五つの星々、転生管理ー星巡りの護りビトー

神谷凪紗

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第一章 【第一星巡り部隊】

第二十九節 長けた能力

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◆◆◆


――綺麗だと思った。
どの宝石よりも、どの装飾品よりも、暗く、夕闇よりも濃いその色合いに一目見て惹かれてしまった。

決して安くない、けれど手に入れることのできる金額でよかった。

絶対に、欲しかったから。
私だけの、私にだけ与えられた煌びやかな装飾品。

「ねぇ、ママ。いったい何を見ているの?」

この前ねだられ、買ってあげた深紅の羽織を肩にかけながら愛娘は問う。
新しいもの、綺麗なもの、かわいいものに目がない愛娘に買ってあげたものは数知れず。私の欲しいものを諦めて、やりくりし、愛娘の欲しがるものを買ってあげたいがために、我慢し続けた日々。

私はそっと、娘に見えないように隠し何でもないのよ、っと声をかけ、頭を撫でてやる。

そうしてあげれば、愛娘は幸せそうに笑みを浮かべて私に寄り添ってくれた。

寄り添う愛娘に笑みを浮かべながら、心の中では綺麗な闇に思考を奪われ続ける。あれは私の物、誰にも渡したくない。私が、自分のために買った唯一の装飾品。

頭の中で、鋭く輝く漆黒の光に恋い焦がれる。

「ふふふ、私だけの物……」

私の瞳の先には常に、淡い紫を湛えた漆黒に輝くペンダントがあればいいの――――。


◇◇◇


『書面の差出人は、わたくしの弟……―フレーデル家からの書面のようですの』

フレーデル家。
この国で有数の資産家であり、フレイの生まれ育った家だ。

サテライト・フレーデル。
資産家の家の長女として何不自由なく過ごしてきた彼女が、この第一星巡り部隊―俺の部隊の護として配属されたのは、俺がアース世界へ向かう前日のことだった。

資産家の長女。
順当に考えれば、跡取りとしての教育を受けるはずの彼女が星巡り部隊に所属したのには、類まれなる才覚を備えていたからだ。

「フレーデル家が、なぜ俺たちに依頼を?」

フレーデル家ほどの権力を持つ家ともなれば、俺たちの部隊に頼まなくとも護衛専門の兵を募ることも可能だったはずだ。そもそも、この書面にはフレーデル家の刻印はおろか肝心なことが何一つとして表記されていない。

依頼人の名前、護衛対象の名前。

最低でもこれだけが揃っていなければ、どこに依頼を頼んだところで受けてもらえるはずがない。市井の者ならばまだしも、この国を代表する名家の者がそれを知っていなかったとは到底思えない。

俺の質問に佇まいを整えたフレイは、恭しく頭を下げ言葉を紡ぐ。

「フレーデル家長女として、謝罪いたしますわ。その書面は正式なものではなく、わたくしの弟…―クリステル・フレーデルの独断によるもの。本来であれば、レナトゥス様にお伝えする前にわたくしが対応すべきだったことなのですが……事情が変わりましたの」

顔を上げたフレイは凛とした瞳を俺に真っすぐ向けてくる。

「クリステル・フレーデルからの依頼は、要人の警護。―この星の物ではない“異物”を持った相手の護衛兼監視を依頼したいとの話でしたわ」

“異物”
その言葉を紡いだ瞬間、悪寒のような肌寒さが体を這いまわる。

体の感覚が薄れるような違和感にとっさに胸元を掴み、細く息を吐いた。
そんな俺を間近で見ていたフレイは、何かに気づいたかのようにさっと表情を変える。

「……レナトゥス様、失礼ですけれど何を持っていらっしゃいますの?」

眉間にしわを寄せ、俺の手元を凝視するフレイ。
何を、っと問われ書面を掲げて見せたが違うというように小さく首を振る。そしておもむろにトントンっと自身の胸元に指をあて刺すような瞳で俺の胸部を凝視する。

「あぁ、やっぱり。私の気のせいじゃなかったのね」
「へぇ、やっぱりそうなのか。僕も気になってたんだ」

フレイの言葉に反応するように、プラネとネイトも顔を覗かせる。

「後で相談しようと思っていたんだけど……」

フレイの伝えたいことにようやく気が付き、俺は懐から漆黒のペンダントを取り出す。掌の上にのせ三人の前に向ければ、三者三様の表情を向けていた。

「これ、とても黒いのね」
「全く見たことない物だ」

興味津々に視線を向けるプラネに対し、ネイトは訝し気に目を細めて眺めているだけだ。

「……―昨夜から感じていた、怖気が走るような感覚の正体はそれでしたのね。嫌なものですわ」

綺麗な顔立ちをゆがめ、嫌悪感丸出しなフレイの様子に驚いてしまう。
ハンカチの上から包むこむようにペンダントのチェーンを掴み、まじまじと毒物が入ったものを眺めるように目を向ける。

「わたくしの知っている魔石とは違いますわ。構築されている魔力式は似ているようですけれど、その性質は全くの別物に変えられているようですわね。……ああ、そういうことですの。この素材石を媒体にしたことで魔力式が上書きされたのですわ。この魔石に秘められた魔力式は“蓄積”ではなく“変質”……変質する前の魔力はレナトゥス様のものですわね?」

ぶつぶつと小声で喋っていたフレイは、確認を取るように俺にちらりと視線を向ける。

一目見ただけで、そのペンダントに蓄積された魔力を詳細に分析してしまう。
フレイは生まれた頃から属性魔力や保有魔力といった、力の源を分析する能力に長けていたのだという。それに加え、魔道具といった“物”を媒体にし能力を発揮する力に関しても、事細かに知覚し分析することができる。

本来であれば部隊の“導”として配属される能力だが、フレイの能力は“導”よりも“護”としての能力に特化したところにあったのだ。
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