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2日目
幕間 華麗なる高崎家のフルコース
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久しぶりの家族揃っての夕食。今日は少し高いレストランの個室でフルコースを堪能している。
「どうしたの? 浮かない顔して」
ワインを飲みながら、右隣に座っている母が聞いてきた。事件のことを考えて、気づけば虚空を見つめていた。昨日発生した殺人事件を追って、この二日間は頭をフル回転したツケが回ってきたのだろう。その上、さっきまでの新聞作成の疲労も溜まっている。
「いや、部活で少し疲れた」
「昨日だかメールで来てたけど、今日は休校だったようね。なにやら殺人事件が起こったとかで」
「殺人事件か……。うちの学校でも起こってほしいな」
正面に座っている妹の若葉が呟く。若葉は中学3年生で今年は受験生だ。ってか、私も受験生か。嫌な言葉を思い出してしまった。
「どうして?」
取り敢えず理由を聞いてみた。精神的に不安定な時期であるため、何か悩みや不安があるのかもしれない。もしかしたら、学校でいじめられているとか……。いや、考えすぎか。
「だって、学校が休みになるんでしょ」
そうだった。若葉はまだ子供だった。若葉にとって初めての受験生。ずっと勉強をしているだけの日々から現実逃避したいのだろう。しかし、現実逃避は現実逃避でも違う意味の現実逃避かもしれない。
「何か学校に行きたくない理由でもあるの?」
「んー。気分★」
顎にフレミングの左手を作りながら言った。どうやら杞憂だった。学校でいじめられたとか、学校が嫌になったわけではないようで一安心。ここで誤解しないでもらいたいが、私は断じてシスコンなどの類ではない。兄としての責務を全うしているだけだ。
「それで、事件の詳細を聞かせなさいよ。これを楽しみにしてたんだから」
母はいつも通りテンションが高かった。
母は昔からどこか変わっている人だ。休校なのに息子が学校に行くことに反対しない───反対どころか賛成している───し、何より今でも謎なのは、医学部に入り医師免許を取得した後、法科大学院に通い、弁護士になり、高校の教師をしていることだ。何かわからないことがあれば、なんでも教えてくれる。
「誰にも話さないでくれよ。事件は武道館で起きた───」
私は取材で得られた情報とともに今回の事件について話した。母は面白そうに聞いている。ワインを何杯も飲んだ後であるため、ちゃんと聞いているのかは不明だが……。若葉は全然気にせず食事を楽しんでいる。
「なるほどねぇ」
私の話を聞き終わると母はワイングラスを回し、それを見つめながら言った。
「ねえ、あなた。どう思う?」
私から見て左隣に座っている父に感想を尋ねた。そういえば今日はずっと喋っていなかったな。父は「禔靚(しえん)」という名で小説家をしている。「禔靚」という名は紛れもなく本名である。第一作「黒の館」から続く「色の館シリーズ」を立て続けにヒットさせ、現在では人気小説家になった。特に人気なのは「緑の館」だそう。毎日家で執筆するため、普段は家事全般を担っている。
いかに美しく謎を作るか、いかに華麗に謎を解き明かすかを日々考えているため、たまに話しかけても心ここにあらずの時間がある。今も何か考え事をしていたのかもしれない。
「ああ。実に興味深い話だった」
「人気推理小説家のあなたから見て、この犯人はどう映ってるの?」
「登美子。大人気推理小説家なんて言い過ぎだよ。ハハハハ」
いつの間にか「大人気」になってる。なんだこの親父。
「……そうだねぇ。あまりにも稚拙で、あまりにも幼稚だ。まあ、高校生だから成立したトリックだろう」
スッと笑いが止まり、小説家の目となっていた。
「そうね。私もそう思うわ。ねえ、恭二。ヒント欲しい? この謎を解くためのヒントを」
母と父は揃って、ニマニマしている。二人は話を聞いただけでトリックのすべてがわかったようだ。自分の親であるが、率直に恐ろしく思う。同時に、こんな簡単なのにわからないのとでも言わんばかりのこの表情に怒りも込み上げてくる。
「まだいい。自分で解くから。あと、犯人は流石にまだわかってないよね、二人とも」
「ええ。だって、まだ一つの情報がわかってないじゃない。ねえ、あなた」
「ああ。そして、その情報次第では犯人を特定することが不可能になるかもしれないね。だから、その意味で言うと、犯人はかくれんぼが上手いんじゃないかな」
「こんなに上手い犯人さんだから、その勇気と聡明さを称えて、裁判になったら弁護しようかな」
「ハハハ。登美子、少し黒いワインを飲みすぎたようだね。口直しの白ワインでもいかがかな?」
「フフ。それは面白い冗談ね。私が負けるとでも?」
その後も二人の少しイカれた会話は続き、私と若葉は会話に置いていかれた。若葉はどうやら会話を聞くのを諦めて食事を楽しもうとしているようだ。私も事件のことについて、色々と思考を巡らせ始めた。
「どうしたの? 浮かない顔して」
ワインを飲みながら、右隣に座っている母が聞いてきた。事件のことを考えて、気づけば虚空を見つめていた。昨日発生した殺人事件を追って、この二日間は頭をフル回転したツケが回ってきたのだろう。その上、さっきまでの新聞作成の疲労も溜まっている。
「いや、部活で少し疲れた」
「昨日だかメールで来てたけど、今日は休校だったようね。なにやら殺人事件が起こったとかで」
「殺人事件か……。うちの学校でも起こってほしいな」
正面に座っている妹の若葉が呟く。若葉は中学3年生で今年は受験生だ。ってか、私も受験生か。嫌な言葉を思い出してしまった。
「どうして?」
取り敢えず理由を聞いてみた。精神的に不安定な時期であるため、何か悩みや不安があるのかもしれない。もしかしたら、学校でいじめられているとか……。いや、考えすぎか。
「だって、学校が休みになるんでしょ」
そうだった。若葉はまだ子供だった。若葉にとって初めての受験生。ずっと勉強をしているだけの日々から現実逃避したいのだろう。しかし、現実逃避は現実逃避でも違う意味の現実逃避かもしれない。
「何か学校に行きたくない理由でもあるの?」
「んー。気分★」
顎にフレミングの左手を作りながら言った。どうやら杞憂だった。学校でいじめられたとか、学校が嫌になったわけではないようで一安心。ここで誤解しないでもらいたいが、私は断じてシスコンなどの類ではない。兄としての責務を全うしているだけだ。
「それで、事件の詳細を聞かせなさいよ。これを楽しみにしてたんだから」
母はいつも通りテンションが高かった。
母は昔からどこか変わっている人だ。休校なのに息子が学校に行くことに反対しない───反対どころか賛成している───し、何より今でも謎なのは、医学部に入り医師免許を取得した後、法科大学院に通い、弁護士になり、高校の教師をしていることだ。何かわからないことがあれば、なんでも教えてくれる。
「誰にも話さないでくれよ。事件は武道館で起きた───」
私は取材で得られた情報とともに今回の事件について話した。母は面白そうに聞いている。ワインを何杯も飲んだ後であるため、ちゃんと聞いているのかは不明だが……。若葉は全然気にせず食事を楽しんでいる。
「なるほどねぇ」
私の話を聞き終わると母はワイングラスを回し、それを見つめながら言った。
「ねえ、あなた。どう思う?」
私から見て左隣に座っている父に感想を尋ねた。そういえば今日はずっと喋っていなかったな。父は「禔靚(しえん)」という名で小説家をしている。「禔靚」という名は紛れもなく本名である。第一作「黒の館」から続く「色の館シリーズ」を立て続けにヒットさせ、現在では人気小説家になった。特に人気なのは「緑の館」だそう。毎日家で執筆するため、普段は家事全般を担っている。
いかに美しく謎を作るか、いかに華麗に謎を解き明かすかを日々考えているため、たまに話しかけても心ここにあらずの時間がある。今も何か考え事をしていたのかもしれない。
「ああ。実に興味深い話だった」
「人気推理小説家のあなたから見て、この犯人はどう映ってるの?」
「登美子。大人気推理小説家なんて言い過ぎだよ。ハハハハ」
いつの間にか「大人気」になってる。なんだこの親父。
「……そうだねぇ。あまりにも稚拙で、あまりにも幼稚だ。まあ、高校生だから成立したトリックだろう」
スッと笑いが止まり、小説家の目となっていた。
「そうね。私もそう思うわ。ねえ、恭二。ヒント欲しい? この謎を解くためのヒントを」
母と父は揃って、ニマニマしている。二人は話を聞いただけでトリックのすべてがわかったようだ。自分の親であるが、率直に恐ろしく思う。同時に、こんな簡単なのにわからないのとでも言わんばかりのこの表情に怒りも込み上げてくる。
「まだいい。自分で解くから。あと、犯人は流石にまだわかってないよね、二人とも」
「ええ。だって、まだ一つの情報がわかってないじゃない。ねえ、あなた」
「ああ。そして、その情報次第では犯人を特定することが不可能になるかもしれないね。だから、その意味で言うと、犯人はかくれんぼが上手いんじゃないかな」
「こんなに上手い犯人さんだから、その勇気と聡明さを称えて、裁判になったら弁護しようかな」
「ハハハ。登美子、少し黒いワインを飲みすぎたようだね。口直しの白ワインでもいかがかな?」
「フフ。それは面白い冗談ね。私が負けるとでも?」
その後も二人の少しイカれた会話は続き、私と若葉は会話に置いていかれた。若葉はどうやら会話を聞くのを諦めて食事を楽しもうとしているようだ。私も事件のことについて、色々と思考を巡らせ始めた。
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