義妹のワガママで婚約者交換することになったけど良いんだね? そいつ地雷だよ?

しろいるか

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チル伯爵

 その三日後のことだ。
 私の元に、アイナの婚約者だった男────チルが会いに来てくれた。

 今回の唐突な婚約者交換騒動の被害者である。

 もちろん会わない理由がないので、すぐに応接間へ通す。
 私も身なりを整えてからすぐに向かった。
 ドアを開けて入ると、座ってまっていたのは紳士だった。体格はずんぐりとしている感じだが、とても誠実そうで素朴な見た目。珍しく眼鏡をかけていて、とても知的にも見えた。

 彼こそがチル。チル・バートン伯爵。

 その表情が浮かないのは当然だ。
 何せ彼からすれば義妹にいきなり婚約破棄されたからだ。到底納得できるものではないだろう。
 さらに、今日は姉である私との婚約交渉という名目での訪問要請を受けた形でやってきている。
 チルの立場からして断れるものではない。

 悲しいかな、うちの家柄はそれだけの権力があるのだ。

 そして我が家には跡取りが私と義妹しかいない。必然的に私が婿養子を取るので、チルからすれば余計に複雑だ。

「チル伯爵。今日は遠路はるばる御足労いただき、ありがとうございます」

 私は貴族式の礼をしてから声をかける。チル伯爵も冷静な表情で返してくれた。
 すぐにソファへ腰掛け、チル伯爵にも座ってもらうよう誘導する。

「この度、不躾なお願いをしてしまい申し訳ありませんでした」

 そして開口一番、私は告げた。
 驚いたのはチル伯爵だ。

「身分差があろうとも、今回のような行為はあってはならぬことです。非公表の婚約であれど、婚約者の交換なんて」
「……もしかして、メイシャさんも納得してらっしゃらない?」
「いいえ。私自身の気持ちはもう整理出来ています。恥ずかしい限りですが、身内のワガママには慣れておりますので」

 穏やかに言うと、チル伯爵に沈痛の表情が出た。なるほど、察しがすごく良い。
 私が長年義妹に振り回されて苦労している、と言外に伝わったのだ。

「私と致しましては、婚約者の交換だからチル伯爵の伴侶になるつもりはありません。そのような大前提なく、純粋な婚約者としてチル伯爵の伴侶になりたいと思っています」
「メイシャさん……」
「ですが、それでチル伯爵のお気持ちを蔑ろにするつもりもありません。ご不満など当然ありましょう。まずはお聞かせ願えますか」

 会話のイニシアチブは取れている。
 穏やかな低姿勢は、チル伯爵が話しやすいようにするためだ。
 何せ同じ傷を持つ者同士、同情心はあるはずで、怒りも共有できている。

「……そうですね。我が領地は緑と大地に恵まれていて、一次産業が主軸です。我らも大事にしていて、農作業に従事しています。ですから、人によっては農民貴族なんて呼ばれ方をしています」

 他の伯爵より下に見られてしまうのは、そのあたりが原因だろう。
 正直なところ、そいつらは何もわかっていない。
 チル伯爵の領地は肥沃な大地に恵まれている反面、大きい街道からは外れてしまっている。だから大都市は抱えていなくて、確かに経済的な面で見れば見劣りするかもしれない。

 でも、それを有り余る価値がそこにある。

 作物はもちろん、畜産業にも適している肥沃な大地は、食料自給率を余裕で一〇〇%突破していて、各地へ輸出しているのだ。特に高級な食材は希少でもあり、王都が高く買い取ってくれている。
 つまり。
 資産は莫大なものになるのだ。

「そんな我が領土にとって、あなたがたは我らにとって背後にあたり、長年にわたり他国からの侵入を防ぐ盾でもある」

 その通り。
 うちは他国との領地に接点があり、攻め込まれる可能性がある。だから軍備はかなり充実させていて、事実上の門番的役割を果たしている。
 もしウチが突破されれば、軍事力が高くないチル伯爵の領地はたちまち荒らされてしまうだろう。

「だから、そちらの要求には逆らえません。しかし、今回のことはさすがに、と思ってここに参ったのですが……メイシャさんのお言葉をきいて少し心が変わりました」

 無駄に争いたくない。
 チル伯爵にはそんな思いが見え隠れした。

「メイシャさん。本当にこのチルと面と向かって、婚約してくださるのですか?」
「はい。その覚悟はあります。少しついてきてもらえますか?」

 これ以上先の話は、人払いをしたい。
 そんな意図もちゃんと通じたようで、チル伯爵はうなずいてくれた。
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