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しおりを挟む付与魔術師とは。
物体や人に魔力を付与することに特化した魔術師の名称で、戦時には味方の能力を向上させる、武器に特殊効果を付与するなど、サポート役に徹する影の功労者である。
つまり、前線でばんばん活躍する仲間たちの後ろにいる目立たず地味な存在だ。
いや、付与魔術師でも創意工夫を凝らし、ばんばん活躍する者も中にはいるかもしれない。しかし私に求められているのは目立たず地味な存在でいることだ。
『お前は決して人前に出るな。顔を晒せば無事に帰れると思うなよ』
初対面でそう言われて、はいそうですか。と返事をしたのはすでに微笑ましいエピソードだ。
当時はなんだこいつ。失礼な奴だなと反感を持ったものだが、なんだかんだと従っている。
確かに私の容姿はさほど良くない。顔の造作自体はそこまで崩れていないとは思うのだが、いかんせん目付きが悪い。もともとつり目気味の三白眼に加え、愛想何それ美味しいのな無表情と万年寝不足の隈が相まって、凶悪な人相になっているのは一応自覚している。
誰が言ったか魔王の鬼畜参謀とは私の事だ。
貶そうという悪意もなく他愛もない冗談だ。けれど妙に嵌まっていたようで、ひっそりと広まったらしい。
そんな感じで魔王の鬼畜参謀のあだ名がぴったりな私は今現在、何の因果かひっそりと付与魔術師として勇者パーティーの一員になっている。
「いつになったら、帰れるんだろう」
「そりゃ、魔王を倒したら、だろ」
「旅を始めるまでに半年、旅が始まってから早三ヶ月。魔王のまの字も見えて来ないんだが」
「そんな事ないって! すげー頑張ってるよ。前の勇者一行なんて、一月足らずで魔王の配下にヤられたからな。この間は、四天王のひとりを秒殺だったじゃん。俺、あれはマジで鳥肌立った。無慈悲ってこういう事を言うんだなって。あいつ律儀に口上述べてたのに、ガン無視なんだもん。あの時ほどミコトが俺たちの仲間で良かったって思ったことないぜ」
そう言ってレイドはキラキラと輝く眼差しを私に向けてきた。褒められているようで、明らかに貶されている。
誰が無慈悲だ。今年で三十路を迎える私に残された二十代という輝かしい時代はあと数ヵ月しか残されていないんだ。
その貴重な時間の中で無駄口に付き合う余裕なぞあるわけなかろう。
「てか、勇者たちに加勢しなくていいの? 俺は回復士だからいいけど、ミコトはサボってたら公爵様に氷付けにされるんじゃないか?」
「さぼってなどいない。私は付与魔術師だ。付与魔術なら状況に合わせてかけている。それにこの程度の相手ならあいつらの自力で十分だろう」
「またまたー。あんなすげー攻撃魔術ぶっぱなしておいて、自分、付与魔術師ですからは通じないって」
呑気な会話を交わす私たちを尻目に、目の前では一方的な殺戮が繰り広げられていた。
視界いっぱいに広がる草原を埋め尽くさんばかりの魔物の群れ。上級魔族が私たちに対抗するために召喚した低級から中級の魔物どもが勇者一向を屠ろうと襲いかかってくる。けれど勇者一向の力はそれをはるかに上回り、一騎当千どころか、蟻の群を踏み潰すような、蹂躙というに相応しい一方的な戦い方だった。
レイドは私を無慈悲と言ったが、彼らの方が容赦ないと思う。
勇者は聖剣を振り回し、向かってくる魔物をバターのように切り裂いていく。
弓術士は弓を引くごとに複数の矢を射り、すべての矢が正確に魔物を貫く。
魔術師は地面を割って、魔物を落とすと、火炎魔術を放ち、再び地面を塞いだ。
聖騎士は聖力を纏った盾で魔物の群に突進し、なぎ倒していく。
そして、ウィリアム・ラダ・マクラーゲンは片っ端から魔物を氷付けにする。次の瞬間には粉々に砕け散り、欠片が陽光を反射して輝く様はいっそ美しく、背筋を走る寒気が止まらない。
数の不利など感じさせない、いっそ彼らに対峙する魔物たちが哀れなほどに、勝敗は始めから決していた。
魔物を召喚した上級魔族はとっくの昔に命からがら逃げていった。そのくせ、召喚した魔物の数は半端ないため、彼らの苛立ちは相当だ。
上級魔族は質より量を取ったらしいが、数ばかり多くても、個体が弱すぎて話にならない。
戦いというよりはほとんど作業の様なもので、戦闘狂いの勇者も顔が死んでいる。
マクラーゲンなどいつも凍っている表情を更に凍らせ、背景にはブリザードが吹き荒んでいる。
こんなのは時間の浪費に他ならない。けれど、私は付与魔術以外の手出しは禁止されている。
レイドが言う攻撃魔術をぶっ放したことでマクラーゲンに大目玉を食らったのは記憶に新しい。
だから私は戦闘が終わるまでおとなしく待っているのだ。
多少は手こずるだろうが、この調子でいけば三十分以内に終わるはずだ。
と、観戦を決め込んで、レイドとのんきに草影に隠れていたら……。
『何をしている。さっさと自分の役割を果たせ』
『私に攻撃魔術を使うなと言ったのはマクラーゲンの方だろう。だから私はおとなしくしていたではないか』
念話だというのにマクラーゲンの深いため息が聞こえてきた。怒られた腹いせにちょっと反抗的な態度をとってみたのだが、完全にタイミングを間違えた気がする。
私が内心、冷や汗を垂らしていると、聞いているだけで凍りつきそうな絶対零度の声が頭に響いた。
『一分以内に敵を殲滅しろ。さもなくば』
『サーイエッサー!ハッシュ!広範囲魔術使うからポーズ頼んだ!』
『やっとかよ。了解。カウント十でよろしくな』
『十、九……』
草原を駆け巡っていた勇者が立ち止まり、その場で剣を一閃する。周囲十数メートルの魔獣が消し飛び、そこだけぽっかりと空間が出来た。
勇者は聖剣を正面に構えると詠唱を始めた。
張り上げているわけでもないのに、勇者の声が朗々と響き渡る。
「天駆ける雷龍。古の咆哮。地に還る哀しみ。その涙、誰を癒すこともなく、触れるもの全てを焼き尽くす、雷とならん」
『……一、ゼロ』
「雷龍の涙!」
言い終わると同時に勇者は聖剣を頭上に突き出した。空を切り裂くような爆裂音と共に、魔物どもの身体を雷撃が貫く。貫いた場所から炎が上がり、数瞬後には灰となって消えた。
草原を埋め尽くさんばかりにひしめき合っていた魔物は一体も残っていなかった。
散り散りに戦っていた仲間たちは戦闘体制を解くと、やれやれといった感じで私とレイドが隠れていた場所に集まってきた。
「あんな芸当が出来るなら始めからそうしてもらいたいものですね」
魔術師は戻ってきてそうそう嫌みったらしく、勇者を睨めつけた。
「すまんすまん。もう少し経験値を稼げると思ったんだけどな」
「雑魚を相手にしたところで、私たちが稼げる経験値などたかが知れています。あの程度の魔物、初心者パーティーの腕試しにしかならないでしょう」
「さすがにそれはないよー。個々体が弱くても数が数だから。小国だったら一晩かからずに滅びるレベルのスタンピードだったからね。僕らのパーティーは規格外だから。君たち普通じゃないことをもっと自覚した方がいいよ」
弓術士はにこやかな笑みを浮かべながら、さらりと毒を吐く。弓術士の言葉に口の端をひきつらせた魔術師は、八つ当たりの矛先を変えたようだ。
「疲れるばかりで、実りのない実に無駄な時間でした。けれど、あなたたちはさぞやゆっくりと休む事が出来たんでしょうね?」
魔術師の視線が私とレイドを捉える。
「いやいや俺は回復と浄化専門だから。仕事今からだから。って言ってもあんたら怪我どころか、体力もほとんど消耗してないだろ。魔物も障気ごと消し炭になったし。俺ってそもそも不必要だよな。聖女なんて称号ちり紙と一緒に丸めてごみ箱にポイするべきだよな」
「レイド。あなたが聖女の存在を否定してはならない。聖女たるもの常に清い心と慈しみを持って……」
「うるせー!! 普段無口のくせに聖女に関する時だけ饒舌になるんじゃねぇ! てか、俺は女じゃねぇ! だから聖女なんて称号要らねぇんだよ!!」
この会話だけで判る通り皆が皆、それぞれに仲が悪い。
パーティーというのは志を同じくした仲間だと思われるかもしれないが、この勇者パーティーに至ってはその限りではない。
能力は一流ながら、あくの強さも一流という、高級食材を混ぜれば美味しいに決まってるよね論理で結成された寄せ集め集団なのだ。
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