してなんとか解放されたのです」
「呪い……そうだったのか」
アロイ様は面食らったような表情を浮かべたけど、やがてかみ締めるように頷く。どうやら納得してくれたらしい。
というか、信じてくれた、かな?
まだその信頼が残っていることが嬉しいけれど、こんな言い方しかできないのも忸怩たる思いだった。
「いや、呪いで気をおかしくされていたなら、納得がいく」
「それほど酷い変わりようだったのですね……」
「特に舞踏会がある辺りは別人のようだった」
「ご心配をおかけして申し訳ありません。気に病ませたくなく、黙っていたのですが……シェリーにも謝っておかねばなりませんね」
これでなんとか体裁は整えられただろうか。
「それにしても、誰が……」
「分かりませんが、調査はしています」
「僕に言ってくれればよかったのに」
「申し訳ありません。私自身が気を確かでなかったのと、何が影響してアロイ様に被害が及ぶか分かりませんでしたので。でも今は大丈夫です」
最後の言葉を強調して言う。
すると、アロイ様は心得ているように頷いた。
「そうだね。舞踏会以後の君は元通りだったよ。とても優しい」
「ありがとうございます」
お礼を言うと、アロイ様は私の手を取ってくれる。あたたかい。熱がある私よりも、あたたかい。心が流れ込んでくるかのようだ。
けど、アロイ様の表情は少し暗くなってしまった。
「……ごめんよ、セシル。僕は懺悔しなければならない」
「アロイ様?」
「僕は君に失望しかけていた。シェリーが可哀想に見えて仕方がなかった。いつしか、暴力的な極みの君から、シェリーを守らないといけないと思っていた。でも、君は許婚だし、それ以上の絆があるし、迷っていたんだ」
アロイ様は正直に告白してきた。
この篤実さが、彼の良いところだと思う。
ずっとそうだったのだ。だから、私はアロイ様を愛している。
「でも、それは愚かなことだった」
「アロイ様。それは、違いますわ。アロイ様が優しいからです」
「いや、君を信じ切れなかったんだ。本当に済まない。ここ最近はそのせいで素っ気無い態度にもなっていたし、それで体調を崩させたのかもしれない」
「アロイ様……」
「体調が悪いのに、話し込んでしまったね。元気になったら散歩にでもいこう。またいつものように」
そうアロイ様は微笑んでくれた。とても嬉しかった。
それからもアロイ様が手配してくれた薬のおかげで、私は数日で元気になれた。
なんだろう、幸せだ。
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