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半分ロボット
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会社の飲み会。
うちの場合、参加は強制ではないが、同僚間の仲が良いこともあり、出席率はいつも高かった。
俺自身、酒はあまり飲まないし騒ぐ方でもないが、仕事の後のみんながワイワイ語り合う姿をみるのは好きだった。
両親や家族のいなかった俺にとって、こうしてみんなといる時間は、足りなかったものを埋めているようで心地がよかったのだ。
ただ、いくら人間関係が良好な職場といっても苦手な奴はいるわけで。
「おう、鈴木。
なんだ、今日も全然飲んでないじゃないか!」
「あはは……。
俺、あまり酒が好きじゃなくて」
顔を赤くし、上機嫌で絡んでくるこの男は郷田。
俺の先輩である。
郷田は悪い人間というわけではない。
ただ、声が大きく、酒の席なんかだとやけに絡んでくるのだ。
大人しい性格の俺が気になるのか、やれ酒を飲め、やれもっと楽しそうにしろと、とにかくうるさい。
俺は郷田のそんなところがどうにも好きになれなかった。
「ほれ、俺が注いでやるからどんどん飲め!」
「それじゃあ、少しだけ」
そういって俺はなみなみとビールが注がれたグラスを傾けた。
俺は酒に弱いわけではない。
むしろ強い方だ。
どれだけ飲んでも酔うことがない。
そういう体質なのだ。
この酔えない体質というのは、こういう場面では迷惑極まりない。
いっそのこと酔うことができたのなら、郷田のことも気にならなくなるだろうに。
「そんな辛気臭い顔で飲むんじゃねぇよ!
酒が不味くなるだろうが」
「すみません」
酔っぱらい相手になにをいっても仕方ない。
いつものように郷田が飽きて離れていってくれるのを大人しく待つ。
「そんなだからお前はモテないんだよ。
どうせ女と付き合ったこともないんだろう?」
(お前だってモテないくせに……)
そう思っても言葉には出さない。
愛想笑いを浮かべながら受け流す。
「このままお前は結婚もできずに、寂しい生活を送ることになるんだろうな。
わはははっ!」
なにが可笑しいのだろうか。
基本的に穏やかな俺だが、馬鹿にされればストレスも溜まる。
だからだろう、ついこんなことをいってしまったのは。
「俺、来月結婚しますよ」
その言葉を聞いた瞬間、アホ面を晒していた郷田が固まった。
「結婚だと!?
お前が?
冗談にもほどがあるだろう。
お前みたいな奴が結婚できるなら、俺は今頃王奥を築いてるぜ」
「冗談じゃないですって」
「ふん、どうせ不細工な奴なんだろ」
カチンときた。
俺はともかくさすがにあいつのことを悪くいわれるのは我慢ならない。
「そんなことないですよ。
ほらみてください」
そういって俺は彼女の写真をスマホで見せつけた。
「……ぬっ。
どうせネットで拾った画像だろ。
お前の彼女がこんなに美人な訳がない」
往生際の悪い男だ。
それならこれでどうだ。
「こっちはツーショットです」
仲良く俺達が体を寄せあっている写真だ。
他人に見せるのは少し恥ずかしいが、ここまで来て引き下がるわけにもいかない。
「……ホントなのか」
ようやく現実を受け入れたようだ。
下らないことではあるが、郷田に一泡ふかせたと思うと気分がよかった。
そこで止めておけばよかったのだろう。
だが、浮かれていた俺はつい余計なことを口走ってしまった。
「先輩だって、そのうち結婚できますよ」
「なんだと!
お前、俺を馬鹿にしているのか!!」
「いえ、そんなつもりじゃ……」
「あまり調子に乗るなよ!
半分ロボットの半端者の分際で!!」
郷田の怒鳴り声を聞いた瞬間、あんなに盛り上がっていた室内が静まり返った。
無理もない。
なにせこの会社でその事に触れるのはタブーなのだから。
◇
郷田のいったことは正しい。
文字通り、俺の体の半分は金属部品なんかを組み合わせてできている。
その事を隠しているわけではない。
ただ、どうしても奇異の目に晒されることは多かった。
会社でも、誰も話題にこそあげないが、時折みんなの視線が俺の人間ではない部分をみていることには気がついていた。
誰だって珍しいものは気になってしまうのだ。
それは仕方のないことだと理解しているので、やめて欲しいとは思わなかった。
ただ、少し寂しいだけで。
郷田の発言に対してみんなは今なにを考えているのだろうか。
郷田を非難しているだろうか。
それとも俺を憐れんでいるのだろうか。
もしかしたら俺が怒り出さないか心配しているのかもしれない。
もしそうだとしたら、それは見当違いというものだろう。
そうだろう?
だって俺の心はこんなにも温かなもので満たされているのだから。
◇
俺は人造人間としてこの世に誕生した。
金属の骨格に培養した臓器を埋め込んだ、人工物だ。
人工物とはいえ人のように思考することだってできるし、飲食はもちろん、なんなら生殖行為だって可能だ。
スペックだけみればなんら人とかわりない。
ただ、人間は異物に敏感だ。
みんなが俺をみる視線の中にはロボットとしての俺しか映っていなかった。
実際人の手によって造られたわけだから、仕方ないことだと諦めていた。
だがどうやら俺の認識は間違っていたらしい。
今目の前にいる郷田という男は俺のことを「半分ロボットの半端者」だといった。
つまりそれは俺のことを人間主体でみていてくれたということだ。
その事に気がついた途端、まるで人工物であるこの体にオイルが差されたかのように、錆び付いていた心の歯車が動き出すのを感じた。
郷田のことが苦手だということにかわりはない。
でも、飲み会の席で絡まれるくらいならいいかなと思えた。
うちの場合、参加は強制ではないが、同僚間の仲が良いこともあり、出席率はいつも高かった。
俺自身、酒はあまり飲まないし騒ぐ方でもないが、仕事の後のみんながワイワイ語り合う姿をみるのは好きだった。
両親や家族のいなかった俺にとって、こうしてみんなといる時間は、足りなかったものを埋めているようで心地がよかったのだ。
ただ、いくら人間関係が良好な職場といっても苦手な奴はいるわけで。
「おう、鈴木。
なんだ、今日も全然飲んでないじゃないか!」
「あはは……。
俺、あまり酒が好きじゃなくて」
顔を赤くし、上機嫌で絡んでくるこの男は郷田。
俺の先輩である。
郷田は悪い人間というわけではない。
ただ、声が大きく、酒の席なんかだとやけに絡んでくるのだ。
大人しい性格の俺が気になるのか、やれ酒を飲め、やれもっと楽しそうにしろと、とにかくうるさい。
俺は郷田のそんなところがどうにも好きになれなかった。
「ほれ、俺が注いでやるからどんどん飲め!」
「それじゃあ、少しだけ」
そういって俺はなみなみとビールが注がれたグラスを傾けた。
俺は酒に弱いわけではない。
むしろ強い方だ。
どれだけ飲んでも酔うことがない。
そういう体質なのだ。
この酔えない体質というのは、こういう場面では迷惑極まりない。
いっそのこと酔うことができたのなら、郷田のことも気にならなくなるだろうに。
「そんな辛気臭い顔で飲むんじゃねぇよ!
酒が不味くなるだろうが」
「すみません」
酔っぱらい相手になにをいっても仕方ない。
いつものように郷田が飽きて離れていってくれるのを大人しく待つ。
「そんなだからお前はモテないんだよ。
どうせ女と付き合ったこともないんだろう?」
(お前だってモテないくせに……)
そう思っても言葉には出さない。
愛想笑いを浮かべながら受け流す。
「このままお前は結婚もできずに、寂しい生活を送ることになるんだろうな。
わはははっ!」
なにが可笑しいのだろうか。
基本的に穏やかな俺だが、馬鹿にされればストレスも溜まる。
だからだろう、ついこんなことをいってしまったのは。
「俺、来月結婚しますよ」
その言葉を聞いた瞬間、アホ面を晒していた郷田が固まった。
「結婚だと!?
お前が?
冗談にもほどがあるだろう。
お前みたいな奴が結婚できるなら、俺は今頃王奥を築いてるぜ」
「冗談じゃないですって」
「ふん、どうせ不細工な奴なんだろ」
カチンときた。
俺はともかくさすがにあいつのことを悪くいわれるのは我慢ならない。
「そんなことないですよ。
ほらみてください」
そういって俺は彼女の写真をスマホで見せつけた。
「……ぬっ。
どうせネットで拾った画像だろ。
お前の彼女がこんなに美人な訳がない」
往生際の悪い男だ。
それならこれでどうだ。
「こっちはツーショットです」
仲良く俺達が体を寄せあっている写真だ。
他人に見せるのは少し恥ずかしいが、ここまで来て引き下がるわけにもいかない。
「……ホントなのか」
ようやく現実を受け入れたようだ。
下らないことではあるが、郷田に一泡ふかせたと思うと気分がよかった。
そこで止めておけばよかったのだろう。
だが、浮かれていた俺はつい余計なことを口走ってしまった。
「先輩だって、そのうち結婚できますよ」
「なんだと!
お前、俺を馬鹿にしているのか!!」
「いえ、そんなつもりじゃ……」
「あまり調子に乗るなよ!
半分ロボットの半端者の分際で!!」
郷田の怒鳴り声を聞いた瞬間、あんなに盛り上がっていた室内が静まり返った。
無理もない。
なにせこの会社でその事に触れるのはタブーなのだから。
◇
郷田のいったことは正しい。
文字通り、俺の体の半分は金属部品なんかを組み合わせてできている。
その事を隠しているわけではない。
ただ、どうしても奇異の目に晒されることは多かった。
会社でも、誰も話題にこそあげないが、時折みんなの視線が俺の人間ではない部分をみていることには気がついていた。
誰だって珍しいものは気になってしまうのだ。
それは仕方のないことだと理解しているので、やめて欲しいとは思わなかった。
ただ、少し寂しいだけで。
郷田の発言に対してみんなは今なにを考えているのだろうか。
郷田を非難しているだろうか。
それとも俺を憐れんでいるのだろうか。
もしかしたら俺が怒り出さないか心配しているのかもしれない。
もしそうだとしたら、それは見当違いというものだろう。
そうだろう?
だって俺の心はこんなにも温かなもので満たされているのだから。
◇
俺は人造人間としてこの世に誕生した。
金属の骨格に培養した臓器を埋め込んだ、人工物だ。
人工物とはいえ人のように思考することだってできるし、飲食はもちろん、なんなら生殖行為だって可能だ。
スペックだけみればなんら人とかわりない。
ただ、人間は異物に敏感だ。
みんなが俺をみる視線の中にはロボットとしての俺しか映っていなかった。
実際人の手によって造られたわけだから、仕方ないことだと諦めていた。
だがどうやら俺の認識は間違っていたらしい。
今目の前にいる郷田という男は俺のことを「半分ロボットの半端者」だといった。
つまりそれは俺のことを人間主体でみていてくれたということだ。
その事に気がついた途端、まるで人工物であるこの体にオイルが差されたかのように、錆び付いていた心の歯車が動き出すのを感じた。
郷田のことが苦手だということにかわりはない。
でも、飲み会の席で絡まれるくらいならいいかなと思えた。
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