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1.グレイス・ティアーラ
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「見て! グレイス様よ!」
「今日も凛々しくて素敵だわ!」
黄色い声援を背中に受けながら、グレイス・ティアーラは生徒会室へと向かっていた。
僕はそんな彼女の後ろを歩きながら、キラキラと揺れる黄金の長髪を眺める。
「相変わらず会長の人気は凄まじいですね」
「ありがたいことではあるが、いささか過剰な気もするな。実際の私はそれほどたいした人間ではないというのに」
「そんなことないですよ。王立騎士学園創設以来最強の騎士。それが会長なんですから」
入学以来教師を含め模擬戦では負けなし。
座学においても常に学年トップ。
噂では現役騎士にも勝ったことがあるらしい。
卒業後は王家直属の近衛騎士への内定が決まっているという、非の打ち所のない才女。
それがグレイス・ティアーラである。
生徒会室に入るとグレイスが振り返った。
やや吊目がちのエメラルドの瞳。
筋の通った鼻に、瑞々しい唇。
いつ見てもグレイスは美しい。
「どうしたんですか、会長」
「意地悪するな、アルバ。それに二人だけのときは名前で呼べと言ってるだろう」
「……まったく、グレイスは甘えん坊なんだから」
苦笑しながら頭を撫でてあげると、グレイスは気持ち良さそうに目を細めた。
「あの凛々しい生徒会長のこんな姿、みんなが見たらどう思うんだろうね」
「そんなこと知るか。別に私は好きで生徒会長になったわけじゃない」
「それはそうだけど、代々生徒会長になるのは学園最強の学生と決まってるんだから」
「ならアルバが生徒会長になればいいだろう」
「無茶言わないでよ。僕じゃ逆立ちしてもグレイスに勝てないよ」
僕だって騎士学園の生徒として研鑽を惜しんだことはない。
実際、この副会長の地位を勝ち取ったのだから、実力はこの学園で二番目である。
しかし、それだけだ。
僕とグレイスの間には越えることのできない壁がある。
仮にも副会長である僕が本気のグレイスと模擬戦を行えば、五秒と持たずに膝をつくことになるだろう。
一合い受けることができれば上出来だ。
それほどの差が僕たちの間にはあった。
「勝てないじゃない、勝て。勝てるように努力しろ」
「まったく厳しいな、僕の彼女は」
頭を撫でていた手を頬へと添えると、僕はそっと唇を落とした。
「っ!」
一瞬目を丸くしたグレイスだったが拒むことはなく、そのまま目を閉じると二度、三度と唇を合わせる。
触れあうだけのキス。
それでも身体のうちを温かなものが満たしていく。
顔を離すと、グレイスの整った顔には赤色が差していた。
「……キスさえしておけば誤魔化せる女だと思ってないか?」
「でも好きでしょ?」
「……意地悪する奴は嫌いだ」
「じゃあもうキスしないよ?」
「このっ……!!」
怒ったような顔をしたグレイスは僕の顔をつかむと、そのまま唇へと吸い付いてくる。
先程までの触れるだけのキスとは違う。
舌が絡み合い、互いの唾液が混ざり合う。
「んっ……、んふっ……」
そっと背中へと手を回すと、グレイスも優しく抱き返してくる。
この細い身体のどこにあれほどの力を隠しているのだろう。
確かに騎士として相応の筋肉はある。
だが男とは違う、女の柔らかさを腕のなかに感じる。
「……っぱぁ、はぁ……、はぁ……」
窒息するかと思うほど貪り合ったあと、ようやく唇が離れる。
ツーッとかかった銀色の橋が切れた。
「次にキスしないなんて言ったら、こんなものじゃ済まさないからな」
「あはは……」
こんなものじゃないキスに興味はあったが、ここでまたからかい始めたらきりがないので自重する。
「そういえば、明日は魔術学園との交流戦の日だね」
この世界には魔術というものが存在する。
魔力という体内エネルギーを使用し、奇跡を起こす術。
それが魔術だ。
魔術は誰でも使えるわけではない。
魔力を有する一部の才ある人間だけが行使することができる。
その力は絶大であり、魔術的防御のない都市であれば、魔術師一人で落とすことができるといわれている。
そんな人間兵器とでもいうべき魔術師を育成しているのが魔術学園だ。
「……面倒だ。今まで交流戦なんてやったことなかったのにどうして今年に限って」
「今年の魔術学園の生徒会長が発起人みたいだね。戦場で共に戦う味方の実力を学生のうちに把握しておこうって目的らしいけど」
「味方の実力って……、あっちは騎士のことなんて戦力として見てないでだろう」
「それはそうかもしれないけど……」
いくら強い騎士だろうと、所詮は人間の範疇を出ることはない。
奇跡を操る魔術師からすれば、戦力とも呼べない存在だろう。
「でも今まで騎士を下に見ていた魔術学園が歩み寄ってきてくれたんだ。今の魔術学園の生徒会長は騎士を蔑ろにするような人じゃないんだよ。きっと有意義な交流戦になるはずだから」
「だといいんだが……」
どうにも乗り気じゃないグレイスを抱き締めつつ、僕は思う。
常識で考えれば騎士と魔術師の交流戦などやる前から勝敗が見えている。
しかし、グレイスなら。
無敗の騎士であるグレイスなら魔術師相手でも勝てるかもしれない。
そんな期待を抱いていた。
そんなことあるはずがないというのに――。
「今日も凛々しくて素敵だわ!」
黄色い声援を背中に受けながら、グレイス・ティアーラは生徒会室へと向かっていた。
僕はそんな彼女の後ろを歩きながら、キラキラと揺れる黄金の長髪を眺める。
「相変わらず会長の人気は凄まじいですね」
「ありがたいことではあるが、いささか過剰な気もするな。実際の私はそれほどたいした人間ではないというのに」
「そんなことないですよ。王立騎士学園創設以来最強の騎士。それが会長なんですから」
入学以来教師を含め模擬戦では負けなし。
座学においても常に学年トップ。
噂では現役騎士にも勝ったことがあるらしい。
卒業後は王家直属の近衛騎士への内定が決まっているという、非の打ち所のない才女。
それがグレイス・ティアーラである。
生徒会室に入るとグレイスが振り返った。
やや吊目がちのエメラルドの瞳。
筋の通った鼻に、瑞々しい唇。
いつ見てもグレイスは美しい。
「どうしたんですか、会長」
「意地悪するな、アルバ。それに二人だけのときは名前で呼べと言ってるだろう」
「……まったく、グレイスは甘えん坊なんだから」
苦笑しながら頭を撫でてあげると、グレイスは気持ち良さそうに目を細めた。
「あの凛々しい生徒会長のこんな姿、みんなが見たらどう思うんだろうね」
「そんなこと知るか。別に私は好きで生徒会長になったわけじゃない」
「それはそうだけど、代々生徒会長になるのは学園最強の学生と決まってるんだから」
「ならアルバが生徒会長になればいいだろう」
「無茶言わないでよ。僕じゃ逆立ちしてもグレイスに勝てないよ」
僕だって騎士学園の生徒として研鑽を惜しんだことはない。
実際、この副会長の地位を勝ち取ったのだから、実力はこの学園で二番目である。
しかし、それだけだ。
僕とグレイスの間には越えることのできない壁がある。
仮にも副会長である僕が本気のグレイスと模擬戦を行えば、五秒と持たずに膝をつくことになるだろう。
一合い受けることができれば上出来だ。
それほどの差が僕たちの間にはあった。
「勝てないじゃない、勝て。勝てるように努力しろ」
「まったく厳しいな、僕の彼女は」
頭を撫でていた手を頬へと添えると、僕はそっと唇を落とした。
「っ!」
一瞬目を丸くしたグレイスだったが拒むことはなく、そのまま目を閉じると二度、三度と唇を合わせる。
触れあうだけのキス。
それでも身体のうちを温かなものが満たしていく。
顔を離すと、グレイスの整った顔には赤色が差していた。
「……キスさえしておけば誤魔化せる女だと思ってないか?」
「でも好きでしょ?」
「……意地悪する奴は嫌いだ」
「じゃあもうキスしないよ?」
「このっ……!!」
怒ったような顔をしたグレイスは僕の顔をつかむと、そのまま唇へと吸い付いてくる。
先程までの触れるだけのキスとは違う。
舌が絡み合い、互いの唾液が混ざり合う。
「んっ……、んふっ……」
そっと背中へと手を回すと、グレイスも優しく抱き返してくる。
この細い身体のどこにあれほどの力を隠しているのだろう。
確かに騎士として相応の筋肉はある。
だが男とは違う、女の柔らかさを腕のなかに感じる。
「……っぱぁ、はぁ……、はぁ……」
窒息するかと思うほど貪り合ったあと、ようやく唇が離れる。
ツーッとかかった銀色の橋が切れた。
「次にキスしないなんて言ったら、こんなものじゃ済まさないからな」
「あはは……」
こんなものじゃないキスに興味はあったが、ここでまたからかい始めたらきりがないので自重する。
「そういえば、明日は魔術学園との交流戦の日だね」
この世界には魔術というものが存在する。
魔力という体内エネルギーを使用し、奇跡を起こす術。
それが魔術だ。
魔術は誰でも使えるわけではない。
魔力を有する一部の才ある人間だけが行使することができる。
その力は絶大であり、魔術的防御のない都市であれば、魔術師一人で落とすことができるといわれている。
そんな人間兵器とでもいうべき魔術師を育成しているのが魔術学園だ。
「……面倒だ。今まで交流戦なんてやったことなかったのにどうして今年に限って」
「今年の魔術学園の生徒会長が発起人みたいだね。戦場で共に戦う味方の実力を学生のうちに把握しておこうって目的らしいけど」
「味方の実力って……、あっちは騎士のことなんて戦力として見てないでだろう」
「それはそうかもしれないけど……」
いくら強い騎士だろうと、所詮は人間の範疇を出ることはない。
奇跡を操る魔術師からすれば、戦力とも呼べない存在だろう。
「でも今まで騎士を下に見ていた魔術学園が歩み寄ってきてくれたんだ。今の魔術学園の生徒会長は騎士を蔑ろにするような人じゃないんだよ。きっと有意義な交流戦になるはずだから」
「だといいんだが……」
どうにも乗り気じゃないグレイスを抱き締めつつ、僕は思う。
常識で考えれば騎士と魔術師の交流戦などやる前から勝敗が見えている。
しかし、グレイスなら。
無敗の騎士であるグレイスなら魔術師相手でも勝てるかもしれない。
そんな期待を抱いていた。
そんなことあるはずがないというのに――。
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