ひたすら楽する冒険者業

8．楽のための調査と試行-2

　結論から言えば、余裕で無理だった。
　曲りなりにも中層付近の魔物なので、そこまで降りていくのがまず大変だ。単純に距離があるし、魔物も夜で気が立っている。
　こんなとき盗賊のスキルがあればよかったのだろうが、戦士だと魔物が少ない場所を選んでこそこそ進むしかなかった。一応管理区画の安全な道はギルドから発行されているパンフに書いてある。
　そして夜甲虫の群生――と言わないまでも、そこそこ見つけられる場所まで降りてきたうえで、さらに問題が発生する。
　これは最初からわかっていたことだが、夜甲虫は非常に防御が硬い。魔法で倒すのが前提の相手で、戦士でまともにやり合うとある程度の高腕力と、武器が要求される。
　当然そんなものは俺にはない。
　しかし、高い壁なら下を潜る余地はあると思った俺は、盗賊用の安いナイフを用意していた。
　攻撃力などほとんど有していないに等しいが、これでも1ダメージは通ることがある。
　調べたところ、夜甲虫の平均体力は６２前後。こいつで１００回ぐらい叩けば、多少倒す時間はかかってもその分の報酬が上回れるのではないか。
　と思っていたが、結果は最初に言った通り。

　まず、装甲が思った以上に抜けない。５回やって１回は通ればいい方。後は０ダメージだ。
　５～６分を想定していた撃破時間が、単純に５倍と化した結果、一匹倒すのに３０分以上かかる。
　そしてそれは最短で倒せた場合であり、実際にはさらに多くのタイムロスが発生する。
　夜甲虫自体は群れで出てきたとしても脅威ではない。かなりの鈍足だし、攻撃を当てるのも容易。
　だが、他の魔物とセットで出てきた場合はそうではない。
　低層の中でも中層に近い場所であるため、一緒に出てくるのは大体強い魔物だ。
　比較的友好的な魔物の生息域を選んでいるので、逃げるのはいいのだが、逃げてしまうとまた探す必要が出て、狩りの時間が削られていく。
　狩りやすい夜甲虫になかなか遭遇できないこともあり、そうやってずるずる時間が遅れていった結果、１時間に１匹ぐらいしか倒せない。
　一匹当たりの蜜で、大体５分の１瓶ほどなので、時給にして６G。
　さらに、他の魔物から逃げるときも無事に済むとは限らず、ちょいちょい殴られるため、持参した安物の薬も使ってしまう。
　こんなことが積み重なって赤字でないわけがない。
　それでもみっちり半日粘って２瓶取ったが、納品するときに受付のお姉さんに「え？」みたいな顔をされて、めちゃくちゃへこんだ。
　お腹も空くし、ストレスも溜まる。
　もうダメ。全体的にこのプランはダメ。