緑の世界~目が覚めたら何故か8人兄弟の4男だった

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とりあえず平凡な日々

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 夢。夢を見た。また、あの白い手の女の夢。

 夢の中の俺は恐怖に駆られ、女の手を振り切って逃げ出す。そこまでは、あの夢と同じ。
 だが、今度の夢は、その先に違う風景が広がって見えた。

 唐突に出現する荒野。どこまでも続く砂の大地。不安を誘う紫色の空と2つの赤い太陽。
一転して、地平線の彼方まで続く緑の森。青空に浮かぶ青い星と白い月。

 自分の周囲には見知った顔。誰かが何かを話していたが内容までは覚えていない。
けれど、俺自身も含めて、なにか強い意志と、決意のようなものを感じた。

 そしてそんな『俺達』の前で、地平線から立ち上る、黒い煙のような何か。

 閃光。そして白く染まる世界。

 目が覚めると、やっと慣れてきた自分の部屋だった。

「……なんなんだ?」
 生々しい夢の残滓を思い返して独り呟く。
それらは、俺の知らない記憶だった。見たことの無い情景、人々、風景のはずだった。
けれど、俺は知っていた。そうだ。「俺」は知っている。

 これは、ただの夢なんかじゃない。
そう、これは確かに、俺の知る、俺自身の「記憶」なのだ。


 「兄貴……!!!」
 声に振り返る。と同時に、空の顔が俺の視界を塞いだ。ホッとしたような、嬉しそうな、空の無邪気な顔。それが押し退けられると、今度は、険しい表情の乾一さんの顔が覗き込んできた。
「大丈夫ですか!?意識ははっきりしてます?どこか、痛むところは…」
「…えっ、え??…あの…」
 矢継ぎ早に質問され、意味が解らず目を瞬かせる。
 なんで、乾一さんは、そんなに焦っているんだ??
 困惑しながら視線を泳がせた俺は、その時になってようやく、自分が部屋の布団に寝かせられていて、周囲を兄妹全員に取り囲まれていることに気が付いた。
「えっと…俺、また何か…?」
「無理しないで。顔がまだ青いです」
 恐る恐る起き上がろうとしたら、乾一さんの手で布団に押し戻される。この人、女みたいな優しげな顔してるわりに力あるんだな??変なことに感心していたら、今度は、邦彦さんに優しく問い掛けられた。
「散歩中に倒れたんでしょう??どこか具合が悪いのでは?」
「………へ?」
 倒れた?俺が?……覚えていない。
俺の反応に驚いてか、カオルくんと空くんが2人して顔を見合わせる。
「覚えてないの?」
「………っと、その」
 空くんとカオルくんと一緒に、散歩へ行った事は覚えている。この目で見た街の様子も覚えている。だけど、空くんから聞いた、倒れる前後のことは、まったくと言っていいほど記憶になかった。
「???……いや、俺が覚えてるのは、コロッケ食べた辺りまでで……ああ、そう言えば」
 代わりに記憶していたのは、なんだかファンタジーな夢のこと。見覚えのない、でも、ハッキリ覚えている光景の数々。それらは、漫画とかアニメとかで見るような…いや、超絶リアルだったから、どちらかというと実写空想映画みたいな感じと言った方が良いか?そんな感じの風景の夢。
「……っていう、夢を見てたんだけど…」
 簡単に夢の内容を説明したが、兄弟達は皆、キョトンとした顔で俺を見るばかりで、これといって心当たりはなさそうだった。まあ、俺の夢の話なんだから、当たり前ったら、当たり前なんだけど。
「…………」
 でも、俺は夢の中で、あれを「俺自身の記憶」と確信していた。
 だが、やっぱり単なる夢だったのか。
ちょっと恥ずかしくなりながら、頭を掻いていたら、また、ふと、ひとつ思い出してしまった。

 そう言えば、あの夢の中には、兄弟達の姿もあったような、無かったような??…気のせいか?

「とにかく、なんとも無いようで良かった」
「てめえら心配し過ぎだろ…」
 ほっと胸をなでおろす邦彦さんの後ろで、目つきの怖い真也さんが、呆れた口調でぼやいていた。俺は、何となく悪い気がしてきて、心配かけてすみませんと頭を下げて謝る。
「良いですから、恭平君はもう少し休んでいてください。あと、空くん、カオルくん、もうすぐ夕飯ですから、これ以上のつまみ食いは許しませんよ?」
「「はーい」」
 悪びれない表情で空くんとカオルくんが返事して、兄弟達は何事もなかったようにバラバラと解散していった。
「………ふぅ」
 俺は、言われた通り布団にもう1度横になりながら、もうそんな時間なんだ、と、ぼんやり考える。
 部屋の時計を見ると、針はもうすぐ6時を指すところだった。散歩に出たのが昼過ぎだったから、4時間くらいは昏倒していた事になる。

 なぜ、倒れたのか。なぜ、そのことを覚えていないのか。

 考えたところで原因が解る訳ではないが、頭の中はそんな疑問でいっぱいだった。しかし、目を閉じた瞬間、俺は、猛烈な睡魔に襲いかかられ、抵抗する間もなく暗闇に引きずり込まれてしまう。

 とにかく、今日は、なんだか異様に疲れた。

 そう考えたのを最後に、俺は夢も見ない眠りに落ちた。

 その後、夕食に起こされるまでの間に、俺はまた、なにかの夢を見たような気がする。
けれど今度の夢は、内容をまるで覚えていなかった。

 ただ──大切なことを、思い出した……そんな夢だったような気がして。
俺は夢を覚えていなかったことに、とてつもない喪失感を覚えたのだった。
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