つっこめ! ルネサンス ~脳筋ばかりの騎士物語! 結婚するまで帰れません!?~

LED

文字の大きさ
125 / 197
第7章 オルランド討伐作戦

15 アストルフォ、グラダッソと相対する★

しおりを挟む
 南フランス、マルセイユにほど近い海岸線。
 一艘のガレー船が近づいてきている。旗印は双頭の鷲。東ローマ帝国の紋章だ。
 もっとも、船自体が東ローマ所属というだけであり、乗組員はまるで異なる。
 イングランド王子アストルフォ他、フランク騎士が多数乗船していた。

「船着き場が見えてきたな! 皆準備はいいかァ!」
「何でお前が仕切ってんだよピナベルこら」

 偉そうに大声を上げるマイエンス家のピナベルに対し、デンマーク騎士ドゥドンは不平を訴えたが。

「この船は、ボクがレオ皇太子に多額のレンタル料を支払って貸与されたモノ!
 言わば契約期間中はボクが船のオーナー! 船長! いっちゃんエライ!
 君らだって知ってるだろ? 船上にいる時の船長の権限の強さを! ンン?」

 ピナベルは鼻息荒く言ってのける。完全に調子に乗っている。
 確かに船長には船の上で、乗組員を自由に裁いたり、追い出す権利などがあったりするのであるが……

「よし分かった船長殿! ベストの場所に船の停泊を指示してくれ!」
「わっはっは。アストルフォ殿はちゃんと分かっていらっしゃる!
 キミたちも見習って! 荷物の準備とかキリキリ働く! 分かったね!」

 アストルフォがこっそり、ドゥドンら騎士たちにウィンクを送ると、彼らは不承不承ピナベルに従った。
 船から降りた途端、増長したピナベルが弱小モブ騎士連合の皆さんに袋叩きに遭ったのは言うまでもない。

**********

「それはそうと……何じゃあこりゃあ!?」

 アストルフォらが陸地で見たものは、奇怪極まる黒い空間であった。
 真昼にも関わらず、その一角だけ夜の闇が凝縮されたような、異様な光景。

「何か……コワイな。迂闊に手を出すべきではないかもしれん」
「コレが何なのか知らんのか? グィードよ」
「俺にだって……分からない事ぐらい……ある……」
「拙者、気になります!」

 モブ騎士四人組も口々に好き勝手な事を言い始めたが。
 アストルフォは慌てず騒がず、背負い袋から一冊の書物を取り出して、ページをめくった。
 善徳の魔女ロジェスティラより授かった、あらゆる術の解除方法が記されているチートな呪文書だ。

「……これは魔術師マラジジ殿が仕掛けた術のようだ。
 この世ならざる異空間に繋がっているが、外からは誰も入る事はできない」
「アストルフォ殿。それが噂の呪文書か?
 確か術の解除方法もバッチリ載っていると聞いたが……」

 ドゥドンの言葉に、アストルフォは解除方法の項目を読み上げようとした。
 ところがそこに――周辺の漁民に聞き込みをしていたピナベルが、血相を変えて戻って来た。

「マ、マズイぞアストルフォ殿! ボクたちの上陸が敵にもうバレてやがる!
 漁民の話では、黒馬の騎兵百騎がこっちに向かって爆走してるってよ!?」
「何をそんなに慌ててんだよピナベル。敵かどうかも分からんし……もし敵だったとしても、迎え撃てばいいだけだろう?」
「こっれっだっかっらッ! 脳筋モブ騎士どもはッ!
 もし奴らが敵だったら、陸に上がったばかりのボクたちじゃ相手にならん!
 あっという間に踏み潰されて試合終了じゃボケェ!?」

 緊張感のないモブ騎士たちの返答に、ピナベルは頭を掻きむしって叫んだ。
 数に劣る上に、上陸したばかりのアストルフォ達は馬の数も不十分だ。彼の言う通り、現状で衝突すれば全滅の危険すらあるだろう。
 黒い空間の正体は気になるが……残念ながらゆっくり関わっている時間も余裕もなさそうであった。

「ここで遭遇するのは確かにマズそうだな、ピナベル。
 何か対抗する策はあるのかい?」

 アストルフォの言葉に、ピナベルは毒づきつつも答えた。

「相手が騎兵だけなら、北上したほうがいい。森の中に入りさえすれば、馬の優位は消える」
「分かった。皆の準備が整い次第、キミの方針を受け入れるとしよう」

 アストルフォはピナベルの隣に立ち、騎兵がやってくるであろう西の方角を睨み据えた。微かに砂塵が見える。

「アンタは準備しないのか? アストルフォ殿」
「ボクは最後でいいさ。船から降りたばかりで、船酔いから立ち直ってない仲間も大勢いる。最悪の場合、彼らを守る人間が必要だろう?」

「確かにそうだが……」
「かくいうボクも気持ち悪くなって、さっきちょっと吐いてきたしね」
「アンタも船酔いしてたんかい! 今ちょっと『カッコイイかも』って、感動して損したわッ!」

 ピナベルは呆れてツッコミを入れた。

「……アンタに一番死なれちゃ困るんだよ。そもそもこの面子の中じゃ、アンタが一番の金持ちで、重要な金ヅルなんだぜ!
 つーか金持ちらしくないな! 自分の身の安全を最優先すべきだろう?」

 アストルフォはその問いに答えない。曖昧に微笑むのみだった。
 ピナベルは大きく嘆息し――気を取り直したのか、改まって口を開いた。

「ならよォ、アストルフォ殿。アンタの『財産』、ちょいと借りてもいいか?」
「……構わないが、何に使うんだ?」
「『仕込み』に使う。人間って奴はなァ、大半の連中がアンタと違って無料タダじゃあ梃子てこでも動かねェ。常識だろ!」

 ピナベルの提案を受け入れ、アストルフォは金貨の詰まった袋などを渡した。
 すると彼は一足先に馬を駆って、北の森目指して走っていった。

**********

 アストルフォ一行の約半数が、北上しはじめた頃――敵はやってきた。
 荒ぶるセリカンの王グラダッソ率いる、百の騎兵部隊である。

「おォ、これはこれは! イングランド王子アストルフォ殿! パリでの一騎打ち以来だな!」
 グラダッソはアストルフォの姿を認めると、心底嬉しそうに声を張り上げた。

「そういうキミは――グラダッソ殿か。久しぶりだね。元気そうで何よりだよ」

「貴殿に敗北した事は苦い思い出であったが、まあそれは水に流そう。
 今の儂はオルランド討伐の為の部隊を率いておってなァ。フランク王国とは協力体制を築き上げておるのだ!
 故にアストルフォ殿。貴殿にも我が隊の一翼となり、狂った騎士を討ち取る事に手を貸していただきたい!」

「――ありがたい申し出だが、お断りするよ。
 何故ならボクはオルランドを殺す事なく、正気に戻す方法を知っているからだ!
 オルランドの狼藉騒動はそれで収まる。ここはボクに任せてくれないか」

 アストルフォは堂々と言い放ったが――グラダッソは面白くもなさそうに、フンと鼻を鳴らした。

「……知っておるよ。貴殿が『オルランドの心』を持っておる事くらい」
「!?」

「何故、と聞きたいやもしれぬが、儂に答える義理はない。
 残念だがアストルフォ殿。オルランドが正気に戻る事なく、ここで死んでくれた方が儂にとっては都合が良いのだ。
 一応聞いておこう。『オルランドの心』をこちらに渡せ。そして彼に正気を取り戻させる事を諦めてくれ。
 さすればこの場は見逃してやろう。貴殿とは長い付き合いだ――出来れば、殺したくはない」

 露骨な脅迫であった。名馬バヤールに乗る巨漢の王の全身から、刺すような鋭い殺気が伝わってくる。
 グラダッソは本気だ。要求を拒否すれば、即座に騎兵を動かしアストルフォらを蹂躙する気だろう。

 しかし――アストルフォの答えは決まっていた。

「その要求には応じられない! 我が友を救える機を、みすみすフイにする訳にはいかないのでね」

「貴殿ならそう言うと思っていた――が、愚かな事だ。実に悲しい」
 言葉とは裏腹に、グラダッソの顔には嗜虐の笑みが浮かんでいた。
「殺れ、お前たち! 我らの討伐作戦を邪魔立てする裏切り者のフランク騎士どもを、一人残らず肉塊へ変えよッ!」

━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━・━

《 登場人物紹介・その20 》

グラダッソ
 中国セリカン王。聖剣デュランダルと名馬バヤールを欲する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

追放されたS級清掃員、配信切り忘れで伝説になる「ただのゴミ掃除」と言って神話級ドラゴンを消し飛ばしていたら世界中がパニックになってますが?

あとりえむ
ファンタジー
【5話ごとのサクッと読める構成です!】全60話 完結しました。読者の皆様ありがとうございます! 世界を救ったのは、聖剣ではなく「洗剤」でした。 「君のやり方は古いんだよ」 不当な理由でS級クランを追放された、ベテラン清掃員・灰坂ソウジ(38歳)。 職を失った彼だったが、実は彼にはとんでもない秘密があった。 呪いのゴーグルのせいで、あらゆる怪物が「汚れ」にしか見えないのだ。 ・神話級ドラゴン  ⇒ 換気扇の頑固な油汚れ(洗剤で瞬殺) ・深淵の邪神  ⇒ トイレの配管詰まり(スッポンで解決) ・次元の裂け目  ⇒ 天井の雨漏りシミ(洗濯機で丸洗い) 「あー、ここ汚れてるな。チャチャッと落としておくか」 本人はただ業務として掃除をしているだけなのに、その姿は世界中で配信され、人類最強の英雄として崇められていく! 可愛い元ダンジョン・コアや、潔癖症の聖女も入社し、会社は今日も大忙し。 一方、彼を追放した元クランは、汚れ(モンスター)に埋もれて破滅寸前で……? 「地球が汚れてる? じゃあ、一回丸洗いしますか」 最強の清掃員が、モップ片手に世界をピカピカにする、痛快・勘違い無双ファンタジー! 【免責事項】 この物語はフィクションです。実在の人物・団体とは関係ありません。

処理中です...