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2nd STAGE
2-3 『異世界での生活』
しおりを挟むそのライブ以降、桜子達を待っていたのは目が回るような日々だった。
テレビ出演に雑誌のインタビュー、ステージでのライブに営業活動と、その忙しさはまともに休憩時間を取る暇も無い程だ。
桜子にとって忙しいこと自体は苦ではない。
そもそも将来は有名になることを目指してアイドルになったのだ。異世界とはいえそれが叶ったかのような生活に、むしろ喜んでいる自分さえ居た。
だが、そんな喜びが続いたのも最初の数日だけだった。
繰り返しになるが、アイドルの活動自体は嫌では無い。だがプロデューサー気取りのラクセルが持ってくる仕事は、桜子が思い描いているアイドルの活動とは微妙にずれているのだ。
戦闘中のライブであったり、凶悪な生物に体当たり取材する番組リポーターだったり、果てには着ぐるみを着てのスーパーのチラシ配りというのもあったりして、もはや何がしたいのか分からない。
空中ライブから数日が立ち、この世界にも少しずつ慣れ始めたある日。
桜子は城内の通路を一人歩いていた。窓から差し込む朝の日差しが、ポカポカと暖かい外の陽気を感じさせる。桜子は訪れる眠気を振り払うように背筋を思いっきり伸ばした。
今日は久しぶりのオフの日だった。
本来であれば、桜子は与えられた個室で溜まった疲れをのんびり癒そうと考えていたのだが、朝早く亜季が皆を集め、唐突にこう言ったのだ。
「今日は元の世界に帰るために必要な情報を集めるわよ! 私達はスタフェス出場のために一刻も早く帰らないといけないんだから!!」
そう言って各自に外出するよう命じたのである。
意外なことに、その案に桜子以外の全員が賛同した。
皆、それほどまでに早く帰りたいのか・・・と思ったのも束の間、どうやらそうではないことがすぐに判明した。
美羽はどうやらこの世界の文明に興味があるらしく、
「てっきりファンタジーな世界かと思ったら、私達の世界よりも科学文明は進歩してるわよ! 魔法と科学の融合、しっかりと見ていかなくちゃ!」
と鼻息も荒く街へ繰り出し、智花は空中ライブ以降すっかり気に入ってしまった光線銃について聞きにダンバンの元へ行くと言い、メイに至っては気がついたら既に居なくなっていた。
亜季はどうするのか、と問いかけると「ちょっと行きたい場所があるから」と言い放ち姿を眩まそうとした。
何故か行き先を濁す亜季にしつこく質問していたら「うっさいな! 桜子には関係ないでしょ!?」と冷たくあしらわれてしまい、しぶしぶ引き下がるしかなかった。
ただ、去り際に浮かべていた意味深な笑みが何故か心に引っかかった。
結局、桜子一人行く宛てもなく、こうしてトボトボと通路を歩いているのだ。
(もう少ししたら、部屋に戻ろうかな)
そんなことを考えていると、不意に通路の先から歩いてくるメイド服姿の少女が視界に入った。
「あ、セシアちゃん!」
桜子が手を振ると、こちらに気が付いたセシアが駆け寄ってくる。
「桜子様、こんなところでどうされたのですか?」
笑顔で問いかけてくるセシアに「うん、ちょっとね」という曖昧な言葉で返事を濁す。
「セシアちゃんこそ、何をしているの?」
「私はちょっとお仕事で、これからエグリアス砦まで行くところです」
「えぐり・・・え~と?」
「エグリアス砦。帝国との国境付近にある砦です。あの辺は帝国との戦闘が頻繁に起こるので、補給物資を届けに行くんです」
城付きの侍女なのに運搬業までこなすと知って感心していると、桜子の頭にとある考えが浮かんだ。
「ねえ、セシアちゃん、その仕事私が手伝っても良いかな?」
「ええ!? そんな! 勇者様にこんな雑事を手伝って貰うわけには参りません!!」
「でも私、今行くところ無くって困ってるんだ。私を助けると思って。ね、お願い!」
桜子が両手を合わせて頼み込むと、最初は渋っていたセシアも次第に態度を軟化させ始めた。
「――でも本当に荷物を運ぶだけで面白くなんてありませんよ?」
「いいの、いいの。私にとっては、この城の外を見られるだけで楽しいから!」
しぶしぶといった感じで頷くセシアに「ありがとう」とだけ伝えると、桜子はセシアの横に並んで歩き出した。
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