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シンが魔王を討ち果たしたのは、あまりに唐突だった。
たとえこの世界に戸惑い、戦いを拒んでいたとしても――彼は一度決めたら、必ずやり遂げる。
その真っ直ぐさに、私は何度も驚かされてきた。
凱旋の報は瞬く間に広まり、王城は歓喜に包まれた。
玉座の間には群衆が集まり、王は満面の笑みで立ち上がる。
「勇者よ。褒美として、我が娘リシェルを伴侶に迎えよ」
王女はうつむき、長い睫毛を震わせていた。
その表情には恥じらいと、微かな期待が滲んでいた。
けれど、シンは一拍の迷いもなく言い切った。
「……要らない」
玉座の間にざわめきが走る。
ざわめきは瞬時に沈黙へと変わり、空気が凍りついた。
「褒美が欲しいなら――俺はイリアスを望む」
その名が響いた瞬間、全身の血が逆流するような感覚に襲われた。
「な、何を……!」
言葉を絞り出したが、私の声は民衆のざわめきにかき消された。
「勇者さまと神官長さま!」
「奇跡の伴侶だ!」
熱狂の声が波のように広がっていく。
私は人々の期待を浴びながら、震える指先を必死に組みしめた。
――どうして、ここまで……。
王女の顔を見た。大きな瞳に絶望の色が宿り、唇が噛みしめられている。
私は罪悪感に胸を締めつけられた。
だが、その横でシンは私を見ていた。
群衆の喧騒の中でも、彼の瞳だけはまっすぐに私を捕らえて離さない。
「……イリアス」
声に出さなくても、唇の動きだけでそう告げていた。
その黒い瞳は「世界よりも君」と語っていた。
恐ろしくて――けれど、眩しかった。
私はただうつむき、唇を噛みしめ続けるしかなかった。
たとえこの世界に戸惑い、戦いを拒んでいたとしても――彼は一度決めたら、必ずやり遂げる。
その真っ直ぐさに、私は何度も驚かされてきた。
凱旋の報は瞬く間に広まり、王城は歓喜に包まれた。
玉座の間には群衆が集まり、王は満面の笑みで立ち上がる。
「勇者よ。褒美として、我が娘リシェルを伴侶に迎えよ」
王女はうつむき、長い睫毛を震わせていた。
その表情には恥じらいと、微かな期待が滲んでいた。
けれど、シンは一拍の迷いもなく言い切った。
「……要らない」
玉座の間にざわめきが走る。
ざわめきは瞬時に沈黙へと変わり、空気が凍りついた。
「褒美が欲しいなら――俺はイリアスを望む」
その名が響いた瞬間、全身の血が逆流するような感覚に襲われた。
「な、何を……!」
言葉を絞り出したが、私の声は民衆のざわめきにかき消された。
「勇者さまと神官長さま!」
「奇跡の伴侶だ!」
熱狂の声が波のように広がっていく。
私は人々の期待を浴びながら、震える指先を必死に組みしめた。
――どうして、ここまで……。
王女の顔を見た。大きな瞳に絶望の色が宿り、唇が噛みしめられている。
私は罪悪感に胸を締めつけられた。
だが、その横でシンは私を見ていた。
群衆の喧騒の中でも、彼の瞳だけはまっすぐに私を捕らえて離さない。
「……イリアス」
声に出さなくても、唇の動きだけでそう告げていた。
その黒い瞳は「世界よりも君」と語っていた。
恐ろしくて――けれど、眩しかった。
私はただうつむき、唇を噛みしめ続けるしかなかった。
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