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第一章
1話
しおりを挟む「お前なんか産まなければよかった」
そんな罵声を浴びせられると共に、頬に激痛が走り、乾いた音が鳴り響いた。後ろからクスクスと笑う声が聞こえる。僕はなぜこんな場所で生きているのだろうと思いつつ、声の主の方を長い前髪の隙間からじっと見つめる。
「お前の存在は天王寺家の汚点だ。家に置いてやってるだけでも感謝しろ。」
「こんなに汚くて醜いアンタでも、彼の慈悲のおかげで今も生きていられるのよ。泣いて喜びなさい。」
実の両親からこのように暴言を吐かれるのも慣れてしまった。ここで下手に彼らを刺激したらまた面倒なことになりそうなので、僕は黙って頷いてみせる。
「ふん。分かればいいのよ。さっさと自分の部屋に戻って反省文を書きなさい。」
僕は母に言われた通りに、黙ってその場を立ち去ろうとした際に、弟が耳元で
「何でこうなったんだろうなぁ。クソ海翔。」
と笑いながら囁いた。なぜ僕にそんなことを聞くんだ。この状況になってしまったのは、全てお前のせいだろう。
僕は家族が嫌いだ。その中でも特に弟、もとい颯が1番嫌いだ。その原因は、僕らの幼少期にあった。
少し時を遡り、17年前。僕は子会社の社長である父親と、その妻の間に生まれた。
僕は彼らにとって初めての子供であったため、当時はとても可愛がられた。僕は物事を覚えるのが得意だったため、幼少期から家庭教師を付けてもらい、様々な勉強をさせてもらっていた。
沢山の本を読み、いろんな知識を蓄え、気がついたら周りからは神童と呼ばれるようになっていった。
みんなから褒められるのが嬉しくて僕はとても勉強を頑張ったが、それと同時に僕の常人離れした才能を恐れる人がちらほらと出てきた。
僕の両親も、その一部であった。
彼らは次第に僕のことを遠ざけるようになったが、僕は寂しい気持ちを我慢し、家にある書斎に入り浸る生活を送るようになっていった。
僕が5歳の誕生日を迎えた日、両親は第2子を出産した。その日、両親は久しぶりに僕に声を掛けてきたのだが、その内容は、
「お前に弟が出来たが、絶対に余計な事をするな。もし粗相をした場合、これからのお前への処遇を改めなければならない。」
といったものだ。まだ幼かった僕は、その言いつけを守れば、また両親は僕のことを愛してくれるのではないか、という生ぬるい考えを捨てきれずにいた。しかし、その考えは机上の空論でしか無かった。両親は僕のことなど気にも止めずに颯のことを可愛がり続けた。
また、颯は僕ほどではないが多少は頭が切れており、それに気付いた両親は、以前僕が習っていた家庭教師を彼に付けた。
颯は僕よりも物分かりが悪かったため、彼が何か間違える度に家庭教師は、
『海翔様はもっと優秀でした。颯様も彼の事をを見習うべきです。』
と言われることが多々あったらしく、颯は直接面識のない僕に対する怒りを徐々に募らせていった。
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