徒花の先に

文字の大きさ
24 / 43

第二十四話 小望月①

 粘膜が混じり合い、お互いの熱を感じ合い、求め合う。息を奪い合うようなキスに苦しくなって思わず眉根を寄せると兄が敏感に気付いてすぐに唇が離される。
 嫌だ。もっと欲しい。
 今度は離さないように首に手を回し、引き寄せ舌先を絡ませる。
 そんな俺に兄のためらいも流れていき、蹂躙するように唇を奪う。
 苛烈な水音が静かな部屋に響き渡る。
 ちゅうと一層甘やかな口づけを交わし、情欲に染まる瞳でお互いに見つめ合う。プツリと俺と兄を繋いでいた銀糸が途切れる。
「……俺も兄上が好きです。永遠とわに兄上を愛しています」
 兄がぐっと何かを堪える。けれど浮かべる微笑みは幸せに満ちていた。
 俺の告白に返事をするように兄の手が頬に差し伸ばされる。
 その手はひどく慎重でまるで壊れやすいガラス細工にでも触れているようだった。
 兄の愛情が痛いくらい伝わってくる。
 再び唇を重ねる。今度は愛を確かめ合うような優しげなキス。抱きしめ合い、二人の心臓の鼓動が一つに重なる。
 ありえないはずの未来が今ここにある。
 言葉では言い表せない感情に涙が溢れた。兄の指先がそっと雫を掬う。
「どうして泣いてるんだ?」
「……分からない。でもずっとこうしていたい。温もりを、鼓動を、兄上をずっと感じていたい」
 シャツがしわくちゃになるまで強く掴んで胸に強く抱きつき兄の心臓の音に耳を傾ける。
 確かに聴こえる兄の鼓動。暖かさ。兄の生の脈動が自分に流れ、融合していく。
 不確かな未来に対する恐怖。
 けれどこうしていればどんな未来が待ち受けてようともずっと一つのまま、誰にも俺たちを離すことは出来ないと思った。
 兄が俺の手を掴み、服からそっと引き剥がし、そのまま俺に覆いかぶさったまま指と指を絡ませベッドに押し付ける。
 ……どうして?
 兄は俺といたくないのだろうか。不安に表情を曇らせると大丈夫だとでも言うように泣いて赤くなった目元に口づける。
「触れ合う以上にもっと感じる方法はたくさんある」
 ボタンを外され、しばらく体を動かさなかったせいで筋肉が落ち、柔くなった肌が服の間からちらりと覗く。
 兄の手がその服の中へと這っていく。指が肌に吸い付き、体を滑らかになぞっていく。さわさわと触れる感覚がくすぐったいような、でも変な感じがした。
 服を脱がされ体中に残る戦場の傷跡が露わになる。それを見て兄が固まる。萎えさせてしまったんじゃないか、そう不安になる。けれどすぐに兄は顔を近づけ、傷痕その一つ一つに懺悔するよう深く口づける。
「ごめんな。お前を守ってやれなくて」
 そんな兄の様子に俺の心も苦しくなる。
 悔恨の表情を浮かべる兄の頭に手を伸ばし、俺と同じ漆黒の色をした髪を慰めるように優しく撫でる。
「ほとんどは自分で蒔いた種だけど、誇らしい傷も勿論あるよ。だって兄上を、国を守った傷なんだ」
 胸の辺りに残る傷に手を添える。
「俺はこの傷が愛おしいよ」
 その言葉に兄は微笑みを浮かべるが、瞳は涙を堪えているようだった。大切にまるで宝石が相手のようにその胸の傷に一層深く口づける。
 そのまま柔らかな唇は肌という肌に余すことなく吸い付き、赤い花を咲かせていく。段々となぞる手は上へと這っていき、膨らみのない胸に到達する。つうっと指先が乳首に触れ、ぎゅっと摘まれる。
「っ……!」
 痛い、けれどそれ以外に湧く何か。
 くるくると弄られ、時たまぐっと押し込まれる。なんだかじんじんする。湧いてくるそれに逃げようと体を逸らす。
「それ、な、んか変……!」
「それでいいんだよ。その感覚を追うんだ」
 なんだか頭の悪い俺に勉強を教える昔の兄の姿を思い出す。兄は俺が理解するまで根気強く教えてくれた。今度もそんな兄と姿が重なる。
 つんと勃ち上がった乳首を兄が口に含む。コロコロと飴玉のように転がされ、手は空いた乳首にカリカリと爪を立てる。
 甘い刺激。強まるそれに体が勝手に震える。
「っや、それ、おかしくなる……!」
「嫌じゃないだろう。こんなに胸を押しつけて」
 その通りだった。
 慣れない刺激に逃げたいのに、もっとと強請るように兄に胸を主張する。
 びくびくと体が震えて止まらない。
 指先と唇が胸から離れる。その先端は赤く充血し、まるで性器のように勃ち上がっていた。
 兄が下を脱がせようと手を伸ばす。咄嗟に思い出し、その手を掴んだ。
「そ、そこは駄目。無理なんだ」
 その下には淫紋のような邪神を封印した証がある。見られるわけにはいかなかった。
 しかしそんな説得するには不完全な物言いに兄が納得するはずがなかった。
 拒む俺の手を無視して躊躇することもなく下を脱がせる。
 下腹に舞う紫の蝶。全てが兄に見られてしまった。
「兄上、そのこれはっ……」
 邪神のことはあくまで伏せて丁度いい理由を作ろうとするが、動揺した頭では無理な話だった。あたふたとして言葉に詰まる俺に兄は問答無用で蝶に吸い付く。
 蝶をかき消すように赤い痕を残す兄は深い嫉妬と執着に囚われているようだった。
 兄が口付けたそこ、きゅんきゅんと臍の下が疼く。
 男として感じるのはおかしい部位に戸惑うも、僅かに残ったまともな意識にどうして兄は何も訊かないのだろうと疑問に思う。
「兄上これは……」
 もうバレてしまったのだ。ここは恥を呑み込んで快感を得たくて淫紋を自分で施してしまったとそう言ってしまおうかと思ったが、兄の様子がどこかおかしい。
「……どうした?」
 そう首を傾げる兄はまるで何も知らないようだった。
 もしかして兄には見えていないのだろうか?
感想 39

あなたにおすすめの小説

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

同性愛者であると言った兄の為(?)の家族会議

海林檎
BL
兄が同性愛者だと家族の前でカミングアウトした。 家族会議の内容がおかしい

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』

バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。  そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。   最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ

BL
世間に秘された名門男子校・平坂学園体育科 空手の名選手であった高尾雄一は、新任教師として赴任する 高潔な人格と鋼のように鍛えられた肉体 それは、学園にとって最高の生贄の候補に他ならなかった 至高の筋肉を持つ、精神を削られ意志をなくした青年を太古の神に捧げるため、“水”、“風”、“土”の信奉者達が暗躍する 意志をなくし筋肉の操り人形と化した“デク” 消える教師 山奥の男子校で繰り広げられるダークファンタジー

囚われた元王は逃げ出せない

スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた そうあの日までは 忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに なんで俺にこんな事を 「国王でないならもう俺のものだ」 「僕をあなたの側にずっといさせて」 「君のいない人生は生きられない」 「私の国の王妃にならないか」 いやいや、みんな何いってんの?