神官長は勇者に囚われて

a

文字の大きさ
3 / 18

2

しおりを挟む
シンが魔王を討ち果たしたのは、あまりに唐突だった。
 たとえこの世界に戸惑い、戦いを拒んでいたとしても――彼は一度決めたら、必ずやり遂げる。
 その真っ直ぐさに、私は何度も驚かされてきた。

 凱旋の報は瞬く間に広まり、王城は歓喜に包まれた。
 玉座の間には群衆が集まり、王は満面の笑みで立ち上がる。

 「勇者よ。褒美として、我が娘リシェルを伴侶に迎えよ」

 王女はうつむき、長い睫毛を震わせていた。
 その表情には恥じらいと、微かな期待が滲んでいた。

 けれど、シンは一拍の迷いもなく言い切った。

 「……要らない」

 玉座の間にざわめきが走る。
 ざわめきは瞬時に沈黙へと変わり、空気が凍りついた。

 「褒美が欲しいなら――俺はイリアスを望む」

 その名が響いた瞬間、全身の血が逆流するような感覚に襲われた。
 「な、何を……!」

 言葉を絞り出したが、私の声は民衆のざわめきにかき消された。

 「勇者さまと神官長さま!」
 「奇跡の伴侶だ!」

 熱狂の声が波のように広がっていく。
 私は人々の期待を浴びながら、震える指先を必死に組みしめた。

 ――どうして、ここまで……。

 王女の顔を見た。大きな瞳に絶望の色が宿り、唇が噛みしめられている。
 私は罪悪感に胸を締めつけられた。

 だが、その横でシンは私を見ていた。
 群衆の喧騒の中でも、彼の瞳だけはまっすぐに私を捕らえて離さない。

 「……イリアス」

 声に出さなくても、唇の動きだけでそう告げていた。
 その黒い瞳は「世界よりも君」と語っていた。

 恐ろしくて――けれど、眩しかった。
 私はただうつむき、唇を噛みしめ続けるしかなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

目覚めたらポメガバース!?〜騎士団長に拾われて溺愛されちゃいました〜

恋白もも
BL
星空悠真(ほしぞらゆうま)は出勤途中でポメラニアンを助けたところ、異世界にポメガバースとして転生してしまう。 ガラの悪い人たちに絡まれていたら、騎士団長のリカルドに助けられる。 悠真はリカルドの屋敷でお世話になる内に、優しくて頼れるリカルドを好きになってしまう。ある日、寂しくてポメラニアンになってしまった悠真。リカルドの匂いの染みついた洋服を集めて巣作りをしているところをリカルドに見つかってしまって……。 「いっぱい甘やかしてあげる」 「ねえユーマ、愛してる。俺のものになって」 「俺にユーマの全部を見せてごらん」 不安になるとポメラニアンになってしまう悠真と、そんな悠真を溺愛するリカルド団長の甘すぎるハッピーエンドストーリー。 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ
BL
雄っぱいが大好きな俺は、気が付いたら大好きなblゲーの主人公になっていた。 最初から好感度MAXのマッチョな攻略対象達に迫られて正直心臓がもちそうもない。 いつも俺を第一に考えてくれる幼なじみ、優しいイケオジの先生、憧れの先輩、皆とのイチャイチャハーレムエンドを目指す俺の学園生活が今始まる。

異世界で高級男娼になりました

BL
ある日突然異世界に落ちてしまった高野暁斗が、その容姿と豪運(?)を活かして高級男娼として生きる毎日の記録です。 露骨な性描写ばかりなのでご注意ください。

触手生物に溺愛されていたら、氷の騎士様(天然)の心を掴んでしまいました?

雪 いつき
BL
 仕事帰りにマンホールに落ちた森川 碧葉(もりかわ あおば)は、気付けばヌメヌメの触手生物に宙吊りにされていた。 「ちょっとそこのお兄さん! 助けて!」  通りすがりの銀髪美青年に助けを求めたことから、回らなくてもいい運命の歯車が回り始めてしまう。  異世界からきた聖女……ではなく聖者として、神聖力を目覚めさせるためにドラゴン討伐へと向かうことに。王様は胡散臭い。討伐仲間の騎士様たちはいい奴。そして触手生物には、愛されすぎて喘がされる日々。  どうしてこんなに触手生物に愛されるのか。ピィピィ鳴いて懐く触手が、ちょっと可愛い……?  更には国家的に深刻な問題まで起こってしまって……。異世界に来たなら悠々自適に過ごしたかったのに!  異色の触手と氷の(天然)騎士様に溺愛されすぎる生活が、今、始まる――― ※昔書いていたものを加筆修正して、小説家になろうサイト様にも上げているお話です。

病み墜ちした騎士を救う方法

無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。 死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。 死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。 どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……? ※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です

異世界から戻ってきた俺の身体が可笑しい

海林檎
BL
異世界転生で何故か勇者でも剣士でもましてや賢者でもなく【鞘】と、言う職業につかされたんだが まぁ、色々と省略する。 察してくれた読者なら俺の職業の事は分かってくれるはずだ。 まぁ、そんなこんなで世界が平和になったから異世界から現代に戻ってきたはずなのにだ 俺の身体が変なままなのはどぼじで??

妖精です、囲われてます

うあゆ
BL
僕は妖精 森で気ままに暮らしていました。 ふと気づいたら人間に囲まれてました。 でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。 __________ 妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精 なんやかんやお互い幸せに暮らします。

処理中です...