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第六章 新しい幸福
奇跡が起こった
アリアーナは、自分の体に異変が起きていることを自覚した。
もう「気のせい」では済まされない。
朝、気分が悪い。食欲がない。そして、不思議な眠気。
最初は、風邪かと思った。
しかし竜はよほどのことがない限り、体調など崩さない。アリアーナも半竜になってから、風邪などひいたことがなかった。
クロエが囁いた。
「奥様……もしかして」
「え?」
「妊娠なさっているのではないですか」
その言葉に、アリアーナは目を見開いた。
「そんな……半竜はめったに子を授からないと」
「でも、『絶対に授からない』というわけではないんですよね?」
クロエはさっそく竜王に報告。
竜王はすぐさま人間界へ飛び、ゼノギア王宮から侍医長をさらってきた(今回は、王宮側も快く送り出してくれたらしい)。
「またか」という顔で連れてこられた侍医長は、アリアーナを診断し、たちまち結論を出した。
「ご懐妊ですな。おめでとうございます」
アリアーナは息を呑んだ。
竜王も硬直している。やがて、その金色の瞳に、涙が浮かび上がってきた。
「奇跡だ。奇跡が起きた」
「……ザイフリート様」
「私たちの子」
二人は喜びに震えながら、抱き合った。
「千年間……千年間、私は孤独だった。だが、お前が来た。お前が私を愛してくれた。そして今、子までも……」
竜王の声が、嗚咽に変わった。
「ありがとう。ありがとう、アリアーナ」
アリアーナも、涙を流しながら、竜王を抱く腕に力をこめた。
「私こそ、ありがとうございます。この命も幸せも、全部あなたがくれたものです」
「大切にする。お前も、子も、私の命に代えても守る」
「はい……はい……」
二人は、長い間そうしていた。
半竜の妊娠は、人間と違い、十二か月ほど続くらしい。
アリアーナは今のところ、何も感じない。体型も変わっていないし、まだ胎動もない。お腹の中に命が宿っていると言われても実感できない。
しかし大切に、大切に育てていこうと思った。
色とりどりの花が咲き乱れる城の庭園を散歩するのが、アリアーナの日課だ。美しい花は、心をなごませてくれる。頭上には澄んだ青空。
――そう言えば水晶玉を通じて、地上の神殿から連絡が入ったとのことだった。
継母イヴェットは、アンネリーゼ伯爵夫人を殺害したかどで処刑。
妹のサリーナは、戦争を扇動しようとした罪で投獄。
そして父は、爵位と領地を剥奪された。ごくわずかな年金をもらって、細々と生きている、という。
正義は行われた。地上におけるアリアーナの名誉は回復された。
けれども、もう、どうでもいい。
父だけは処刑しないでくれと、アリアーナは竜王を通じてゼノギア王に頼んでいた。それがかなえられた形だが――アリアーナの心には、父に対する愛も残っていなかった。あの人は結局、アリアーナの母も裏切っていたのだ。
しかし、人間界のすべては、今こんなにも遠い。
アリアーナは、竜王の愛に包まれて、この美しい世界で生きていく。
もう「気のせい」では済まされない。
朝、気分が悪い。食欲がない。そして、不思議な眠気。
最初は、風邪かと思った。
しかし竜はよほどのことがない限り、体調など崩さない。アリアーナも半竜になってから、風邪などひいたことがなかった。
クロエが囁いた。
「奥様……もしかして」
「え?」
「妊娠なさっているのではないですか」
その言葉に、アリアーナは目を見開いた。
「そんな……半竜はめったに子を授からないと」
「でも、『絶対に授からない』というわけではないんですよね?」
クロエはさっそく竜王に報告。
竜王はすぐさま人間界へ飛び、ゼノギア王宮から侍医長をさらってきた(今回は、王宮側も快く送り出してくれたらしい)。
「またか」という顔で連れてこられた侍医長は、アリアーナを診断し、たちまち結論を出した。
「ご懐妊ですな。おめでとうございます」
アリアーナは息を呑んだ。
竜王も硬直している。やがて、その金色の瞳に、涙が浮かび上がってきた。
「奇跡だ。奇跡が起きた」
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二人は喜びに震えながら、抱き合った。
「千年間……千年間、私は孤独だった。だが、お前が来た。お前が私を愛してくれた。そして今、子までも……」
竜王の声が、嗚咽に変わった。
「ありがとう。ありがとう、アリアーナ」
アリアーナも、涙を流しながら、竜王を抱く腕に力をこめた。
「私こそ、ありがとうございます。この命も幸せも、全部あなたがくれたものです」
「大切にする。お前も、子も、私の命に代えても守る」
「はい……はい……」
二人は、長い間そうしていた。
半竜の妊娠は、人間と違い、十二か月ほど続くらしい。
アリアーナは今のところ、何も感じない。体型も変わっていないし、まだ胎動もない。お腹の中に命が宿っていると言われても実感できない。
しかし大切に、大切に育てていこうと思った。
色とりどりの花が咲き乱れる城の庭園を散歩するのが、アリアーナの日課だ。美しい花は、心をなごませてくれる。頭上には澄んだ青空。
――そう言えば水晶玉を通じて、地上の神殿から連絡が入ったとのことだった。
継母イヴェットは、アンネリーゼ伯爵夫人を殺害したかどで処刑。
妹のサリーナは、戦争を扇動しようとした罪で投獄。
そして父は、爵位と領地を剥奪された。ごくわずかな年金をもらって、細々と生きている、という。
正義は行われた。地上におけるアリアーナの名誉は回復された。
けれども、もう、どうでもいい。
父だけは処刑しないでくれと、アリアーナは竜王を通じてゼノギア王に頼んでいた。それがかなえられた形だが――アリアーナの心には、父に対する愛も残っていなかった。あの人は結局、アリアーナの母も裏切っていたのだ。
しかし、人間界のすべては、今こんなにも遠い。
アリアーナは、竜王の愛に包まれて、この美しい世界で生きていく。
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