名探偵エリカの不完全事件簿

Arrow

文字の大きさ
1 / 4

第一話 ミケ

しおりを挟む
ある日の午後、エリカの事務所にいつものように勇気がやってきた。

「エリカ、今日も事件の進展は…」

だが、彼がドアを開けた瞬間、目に飛び込んできたのは、エリカが膝の上で一匹の猫を抱えている光景だった。

「え…ええっ!?」
勇気は驚きのあまり、足を一歩踏み外してドアの前で立ち止まった。

エリカは無邪気に猫の毛を撫でながら、顔を上げてにっこり笑った。
「ああ、勇気!おかえり。今日は新しい助手を迎えたんだよ。」

「新しい助手?」勇気は目を瞬かせて言った。
「でも、それは…猫じゃないか!」

「うん、ミケ。」
エリカは猫を抱きかかえながら、自信満々に答えた。

「ミケ?君が猫を…飼ってるのか?」
勇気は信じられないというように言った。

「いや、飼ってるわけじゃないけど。」
エリカは猫を少し持ち上げて、
「この子、なんだか気に入っちゃったんだ。」と笑顔を見せた。

「それって…野良猫じゃないのか?」
勇気はさらに驚いて言った。

「野良猫?違うよ。ちゃんと首輪つけてるじゃない。」
エリカは猫の首輪を見せた。
「ほら、名前と電話番号も書いてある。」

「え!それって…だれかの飼い猫じゃないですか?」
勇気は不安そうに言った。

「うーん、どうかな。でも、私に懐いてるしいんじゃないかな。あ、でも君にこの猫を渡そうかな。」
エリカはにっこりと微笑んだ。

「え?」
勇気は驚きながら尋ねた。
「猫を…僕に?」

「もちろん!」
エリカは真顔で言った。
「かわいいけど少々匂うからねこいつ」

「えっ、ちょっとひどくないですか!ミケちゃんがかわいそうですよ」

「ふふ、冗談だよ。」
エリカは猫を抱きしめるように言った。
「いい匂いだ。それにこの子、意外と賢いんだ。君をクビにしてこの子を助手にする日も遠くはない」

「すぐクビをちらつかすな、この人…」
勇気はため息をつきながら言った。
「はやく交番とかに届けましょ?」

「いやだ!だれにも譲らないよ。」
エリカは猫を撫でながら笑顔を見せた。
「ミケは、私にぴったりの助手だもん。」

その時、事務所のドアが勢いよく開き、依頼者が顔を出した。
「す、すみません!私の猫が…」

「また猫か!」
エリカはすぐに立ち上がり、ミケを大切に抱きかかえた。
「どうしたんですか?」

「実は、私の猫が行方不明で…」
依頼者は涙ぐみながら話し始めた。

「猫の行方不明?それは大問題ですね!」
エリカは真剣な顔をしてうなずいた。
「君の猫、どんな猫なんですか?」

「ええと…白くてふわふわして、丸くて…首輪に名前ついているんですけど」
依頼者は少し困ったように言った。

「それって…ミケじゃないか!」
エリカはミケを見て、目を輝かせながら言った。

「え、でも…私の猫をどうしてあなたたちが。」
依頼者は驚いたように言った。

「ふむ…そうだね。でも、ミケは私の猫だから渡さないぞ!」
エリカは強く言い切った。

「それ…依頼者の猫ですけど…」
勇気が心配そうに言った。

「うーん…」
エリカは少し考えてから、
「では、この猫が君のじゃないことを証明して見せる!」
と得意げに言った。

依頼者は困惑した表情を浮かべた。
「証明って…?」

「そう!ミケには、君の飼い猫にはできないすごい特技があるんだ!」
エリカは目を輝かせて言った。

「え?特技?」
依頼者はびっくりして聞いた。

「もちろん!ミケには、例えば…猫のくせに、ピアノが弾けるんだ!」
エリカは胸を張って言った。

「ピアノ…?」
依頼者は驚きながら言った。

「うん!ほら、見てて!」
エリカはピアノの前にミケを座らせ、猫にピアノの鍵盤を触らせようとした。

だが、ミケは鍵盤の前で寝転んで、まったく動こうとしない。

「ミケ…!」
エリカは何度も呼びかけたが、ミケはまったく反応しなかった。

「な、なんで動かないんですか?」
依頼者が困った顔で言った。

「おお、失礼!ミケは気分屋だからね。」
エリカは照れ笑いを浮かべながら言った。

その時、依頼者が言った。
「実は、うちの猫にはもっとすごい特技があるんです。」

「お、何だ!教えてくれ!」
エリカは興奮した。

「うちの猫、鍵を開けるんです。」
依頼者は笑いながら言った。

「鍵を開ける!?それはすごい!」
エリカは驚きの声をあげた。
「じゃあ、ミケもそれを試してみよう!」

「なんで…」と勇気は思ったが、子供のようにはしゃぐエリカを見ていると口には出せなかった。

エリカは鍵を持ってきて、ミケに見せる。が、ミケはそのまま眠っているだけだった。

「うーん、どうやらミケも鍵を開けるにはちょっとしたコツがいるらしいな。」
エリカの真剣な口調に依頼者は微笑を浮かべた。

「それじゃあ、次の特技!」
エリカはまた別のものを取り出した。
「ミケ、君は食いしん坊だよね!」

ミケはやっと目を覚まし、食べ物を目の前に差し出されると、興味津々でそれにかぶりついた。

「おお!さすがだな!」
エリカは満足げに言った。

「特技ではないですよね」と依頼者が微笑を浮かべながら勇気にささやく。

「じゃあ、最後に…ミケの一番の特技を見せてあげます!」
エリカは自信満々に言った。

「一番の特技?」
依頼者と勇気は興味津々で見守った。

「ミケ、君の一番の特技は…人を癒すことだ!」
エリカは深刻な顔で言った。

ミケはそれを聞いて、エリカの膝におとなしく座り、まるで人間のようにエリカを見上げて「ニャー」と鳴いた。

「うーん…」
エリカはちょっとしょんぼりした表情で言った。
「やっぱり、君は最高の助手だね。」

しかし、依頼者はしっかりとその場にいた猫を見て、やっと決心がついたように言った。
「やっぱり、この猫は私の猫です。返してください。」

エリカは一瞬、しょんぼりした顔をして、ミケを抱きしめながら言った。
「分かったよ…でも、君にはすごい特技がたくさんあるから、どこに行っても大丈夫だよね?」

「ミケは私の猫です…」
依頼者は微笑んだ。

エリカはしばらく黙っていたが、ミケを優しく女性に渡した。
「じゃあね、ミケ。君がどこに行っても、私は君を忘れないよ…!」

ミケは女性の腕の中で満足げに丸くなり、エリカの膝を離れていった。

エリカは静かにため息をつき、勇気に向かって言った。「ペットショップ行かない?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...