時計仕掛けの遺言

Arrow

文字の大きさ
9 / 24
第2章 突然の死

第4部 疑惑の矛先

しおりを挟む
クラレンスの遺体が発見された翌朝、リチャードが苛立ちを隠さないまま広間を歩き回っていた。窓の外を見やると、昨日の嵐が残した痕跡がはっきりとわかる。大木が道路に倒れ込み、舗装された一本道を完全に塞いでいた。

「ふざけてる。」
リチャードが窓辺で唸るように言った。
「車を出すこともできない。どうやって警察を呼ぶつもりだ?」

ジュリアンが冷静に応じた。
「電話は?まだ繋がらないのか?」

「試してみたけどダメだったわ。」
エレノアが広間に入ってきたところで答えた。
「嵐で電話線が切れたみたい。携帯もこの場所じゃ電波が入らない。」

リチャードは舌打ちし、拳を壁に叩きつけた。
「大事な時にこれだ。こうなったら歩いて助けを呼びに行くしかないだろう。」

「それも現実的じゃない。」
ジュリアンが厳しい声で制した。
「ここから最寄りの町までは山道を何時間も進む必要がある。昨日の嵐で地盤が緩んでいる可能性もある。」

「つまり、俺たちはここに閉じ込められたってわけか。」
リチャードが苦々しい顔をする。

「その通りね。」
エレノアが低い声で言った。
「だからこそ、まずは館の中で起きたことを解決する必要がある。」

「館の中で起きたこと、だと?」
リチャードが彼女を睨む。
「まるで誰かが父さんを殺したみたいな言い方じゃないか。」

「その可能性が否定できないからよ。」
エレノアは動じることなく続けた。
「クラレンスが毒を盛られたのなら、その犯人はこの館にいる――私たちの誰か。」

「馬鹿げてる!」
リチャードは拳を振り上げた。
「家族が家族を殺すなんて、そんなことがあるわけないだろう!」

「でも、考えてみて。」
アリスが震える声で言った。
「他に誰が……ここには私たちしかいないのに……」

その言葉に、一瞬だけ広間の空気が凍りついた。リチャードがアリスに向き直り、低い声で尋ねた。
「おい、まさか俺を疑ってるのか?」

「違う……そんなつもりじゃ……」
アリスは後ずさりしながら言葉を濁した。

「落ち着いてくれ、リチャード。」
ジュリアンが間に入った。
「こういう時は感情をぶつけ合うのではなく、冷静に考える必要がある。クラレンス氏が残した装置を使えば、何か手がかりが見つかるかもしれない。」

リチャードは鼻で笑った。
「冷静に考えろだと?こんな状況で何が冷静だ。あのガラクタが何かを解決してくれるとは思えない。」

「解決するかどうかは試してみなければわからない。」
ジュリアンが装置を指し示した。
「クラレンス氏はこれに意味を込めたはずだ。それを探らずにいるのは、彼の遺志を無視することになる。」

「勝手にすればいい。」
リチャードは吐き捨てるように言い、広間を出て行った。

その後、ジュリアンはエレノアとアリスに向き直り、静かに尋ねた。
「ここにいる全員に動機があるとは限らない。しかし、少なくともクラレンス氏が何かを恐れていたことは間違いない。」

「恐れていた?」
エレノアが首をかしげる。
「彼は恐れるような人間ではなかったはずよ。」

「そうだな。」
ジュリアンは頷いた。
「だが、彼はこの装置を通じて私たちに伝えようとした。その伝えたかったことが、彼の死と関係している可能性が高い。」

「ジュリアン。」
アリスが不安そうに言った。
「もし、本当に誰かが父さんを……犯人が私たちの中にいるとしたら、どうなるの?」

その質問にジュリアンは一瞬答えを躊躇ったが、やがて静かに口を開いた。
「それでも真実を明らかにしなければならない。それがどんな結果をもたらすとしても。」

窓の外では再び風が強まり、嵐の残響が不安を煽るように響き渡っていた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜

遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった! 木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。 「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」 そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...