カクテルバー2074

えんがわ

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カクテルバー2074

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 カクテル、カクテル、カクテルチェーン。何だかおかしな響きだカクテルチェーン。はいはい、チェーン店ですよ、雇われ店長ですよ。『BARアンドロイド』、7席のカウンター。そこが俺の城。 
 カラン、カラーン。 
 やって来たのは、緑と白の、しましま模様の気障なネクタイ、女連れ。 
「わー、わたし初めて!」 
 お客さん、田舎もんだねー、ハカタもんだねー。トウキョウじゃちっとも珍しくないよ、こんなチェーン店。それこそ飽きるほど建てられたんだよ。お陰であちこちの零細な中小バー、どんどん潰れていったんだよ。バーテンダーもどんどん飛ばされていったんだよ。渡りバーテンダーの群れ、南国へって。ってかココにその一人がいますよー。一杯どう? ギンザで鍛えた俺のカクテル。 
「ホワイトレディ、二つ」 
 マニュアル通り、髭をさすりながら 
「かしこまりました」 
 ボタンをぽちっとな。起動音いななかせカクテルロボが稼働しだす。ウィィィィィン。目をピカピカ光らせて。 
 カクテルロボとは。アメリカ、ニューヨークで随一の腕を持つバーテンダー、ジャック・ヤマダのカクテルシェイクを一ミリの狂いも無く再現する最先端ロボットなのだ。 
 鋼鉄のアームでシェイクシェイクシェイク、もひとつおまけにシェイク。シェイク。 
「わー、凄い凄い」 
「ホワイトレディ、お待ちどうさまでした」 
「わー、綺麗」 
「キミノヒトミノホウガ」

「三千百円でございます」 
 気障ったらしく五千円。千円札一枚。五百円玉一つ。百円玉四つ。レシートと一緒に渡す。 
「マスター、バイバーイ」 
「ありがとうございました」 
「ロボ君もバイバーイ」 
 俺が一番必要とされる時、会計の時。なんなら自慢のロボに最先端の武装をさせればいいのに。イメージ戦略が何とか。カクテルロボは皆さんに喜びと世界平和と幸せを運びます。一流のカクテルをお楽しみください。 
 何ならさ。俺も幸せにしてくれ。 
 俺も、幸せにしろ! 幸せにしろ!

 幸せに! しろ!

 殴っちまった。殴っちまった。 
 どうしよう。どうしよう。ごめんな。上半身だけのお前だけれど、大切なパートナーを。しかし、カクテルロボはただじっとこっちを見ている。目のカメラは本部と通じていて、一部始終を克明に伝える。何十のモニターの前で係長のあんちゃんが、あくびをしながら、シートにバッテンをつける、終わったなこいつ、くく。くそっ! 酔っ払え! 酔っ払え! もっともっと酔っ払え! 人間様の特権だ! もっともっともっと酔っ払え! 
 たとえ一滴のアルコールも飲めなくてもだ!

 次の日、本部から本日解雇の通知が来た。やけにあっさり終わったな。これからどうしようか。決まってる。すがりつくものは。 
  
 ハカタも悪くないねー。夜景がオレンジ色に染まってやけいに綺麗だ。白いテーブル一つ。客席三つ。それが俺の城。それにしても寒い。ハカタも冬は寒いんだ。ふと気づくと通行人が足を止めて 
「何、やってんだい?」 
「ストミューっているでしょう。ストリートミュージシャン。こっちはストリートバーテンダーというものですよ。お酒なんにします?」 
「ストバーか。流行らんぞ」 
「でも、そこそこ幸せですよ」 
「そこそこか」 
「何にします。カクテル」 
「キッツイのもらおうか」 
「かしこまりました」 
 カクテルを振る音が心地よさそうに街の雑踏に溶けて行く。
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