【完結】魔力過多の捨てられ聖女は、氷の魔公爵の契約花嫁(抱き枕)になりました

深山きらら

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心臓に悪い

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 クラウス様が、私の首筋に顔を埋めた。ひんやりとした鼻先が肌に触れ、背筋がぞくぞくする。

「……ジゼル。いい匂いがする」
「えっ、あ、汗臭くないですか……?」
「いや……甘い、花の蜜のような香りだ。……落ち着く」

 普段は冷徹と言われる彼の声が、今は熱を帯びて、甘く耳元で囁かれる。
 抱きしめる腕の力が強まった。まるで、私がどこにも行かないように閉じ込めるみたいに。
 密着した胸元から、彼が安堵の息を吐くのが伝わってくる。

「……君は、最高の抱き枕だ」

 その言葉に、少しだけ胸がチクリとした。
 そう、私は「抱き枕」。聖女の力を失い、神殿からも婚約者からも捨てられた私を拾ってくれたのは、私が「都合の良い熱源」だから。

 分かっている。分かっているけれど。
 こんなに優しく抱きしめられると、勘違いしてしまいそうになる。

「……あったかい……」

 クラウス様の寝息が聞こえ始めた。
 不眠症だと聞いていたけれど、私の体温に包まれて、彼はあっという間に眠りに落ちてしまったようだ。
 無防備な寝顔は、起きている時の冷たさが嘘のように幼くて、愛おしい。

(私も、もう限界……)

 彼の冷気に包まれながら、私も深い眠りの底へと落ちていった。

 ***

 翌朝。
 目が覚めると、私はまだクラウス様の腕の中にいた。
 というか、昨晩よりも状況は悪化していた。

 彼の足が私の足に絡みつき、私の顔は彼のたくましい胸板に押し付けられている。完全に捕食された小動物の状態だ。

「……うぅ」

 動こうとして身じろぎすると、頭上からけだるげな声が降ってきた。

「……動くな。逃げるな」
「えっ、あの、クラウス様……?」
「あと五分……いや、十分。このまま吸わせろ」

 寝ぼけているのか、彼は私をさらに強く抱き寄せ、私の髪に頬をすり寄せた。
 冷たいはずの彼が、今はほんのりと温かい。私の熱が移ったのだ。それがなんだか、私たちが一晩中つながっていた証拠みたいで、顔がカッと熱くなる。

「熱が上がったな。……また冷やしてやる必要があるか?」

 クラウス様が薄く目を開け、いたずらっぽく唇の端を上げた。
 朝日の逆光の中で微笑む彼は、心臓に悪いほど綺麗だった。

 これは、契約。ただの利害の一致。
 そう自分に言い聞かせても、私の心臓の音は、彼に聞こえてしまいそうなほど高鳴っていた。

 私は男性にまったく免疫がないのに。
 ドキドキするなと言う方が無理な話だ。こんな美しく男らしい人と、ゼロ距離で接する毎日なんて。
 ああ、もう、おかしくなってしまいそうだ。
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