付与魔術師と言い張ってみたけれど

橘アカシ

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「これから先、敵はより一層力を増していく事でしょう。命の保証などなければ、いつだって死と隣り合わせの旅です。そんな中で頼りであるはずの仲間に不信感を抱いたまま、旅を続けられると思いますか? 命を預けられると思いますか? あなたが正体を明かさない限り、私はあなたをパーティーの一員とは認めない。それでも隠し続けるというのなら私はこのパーティーを抜けさせていただきます」

 他人を見下し、皮肉ったことばかり言う魔術師の口から出たのは正論すぎる正論だった。
 魔術師が嫌味な野郎で捻くれているのは皆の共通認識だ。
 けれど、どれほど言葉が捻くれていようとも、彼はいつだって正しく、根の真面目さと誠実さが滲んでいた。
 
 


 ねちねちとした物言いに辟易すれど、故に魔術師の言葉を軽んじるものはこのパーティーにひとりもいない。
 
 弓術士は柔和に垂れ下がった眦を更に下げ、聖騎士は聖女だけに注ぐ関心をほんの少しだけ私に向ける。レイドは泣き出しそうになるのをぐっと堪えて、勇者は外国人のように肩をすくめる。



 マクラーゲンはと言えば。

 誰も読み解けない鉄面皮の裏で何を考えているのだろう。もう九ヶ月の付き合いとなるのに、眉間に皺を寄せて虚空を睨みつける彼の内側はちらりとも見せてもらえない。

 冷静。冷淡。冷徹。

 彼が得意とする氷系魔術のごとく、凍りつきそうになるほどの建前の裏にどんな真実を隠しているのだろう。



「ミコト」



 レイドが思わずというように私の名前を呼ぶ。この世界ではあまり馴染みのない響きだと言われた。それでもこの名前を名乗れと言ったその人に答えを求めた。

 私のすべてはこの世界に来た時からマクラーゲンに託している。

 私の容姿かたちも、私の意思も、私の行動も、私の言葉も。

『お前を必ず元の世界に還してやる。だからお前の全部、私に預けろ』

 まっすぐに向けられた瞳が、故郷で見た青に似てたから、信じてもいいと思った。



 冷たい言葉の端々に、雪解け水のような温かさを見つけてしまった。誰よりも責任感が強く、そして優しい男だと知ってしまったから。強い故に脆い今にも砕けてしまいそうなその背中を支えたいと思った。



 だから私は決めたのだ。この男に最期までついて行くと。



 三十路まであと数ヶ月。こんな所で仲間割れをしている暇はない。
 だから、さっさと答えをくれ。

 マクラーゲンはふいと私を見るとすぐに視線を反らしてため息をつく。肺がぺちゃんこになってしまうんじゃないかと思うほど長いため息を吐き切ると、心底どうでも良さそうに言った。

「これの正体などとくだらない。お前たちに他人への興味関心があったとは驚きだな。そんなに知りたいならフードの下を見せてやればいい。どうせ後悔するのはお前たちだ」

 ……………………さすがマクラーゲン。言葉の切れ味は抜群だ。その発言に全員が凍りついた。

 そりゃ、そうだろ。魔術師が私を問い詰めていても、原因がマクラーゲンであることは明白だ。だからと言って直接問い質すことは出来ない。なぜなら、マクラーゲンは泣く子も黙る公爵様なのだ。

 この世界には明確な身分差がある。
 平民が貴族に逆らえば、その場で首を刎ねられても文句は言えないし、許可がなければ目を合わせることさえ不敬に当たる。

 魔術師は魔術において、他の追随を許さない歴史上稀に見る鬼才ともてはやされてはいるが元は平民。魔術師がいくら傲岸不遜で慇懃無礼な奴だったとしても公爵様に楯突けばどうなるかなど火を見るより明らかだ。

 今は魔王討伐という目標を掲げ、同じパーティーに属しているため、身分関係なく公平な立場をということになってはいるが、根本に身分差は依然として存在している。

 今回の件もマクラーゲンではなく私に問い質しているのはそういった理由だろう。
 決して普段から魔術師が私を目の敵にしていて、いじめ倒す機会を虎視眈々と狙っていたからではない。……はずだ。

 マクラーゲン自身、謙虚とは程遠いが権力を振りかざす卑小な人間ではない。

 彼が前に出るのはいつだって、必要とされる場面だけだ。

 こんな脅すような物言い初めて聞いた。


「あの、えっと、公爵様がミコっちゃんの顔まで隠してたんだよね? ローブは陰気くさいけど、ミコっちゃんの中身は陰気とは程遠いし。なのに僕たちが後悔するって……」

 常日頃から胡散臭い笑みを浮かべる弓術士の顔が引きつっている。

 マクラーゲンは弓術士の問いかけにふっと笑った。口端を持ち上げただけなのに何たる破壊力。

 見惚れている間に凍死しそうな美しさだ。
 
 しかし、ここで屈するほど魔術師の覚悟も安いものではないらしい。自身を落ち着かせるようにくいっと眼鏡の位置を整え、再度私を睨んできた。



「……あなたの飼い主の許可も出た事ですし、顔を頑なに隠す理由はもうないでしょう。さっさとそのフードを取りなさい」

 誰かが息を飲む。けれど、反対の声は出ない。

 これが答えだ。私にも否やはない。

 マクラーゲンは徐ろに私に視線を向ける。それに合わせて他のみんなも私を凝視する。

 ……こうも注目されると外しにくいのだが。

 しかし、もったいぶればもったいぶるほど外した時の残念感は増すわけで。



 ええい、ままよ! と私はフードに手をかけて、頭部を晒した。

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