ひたすら楽する冒険者業

長来周治

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楽の戦士トーチの章

137.楽なはずの道にて-6

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 こうなるとなんか、ちょっと試したいという気持ちの方が出てきてしまって、目の前の危機の事を忘れそうになるが、そこはぐっと堪えて、慎重に事前の確認を行う。
「ちゃんと使えそう?」
「ええ、まあ……」
 荷物を下ろしてしまえば、片手に杖、もう一方に盾という状態でも問題なく動けていそうだ。
「結構サマになってるね」
 元々前衛を目指していたおかげか、扱いにぎこちなさとかはない。
「そうですか……?」
 メリルは若干不服そうである。
 まあ、多分気にしているのは見た目の事だろう。
 魔法使いが杖とごつい盾をもって立っている姿は、流石に違和感はある。
 よほどの事が無ければすぐに慣れるだろうと俺は思うが、個人の美意識の問題については、あまり積極的に触らない方がいいだろう。
「とりあえず、スキルが使えるか試そうか」
「はい」
 盾をちゃんと装備出来ることを確認したら、今度はスキルの使い方を模擬的に練習しておく。
 とはいえ、事実上ちょっと肘を張って盾を構えているだけなので、さほど難しい事はないはずだ。
「体当たりするか、それを盾で受けてみて。受けるときに、ちょっと肘を張って押し出すようにすれば、スキルが発動する」
「わかりました」
 改めて使い方を確認したのち、盾を構えたメリルに、身体をぶつけてアドバンスを発動させる。
 実戦的に考えると、武器で試した方がよかったかもしれないが……まあ、それは流石に抵抗がある。
「っ……!」
 俺の体当たりを盾で受けたメリルが、目を見開いて吐息を漏らした。
 ぶつかった瞬間、お互いの距離がぐっと開く。
「だ、大丈夫ですか?」
 大袈裟に俺が押し出されたことに驚いて、盾の横をから顔を出すメリル。
「見た目ほどダメージがあるものじゃないから」
 あくまで、お互いに受ける反動と硬直が増えるだけだ。
「そっちは? スキルを使いながらすぐに動けそう?」
「ええ……思ったよりは……その、簡単みたいです」
 その後一応何度か身体をぶつけて試したが、メリルはしっかりとスキルを使えていた。
 ほとんど練習することなく、すぐに効果が出せるのは素晴らしい。
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