つっこめ! ルネサンス ~脳筋ばかりの騎士物語! 結婚するまで帰れません!?~

LED

文字の大きさ
25 / 197
第2章 悪徳の魔女アルシナと海魔オルク

11 ロジェロ、アンジェリカと契約する★

しおりを挟む
 アルシナの都の地下にある牢獄にて。
 ロジェロこと黒崎くろさき八式やしきの囚われている房の隣に、契丹カタイの美姫アンジェリカが放り込まれていた。
 彼女はボロボロの衣服と、ゴワゴワした申し訳程度の毛布を渡され、冷たい地肌の上でようやく目を覚ました。

(……何、ここ……?
 ああ、死にたいと願ったから。地獄にでも辿り着いたのかしら……?)

 アンジェリカは当初、サラセン騎士サクリパンと共に旅していたのだが。そこにフランク騎士リナルド(ブラダマンテの一番上の兄)が現れ……彼女を巡って争い始めた。
 その最中、謎の隠者がアンジェリカの苦難を救おうと甘言を囁き馬をあてがってくれたものの……その馬は彼女の言う事を聞かず、あらぬ方角に走り続け、やがて海に飛び出してしまった。
 気がつけば砂漠の孤島に一人取り残され、放浪の美姫は心の底から絶望した。

『ほんッッとにもうやだ、こんな生活……!
 何なの、このクソみたいな運命!? 私が何したってのよ!
 どーして次から次へと厄介事が私に襲ってくるのよ!?
 あーもー分かったわよ! 死ねばいいんでしょう、死ねば!
 海で溺れ死ねばいいの? 獣に食い殺されるの? もう何だっていいわ!
 死ねば楽になるもの! こんなロクでもない人生も終わってしまえば、きっと清々するでしょうよッ!』

 アンジェリカは半ば自暴自棄になって天に叫び続け、そのまま気を失った。
 そして例の隠者――海神プロテウスの神官に捕まり、アルシナの島に連れて来られてしまったのだ。

(……隣に誰かいるわね。囚人かしら?)

 目覚めた独房の中で状況がさっぱり把握できなかった美姫は、隣で寝ている男囚に向けて大声で呼びかけた。

「ちょっと! 起きてる? っていうか生きてる?
 生きてるなら返事しなさい!」
「…………ん…………?」

「何よ、生きてるんじゃない。
 悪いんだけどさ、私ここに来て間もないから、ここがどこかも分かんないのよ!
 説明しなさい。カタイの王女アンジェリカがそう命じているのよッ!」
「……うるせえ奴だなぁ」

 隣の男囚――ロジェロは素直に感想を述べた。
 ここに捕まるという事は、よっぽどの事をやらかして、手酷い扱いを受けた事は想像に難くない。
 だがその割には、声と元気だけは人一倍あるように感じたからだ。

「うるさいって何よ! 淑女レディに対する礼儀がなってないわよ?
 私のような美女に声をかけられたら、大抵の男は畏まってかしずくのにッ!」

 なおもギャーギャー喚き立てる自称淑女レディに、ロジェロ――黒崎はぼんやりと意識を取り戻した。
 アンジェリカ。「狂えるオルランド」の前日譚「恋するオルランド」から始まる一連の事件のきっかけを作った元凶の美女だ。最強の騎士オルランドが恋焦がれた挙句に狂ってしまい、長い事フランク王国側の戦力にならなかったのは彼女が原因である。

「オレは……ロジェロ。ムーア人(註:スペインのイスラム教徒)騎士だ。
 ここは悪徳の魔女アルシナの都の地下牢。何でもオレ達は、魔女の飼ってる海魔オルクっていう化け物の生贄にされるんだとよ」

「なん……ですってッ……あなたがロジェロ?
 嘘でしょう? なんであなたが捕まってるのよ!?」
「なんでって言われてもなぁ……」

 アンジェリカはひどく狼狽した様子で、ロジェロに食って掛かった。

「そ、そうだわ。指輪は? 私の持っていた金の指輪はどこ?
 あなたが持ってるんじゃあないの!?」
「持ってねえよ。それにオレ、今は囚人だぜ?
 仮に指輪を持っていたとしても、アルシナの奴に取り上げられちまってるだろ」

 ここまで答えて、ロジェロはふと会話の違和感に気づいた。

「ちょっと待て。アンタ……アンジェリカと言ったか?」
「え、ええ」

「おかしいな。オレとアンタは初対面だろう?
 何でオレの事を知ってるような口ぶりなんだ?
 それにオレが指輪を持っていて当然みたいな事言ってるけど、何でアンタがそれを知ってるんだよ?」

 黒崎はこの物語の原典を知っている。
 アンジェリカが海魔オルクの生贄にされそうになる所を、助けに来るロジェロ。
 ロジェロはその時、メリッサより託された魔法の指輪を所持しており、偶然にもアンジェリカの指に嵌めて返却する。
 アンジェリカはこれ幸いとばかりに、助けてくれたロジェロに礼も言わずに指輪の魔力を使い、姿を眩ます――という話の流れだ。

 つまり、「原典を知らなければ」……ロジェロが指輪を持っているなどと知る筈がない。
 ロジェロの指摘を受けて、アンジェリカは驚いた顔をした。

「……あなた、もしかして……この本に『入って来た』人なの?」
「おいおい、マジか。そんな話ができるって事は……まさかアンタも――」

 ロジェロが言いかけた所に、上の階から足音が聞こえてきた。
 途端に二人は空気を読んで押し黙り、何でもない素振りを装った。
 足音の主は先刻も見た、血色の悪い牢番の兵士だ。右手に鍵束を持っている。

「……何の用だ? オレを化け物に食わせるのか?」
「いいえ。助けに来ましたわ――ロジェロ様」

 兵士の声音は、聞き覚えのある清楚な女性のものだった。

「アンタ、もしかして……尼僧メリッサか?」
「はい。ブラダマンテと共に――貴方をお助けに参りました」

「司――いや、ブラダマンテもこっちに来てるのかよ!?」
「ええ。貴方を魔女からお救いするために」

 言ってメリッサは鍵を牢の扉に差し込み、ロジェロの戒めを解いた。

「後は奪われた武具や馬ですわね。それはブラダマンテがアルシナから聞き出し、こちらと合流する手筈ですので」
「待ってくれ、メリッサ。頼みがある。
 隣にいるアンジェリカも、一緒に助け出してやってくれないか?」

 ロジェロの提案に、メリッサは難色を示した。

「しかしロジェロ様、彼女は――アンジェリカは、魔女アルシナと同等かそれ以上に、男を手玉に取る悪女ですのよ?
 あなたが気の迷いを起こしてアンジェリカに迫り、それをブラダマンテに見られでもしたら……!」

 この世の終わりだと言わんばかりの様子で、青ざめた顔をするメリッサ。

「本人いる前で、すごく失礼な人ねあなたって!
 私は誘惑した覚えなんてないわ! 男どもが勝手に言い寄ってくるのよッ!」

 アンジェリカは心外だとばかりに抗議の声を上げた。

(ああ、この人そっちを心配してるのか。
 確かに原典だと、救出したアンジェリカにロマンスを期待してる描写あったっけなぁ)

 原典のロジェロはアンジェリカの裸体を見た瞬間、欲情していた。
 黒崎もアイと同い年の平凡で多感な男子高校生である。もし同じ場面に遭遇したとして、心動かされないという自信はない。
 だが幸いな事に、独房の隣では彼女の姿は直接は見えない。
 アンジェリカからはもっと詳しく情報を聞き出す必要がある。ロジェロは交渉を成立させるため、務めて冷静に振舞おうとして言った。

「心配しなくていい、メリッサ。
 アンジェリカ。ここから出られたとしても、オレたちに余計なちょっかいを出したりしないよな?」
「……ええ、それはもう……お約束します」

 ロジェロとアンジェリカの奇妙な信頼関係に、メリッサは訝しんだものの。
 彼の説得に押され、不承不承納得したようだった。

「メリッサ。アンジェリカは熟練した魔法使いでもある。
 彼女の助力があった方が、魔女アルシナに対抗しやすいんじゃないか?
 ひとつ訊くが――アンジェリカの魔法の指輪は、今はどこにある?」
「それは今、ブラダマンテが持っていますわ」

 アンジェリカに協力してもらう報酬として、牢からの脱出と、彼女の魔法の指輪を返却する契約を結んだ。
 こうしてロジェロ、メリッサ、アンジェリカの三人は奇妙な共闘関係となり――地上の都にいるブラダマンテと合流すべく動いたのだった。

━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━

《 登場人物紹介・その9 》

アンジェリカ

 契丹カタイの王女。魔術を操り、男を虜にする絶世の美姫。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】全60話 完結しました。読者の皆様ありがとうございます! 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

処理中です...