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第三章 芽生える想い
深夜の物思い
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「アリアーナ」
竜王が、一歩近づいてきた。
「顔が赤いぞ。どこか具合が悪いのか」
「い、いえ。大丈夫です」
アリアーナはあわてて顔をそむけた。
竜王は、人の感情に疎い。千年もたった一人で生きてきたのだから、当然だ。それにそもそも竜王は人間ではない。彼の〈感情〉の働きは、人間とはまったく違っているかもしれない。
だから、自分のこの気持ちが通じることはないだろう。
それが、少し悲しかった。
その夜、アリアーナは眠れなかった。
ベッドに横たわり、天蓋を見つめていた。月明かりが、カーテンの隙間から差し込んでいる。
竜王の言葉が、頭の中で繰り返される。
「お前と過ごす時間は、千年の中で最も価値のある時間だ」
あれは、どういう意味だったのだろう。
友情? ようやく話し相手ができた喜び? それとも……。
いや、無駄な期待を持つのはやめよう。竜王は、人間の恋愛など理解していない。自分の片思いに過ぎない。
それに、自分は生贄だ。竜王の所有物。
竜王だって、ちょっと毛色の変わった所有物を珍しがって、かまっているだけだ。いつか飽きてしまい、彼女のことなど忘れてしまうだろう。
そうすれば――どうすればいいだろう。
クロエたちのように、城の使用人として働く?
最後にはきっと、そういうことになるのだろう。何の役目もない毎日はつらい。穏やかな主の庇護下で、決まった仕事をこなす規則正しい日々。きっとそれは、そんなに悪くない生活だ。
ずっと竜王のそばにいられるのだから。ずっと――。
窓の外から物音がした。
アリアーナは起き上がり、窓へと向かった。カーテンを開けると――、
巨大な黒竜が、空を飛んでいた。
竜王だ。
月光を浴びた竜王の姿は、荘厳だった。広げられた翼が、月を覆い隠す。そして、その黄金の瞳が、こちらを見ていた。
竜王は、城の周囲を旋回し、やがて最上階のテラスに降り立った。
アリアーナは、考えるより先に体が動いていた。
部屋を出て、螺旋階段を駆け上がる。息が切れるが、止まらなかった。
最上階の扉を開けると、そこに竜王がいた。
「アリアーナ? なぜここに」
「あなたが……飛んでいるのが見えたので」
アリアーナは息を整えた。
「眠れなかったのですか」
「ああ」
竜王は、一瞬で人型に変化した。黒い衣装をまとい、月光を浴びて立つその姿は、まるで夜の化身のようだ。
「最近、よく眠れない」
「どうなさったのです?」
「わからない」
竜王はテラスの手すりにもたれかかり、夜空を見上げた。
「お前が城に来てから、色々なことが変わった」
「そう……なのですか?」
「ああ。千年間、変わることのなかった日常が、お前のせいで変わってしまった」
その言葉には、非難は含まれていなかった。むしろ、戸惑いのような響きがあった。
竜王が、一歩近づいてきた。
「顔が赤いぞ。どこか具合が悪いのか」
「い、いえ。大丈夫です」
アリアーナはあわてて顔をそむけた。
竜王は、人の感情に疎い。千年もたった一人で生きてきたのだから、当然だ。それにそもそも竜王は人間ではない。彼の〈感情〉の働きは、人間とはまったく違っているかもしれない。
だから、自分のこの気持ちが通じることはないだろう。
それが、少し悲しかった。
その夜、アリアーナは眠れなかった。
ベッドに横たわり、天蓋を見つめていた。月明かりが、カーテンの隙間から差し込んでいる。
竜王の言葉が、頭の中で繰り返される。
「お前と過ごす時間は、千年の中で最も価値のある時間だ」
あれは、どういう意味だったのだろう。
友情? ようやく話し相手ができた喜び? それとも……。
いや、無駄な期待を持つのはやめよう。竜王は、人間の恋愛など理解していない。自分の片思いに過ぎない。
それに、自分は生贄だ。竜王の所有物。
竜王だって、ちょっと毛色の変わった所有物を珍しがって、かまっているだけだ。いつか飽きてしまい、彼女のことなど忘れてしまうだろう。
そうすれば――どうすればいいだろう。
クロエたちのように、城の使用人として働く?
最後にはきっと、そういうことになるのだろう。何の役目もない毎日はつらい。穏やかな主の庇護下で、決まった仕事をこなす規則正しい日々。きっとそれは、そんなに悪くない生活だ。
ずっと竜王のそばにいられるのだから。ずっと――。
窓の外から物音がした。
アリアーナは起き上がり、窓へと向かった。カーテンを開けると――、
巨大な黒竜が、空を飛んでいた。
竜王だ。
月光を浴びた竜王の姿は、荘厳だった。広げられた翼が、月を覆い隠す。そして、その黄金の瞳が、こちらを見ていた。
竜王は、城の周囲を旋回し、やがて最上階のテラスに降り立った。
アリアーナは、考えるより先に体が動いていた。
部屋を出て、螺旋階段を駆け上がる。息が切れるが、止まらなかった。
最上階の扉を開けると、そこに竜王がいた。
「アリアーナ? なぜここに」
「あなたが……飛んでいるのが見えたので」
アリアーナは息を整えた。
「眠れなかったのですか」
「ああ」
竜王は、一瞬で人型に変化した。黒い衣装をまとい、月光を浴びて立つその姿は、まるで夜の化身のようだ。
「最近、よく眠れない」
「どうなさったのです?」
「わからない」
竜王はテラスの手すりにもたれかかり、夜空を見上げた。
「お前が城に来てから、色々なことが変わった」
「そう……なのですか?」
「ああ。千年間、変わることのなかった日常が、お前のせいで変わってしまった」
その言葉には、非難は含まれていなかった。むしろ、戸惑いのような響きがあった。
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