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第2章 悪徳の魔女アルシナと海魔オルク
14 アンジェリカ、また攫われる
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化けの皮を剥がされた悪徳の魔女アルシナ。
皺だらけの土気色の肌をした醜い老婆こそ、彼女の本来の姿であったが……彼女自身、老いさらばえた肉体を受け入れられず、すすり泣いていた。
「ああああ、醜い! 薄汚い! ひィィィ……!
よくも、よくも! 女騎士ブラダマンテめェェ……
よくもこのアルシナに、大恥をかかせてくれたわねェッ!」
悲嘆と嫌悪の感情は、いつしか憎悪と憤怒に塗りつぶされ――アルシナは立ち上がった。
逃走した先には彼女の化粧部屋があった。化粧台の棚を乱暴に開き、銀色の仮面を見つけ、素顔を隠す。
「雌蟷螂どもッ!」
悪徳の魔女の呼びかけに、即座に応じて姿を現す二匹の女吸血鬼。
彼女らは不機嫌な主の様子に怯えながら、上目遣いで跪いていた。
「ブラダマンテたちはどうなった?」
「は、はいアルシナ様……地下に捕えられていたロジェロやアンジェリカらと合流し、たった今この都を脱出した模様です」
「狩猟係が鷹をけしかけましたが……彼一人では多勢に無勢、あっさり返り討ちに遭いましたッ」
芳しくない報告を、恐る恐る行うエンプーサたち。
アルシナの表情は銀仮面に隠れて見えないが、全身をわなわなと震わせている事から、怒り心頭なのは疑いようがない。
「許せん……このまま逃げ帰れると思ったら大間違いよ……!
海魔オルクを放つよう、海神プロテウスの神官に命じなさい!
しくじったら、『今度は』首をちょん切ると伝えるのよッ!」
魔女の怒声に、女吸血鬼たちは弾かれるように動いて、その場を退出した。
アンジェリカの指輪で放散された魔力を再び集めるのに、もう少しだけかかる。魅了の呪縛が解かれた今……都に住んでいた大半の妖魔は統制を失い、逃げ出してしまっているだろう。
(構うものか……我が配下と我が魔力、持てる全てを使って追い詰めてやるッ!
妾に逆らった事、石ころに変わり朽ち果てるその時まで後悔させてやるわッ)
暗い妄執の炎を燃やし、アルシナはブラダマンテ達に報復すべく動き出した。
**********
天馬に乗った女騎士ブラダマンテ。
幻獣に乗った異教の騎士ロジェロ。
名馬に乗った美姫アンジェリカ。
目立つ事この上ないが、戦力的に見れば申し分ない布陣である。
廃墟と化した都を脱出する際、門衛として立ち塞がった鷹を連れた中年男がいたが……すかさずロジェロが円形楯の布の一部をめくり上げた。魔法の光がピンポイントで発動し、中年男の視界を奪った。
同時にけしかけられた鷹は、機動力を発揮する前にブラダマンテの持つ黄金の槍で撃墜する! 天馬の飛翔能力と、槍の絶対命中するチート能力を活かし、瞬く間に退けた。
「悪ィな! お前をマトモに相手するには時間が惜しい!」
ブラダマンテ達は、偽りの楽園から無事に逃げおおせた。
「これからどうするの?」ブラダマンテが尋ねる。
「イングランド王子、アストルフォの所へ行く!
銀梅花の木に変えられているから、それが目印だ!」
ロジェロは叫んだ。
「あんな奴でも、フランク王国にとっちゃ大事な騎士だからな。
助けない訳にはいかねえ」
「まあ、あの素敵なアストルフォ様もこの島に?
分かったわ、行きましょう!」
アンジェリカは嬉しそうに言った。
彼女は以前アストルフォを捕えた時、その美貌を気に入って手元に置き、厚遇していた事があった。
「アストルフォって……そんなに美男子なの?」
興味が湧いたのか、ブラダマンテも横から尋ねてくる。
「勿論よ! 顔だけじゃなくて鎧兜も派手な割にセンスがいいし!
さすがイングランドの王子って感じだったわ。お金持ちだしね!」
「へー、そうなんだ……ちょっとだけ楽しみ」
「ロクな奴じゃなかった気がするが……」
ロジェロは小声で呟いたが、盛り上がる二人に水を差すのは、僻んでいるような気がして口を挟めなかった。
**********
吊り橋を渡り、山岳の麓の道を抜ける。
襲ってくる敵の気配はなく、無人の荒野を行くが如し。
やがてブラダマンテ達は、最初にロジェロが降り立った銀梅花の木が生えた泉の近くにまで到着した。
「ホラ、あの自己主張の激しい派手な木がアストルフォだよ」
ロジェロが指さすと、アンジェリカは馬を降り――喜び勇んで木へ駆け寄った。
「アストルフォ様! お久しぶりです、アンジェリカです!
おいたわしや……でもご安心を。私の魔術で、すぐにでも元の姿に――」
『それ以上、近寄ってはダメだ! 罠だッ!』
銀梅花の木から、鋭いアストルフォの警告が響いた。
美姫はビクリとして立ち止まったが――次の瞬間、凄まじい地響きの音が周辺に轟く!
「なッ…………!?」
海岸線からにじり寄る、凄まじく巨大な影が見えた。
それは近づくにつれ不気味な姿が露になる。地上の生物のどれにも似ていない、奇怪な化け物。
巨大な影から突如、幾本もの触手が猛スピードで迫ってきた!
ブラダマンテとロジェロはそれぞれ空飛ぶ馬の力で空中に難を逃れたが、馬から降りていたアンジェリカはそうは行かなかった。
「ひえッ! なんかヌルヌルするゥゥ!?」
逃げ遅れたアンジェリカのくるぶしに絡みついたのは、巨大な蛸の足であった。
たちまち引っ張られ、巨大な怪物の方へと引き寄せられてしまう!
「なッ……アンジェリカ!?」
「ロジェロ? 一体何よアレ!?」
ロジェロは己の迂闊さを呪った。
アルシナが立ち直ったなら、すぐさま反撃に出るだろうと予測すべきであった。
自分たちがアストルフォ救出の為、銀梅花の木に向かうだろう事も読まれ、待ち伏せされてしまっていたのだ。
「まずいな……すっかり忘れてたが、海魔オルクだ!
魔女の飼ってる、処女を食うっていう化け物だよッ!」
「そう言えばいたわね、そんな奴……!」
ともあれ、このままではアンジェリカが危ない。
ロジェロはヒポグリフを駆って、海の向こうへ消えかけている海魔を追って飛び出した。
「メリッサ。わたし達も放ってはおけない……お願い、ロジェロを追って!」
『気は進みませんが……仕方ありませんわね』
ブラダマンテもまた、ペガサスに乗ってロジェロを援護すべく飛び立った。
皺だらけの土気色の肌をした醜い老婆こそ、彼女の本来の姿であったが……彼女自身、老いさらばえた肉体を受け入れられず、すすり泣いていた。
「ああああ、醜い! 薄汚い! ひィィィ……!
よくも、よくも! 女騎士ブラダマンテめェェ……
よくもこのアルシナに、大恥をかかせてくれたわねェッ!」
悲嘆と嫌悪の感情は、いつしか憎悪と憤怒に塗りつぶされ――アルシナは立ち上がった。
逃走した先には彼女の化粧部屋があった。化粧台の棚を乱暴に開き、銀色の仮面を見つけ、素顔を隠す。
「雌蟷螂どもッ!」
悪徳の魔女の呼びかけに、即座に応じて姿を現す二匹の女吸血鬼。
彼女らは不機嫌な主の様子に怯えながら、上目遣いで跪いていた。
「ブラダマンテたちはどうなった?」
「は、はいアルシナ様……地下に捕えられていたロジェロやアンジェリカらと合流し、たった今この都を脱出した模様です」
「狩猟係が鷹をけしかけましたが……彼一人では多勢に無勢、あっさり返り討ちに遭いましたッ」
芳しくない報告を、恐る恐る行うエンプーサたち。
アルシナの表情は銀仮面に隠れて見えないが、全身をわなわなと震わせている事から、怒り心頭なのは疑いようがない。
「許せん……このまま逃げ帰れると思ったら大間違いよ……!
海魔オルクを放つよう、海神プロテウスの神官に命じなさい!
しくじったら、『今度は』首をちょん切ると伝えるのよッ!」
魔女の怒声に、女吸血鬼たちは弾かれるように動いて、その場を退出した。
アンジェリカの指輪で放散された魔力を再び集めるのに、もう少しだけかかる。魅了の呪縛が解かれた今……都に住んでいた大半の妖魔は統制を失い、逃げ出してしまっているだろう。
(構うものか……我が配下と我が魔力、持てる全てを使って追い詰めてやるッ!
妾に逆らった事、石ころに変わり朽ち果てるその時まで後悔させてやるわッ)
暗い妄執の炎を燃やし、アルシナはブラダマンテ達に報復すべく動き出した。
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天馬に乗った女騎士ブラダマンテ。
幻獣に乗った異教の騎士ロジェロ。
名馬に乗った美姫アンジェリカ。
目立つ事この上ないが、戦力的に見れば申し分ない布陣である。
廃墟と化した都を脱出する際、門衛として立ち塞がった鷹を連れた中年男がいたが……すかさずロジェロが円形楯の布の一部をめくり上げた。魔法の光がピンポイントで発動し、中年男の視界を奪った。
同時にけしかけられた鷹は、機動力を発揮する前にブラダマンテの持つ黄金の槍で撃墜する! 天馬の飛翔能力と、槍の絶対命中するチート能力を活かし、瞬く間に退けた。
「悪ィな! お前をマトモに相手するには時間が惜しい!」
ブラダマンテ達は、偽りの楽園から無事に逃げおおせた。
「これからどうするの?」ブラダマンテが尋ねる。
「イングランド王子、アストルフォの所へ行く!
銀梅花の木に変えられているから、それが目印だ!」
ロジェロは叫んだ。
「あんな奴でも、フランク王国にとっちゃ大事な騎士だからな。
助けない訳にはいかねえ」
「まあ、あの素敵なアストルフォ様もこの島に?
分かったわ、行きましょう!」
アンジェリカは嬉しそうに言った。
彼女は以前アストルフォを捕えた時、その美貌を気に入って手元に置き、厚遇していた事があった。
「アストルフォって……そんなに美男子なの?」
興味が湧いたのか、ブラダマンテも横から尋ねてくる。
「勿論よ! 顔だけじゃなくて鎧兜も派手な割にセンスがいいし!
さすがイングランドの王子って感じだったわ。お金持ちだしね!」
「へー、そうなんだ……ちょっとだけ楽しみ」
「ロクな奴じゃなかった気がするが……」
ロジェロは小声で呟いたが、盛り上がる二人に水を差すのは、僻んでいるような気がして口を挟めなかった。
**********
吊り橋を渡り、山岳の麓の道を抜ける。
襲ってくる敵の気配はなく、無人の荒野を行くが如し。
やがてブラダマンテ達は、最初にロジェロが降り立った銀梅花の木が生えた泉の近くにまで到着した。
「ホラ、あの自己主張の激しい派手な木がアストルフォだよ」
ロジェロが指さすと、アンジェリカは馬を降り――喜び勇んで木へ駆け寄った。
「アストルフォ様! お久しぶりです、アンジェリカです!
おいたわしや……でもご安心を。私の魔術で、すぐにでも元の姿に――」
『それ以上、近寄ってはダメだ! 罠だッ!』
銀梅花の木から、鋭いアストルフォの警告が響いた。
美姫はビクリとして立ち止まったが――次の瞬間、凄まじい地響きの音が周辺に轟く!
「なッ…………!?」
海岸線からにじり寄る、凄まじく巨大な影が見えた。
それは近づくにつれ不気味な姿が露になる。地上の生物のどれにも似ていない、奇怪な化け物。
巨大な影から突如、幾本もの触手が猛スピードで迫ってきた!
ブラダマンテとロジェロはそれぞれ空飛ぶ馬の力で空中に難を逃れたが、馬から降りていたアンジェリカはそうは行かなかった。
「ひえッ! なんかヌルヌルするゥゥ!?」
逃げ遅れたアンジェリカのくるぶしに絡みついたのは、巨大な蛸の足であった。
たちまち引っ張られ、巨大な怪物の方へと引き寄せられてしまう!
「なッ……アンジェリカ!?」
「ロジェロ? 一体何よアレ!?」
ロジェロは己の迂闊さを呪った。
アルシナが立ち直ったなら、すぐさま反撃に出るだろうと予測すべきであった。
自分たちがアストルフォ救出の為、銀梅花の木に向かうだろう事も読まれ、待ち伏せされてしまっていたのだ。
「まずいな……すっかり忘れてたが、海魔オルクだ!
魔女の飼ってる、処女を食うっていう化け物だよッ!」
「そう言えばいたわね、そんな奴……!」
ともあれ、このままではアンジェリカが危ない。
ロジェロはヒポグリフを駆って、海の向こうへ消えかけている海魔を追って飛び出した。
「メリッサ。わたし達も放ってはおけない……お願い、ロジェロを追って!」
『気は進みませんが……仕方ありませんわね』
ブラダマンテもまた、ペガサスに乗ってロジェロを援護すべく飛び立った。
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