6 / 102
レイア編
六話 踏み出す一歩
しおりを挟む
幼い頃の夢を見た。それは過去の記憶で、普段なら思い出せないものだったけど、夢の光景はすごくはっきりしている。
「よいしょ、よいしょ」
そこは近所の公園で、僕は四人の友達と砂場遊びをしていた。スコップで穴を掘ったり、ちょっとした家みたいなのを作ったりしていた。
「……」
ふと視線を感じて顔を上げると、少し離れた所で遊びに加わりたそうに見つめているアオがいた。小さい時の彼女は引っ込み思案で、積極的な子ではなかった。いつも口をきゅっと閉じていて、表情も硬くてあまり友人もいない状態でいて。けれど話しかけると、とても嬉しそうにして色んな表情を見せてくれた。
小さい僕は、砂場の作業を一旦中断してアオへ距離を詰める。そして、ぎゅっと握っていた手を掴んだ。
「アオちゃん、一緒に遊ぼ?」
「……いいの?」
「うん!」
頷くと彼女はパァッと表情を輝かせる。それから、僕達は共に砂場に行って一緒に家を作っていった。
「ユウくん、楽しいね!」
そう無邪気に笑う。僕はそんな彼女の表情を見るのが好きだった。
*
「うぅ……ここは?」
「おはよう、ユウワくん」
目を開けるとさっき見た白い天井があった。横には小さな椅子に座っているアヤメさんがいる。身体の上にはふんわりとした黒の掛ふとんが乗っていて、それをはがして上体を起こした。
「ええと……」
何故こうなっているのか逡巡すると、後頭部に痛みが走る。それの痛みで置かれている状況を思い出した。
「ごめんねーミズアの君に対する思いが相当強かったみたいでさ。……売りに出すにはもう少し改良しないといけなさそうだなー」
人差し指をくるくる回しながら独り言を呟きながら考え込みだす。
「あ、あの。思いの強さって、ネガティブなことも含むんですか?」
「そうそう、二つ含んだ総量で決まるんだ」
つまり、めちゃくちゃ僕のことを恨んでるという可能性もあって。そう考えると血がすうっと引いていった。
「っていうか、頭だーいじょぶそ? 十分くらい意識を失っていたけれど」
「まだ多少痛みますけど、問題ないと思います」
頭を触って確認しても、少し腫れているだけで血が出ているわけでもなさそう。
「そういえば、アオはどこに?」
「あの子は、さっき来た依頼者さんのお話を聞いてるよー」
「依頼者?」
尋ねるとアヤメさんは霊に関する依頼だと教えてくれた。
それを聞き終えると部屋のドアが開かれて、アオが中に走り込んできた。
「ゆ、ユウ! 目が覚めたんだね!」
不安げだったアオは僕を見るなり、一転して安心したように破顔した。それは、幼い時に見た光景と似通っていて。
「体調の方は大丈夫? どこかおかしな所とかはない?」
「うん。少し痛みが残るけどだーいじょぶ。なんてね」
アオやアヤメさんの言い方を真似してみる。アオは焦っていると、普通の言い方になるらしいので、少しからかいを込めて。
「良かった、本当良かったよ~! また私のせいでユウのことを……ごめんね」
「うわわっ……」
だけど赤面させられるのは僕の方だった。だって、アオに抱きしめられたのだから。
恥ずかしさやら嬉しさやらで血の巡りが加速して身体が熱くなる。アヤメさんの方を見ると、ニヤニヤと眺めながら、両手でハートマークを作ったりもしてきて。
「お、落ち着いて」
「あっごめんね、つい」
「う、うん」
少し気まずい空気が流れて僕は顔を俯かせた。チラリと様子を伺うと、アオも頬を紅潮させていて。そしてすぐそばにいるアヤメさんは、僕と視線が合うとウインクをした。
「ねぇ、ミズア。依頼の事はどうだったのー?」
「そ、そうだった。お話をしてきたんだけど、何だか少し難しいそうで……」
「ほほー? 話してみてなさいな」
アオは頷く。立った状態のまま話し始めそうだったので、僕はベッドから身体を出して縁に座り直して、僕の隣に座るよう促した。
「ありがとね。それでなんだけど……」
そこからアオの説明が始まった。
「来てくれたのはアリアケ・カイトさん。土木関係のお仕事をしている人で、家族は妹さんだけ。二人で暮らしていたんだって。そして、その妹のレイアちゃんが霊になってしまったそうなの」
「妹さんが……」
「カイトさんはすごーくレイアちゃんを愛していたみたいなの。だから深い未練を持ってもおかしくないよね。しかも、唯一無二の家族だし」
アオはどこか遠くを眺めた。
「それでミズア、何に問題を感じているのー?」
「実は、そのレイアちゃんが死んでいる事に気づいていないみたいで……未練云々よりもどう伝えればいいかがわからなくて」
「確かにそれは難しいね」
どれだけオブラートに包んでもすごいショックを与えてしまって、未練解決どころじゃなくなるかもだし、かといって伝えなければ亡霊化してしまう。
「それと今レイアちゃんは、霊になってからずっと部屋の中にいるみたい。カイトさんが何とか外に出ないようお願いしているんだって。いつまでもつかわからないみたいだけど」
「ふむふむ……それは早めに行かないとねー。亡霊化のこともあるし」
そう一度言葉を切ってから、パンと掌を叩くと。
「よしっ。じゃあとりあえず二人でレイアちゃんに会ってきなよー。時間も無さそうだし、まずは行動あるのみ」
「ぼ、僕も?」
「モチのロン。大変な戦いも起きなさそうだし、初めてのお仕事にはぴったりだと思うなー。ミズアとも一緒だしさ」
アオと目を合わせると、一回頷いてくれて大丈夫だよと伝えてくれる。正直、まだ僕みたいな人間が、ロストソードを振るって良いのかわからなかった。でも、やらなきゃいけないことだともわかっていて。
「わ、わかりました。頑張ります」
僕は覚悟を決めてそう宣言すると、それを聞いたアオはあの頃みたいに表情を輝かせる。それだけで、間違ってないと思えた。
「よいしょ、よいしょ」
そこは近所の公園で、僕は四人の友達と砂場遊びをしていた。スコップで穴を掘ったり、ちょっとした家みたいなのを作ったりしていた。
「……」
ふと視線を感じて顔を上げると、少し離れた所で遊びに加わりたそうに見つめているアオがいた。小さい時の彼女は引っ込み思案で、積極的な子ではなかった。いつも口をきゅっと閉じていて、表情も硬くてあまり友人もいない状態でいて。けれど話しかけると、とても嬉しそうにして色んな表情を見せてくれた。
小さい僕は、砂場の作業を一旦中断してアオへ距離を詰める。そして、ぎゅっと握っていた手を掴んだ。
「アオちゃん、一緒に遊ぼ?」
「……いいの?」
「うん!」
頷くと彼女はパァッと表情を輝かせる。それから、僕達は共に砂場に行って一緒に家を作っていった。
「ユウくん、楽しいね!」
そう無邪気に笑う。僕はそんな彼女の表情を見るのが好きだった。
*
「うぅ……ここは?」
「おはよう、ユウワくん」
目を開けるとさっき見た白い天井があった。横には小さな椅子に座っているアヤメさんがいる。身体の上にはふんわりとした黒の掛ふとんが乗っていて、それをはがして上体を起こした。
「ええと……」
何故こうなっているのか逡巡すると、後頭部に痛みが走る。それの痛みで置かれている状況を思い出した。
「ごめんねーミズアの君に対する思いが相当強かったみたいでさ。……売りに出すにはもう少し改良しないといけなさそうだなー」
人差し指をくるくる回しながら独り言を呟きながら考え込みだす。
「あ、あの。思いの強さって、ネガティブなことも含むんですか?」
「そうそう、二つ含んだ総量で決まるんだ」
つまり、めちゃくちゃ僕のことを恨んでるという可能性もあって。そう考えると血がすうっと引いていった。
「っていうか、頭だーいじょぶそ? 十分くらい意識を失っていたけれど」
「まだ多少痛みますけど、問題ないと思います」
頭を触って確認しても、少し腫れているだけで血が出ているわけでもなさそう。
「そういえば、アオはどこに?」
「あの子は、さっき来た依頼者さんのお話を聞いてるよー」
「依頼者?」
尋ねるとアヤメさんは霊に関する依頼だと教えてくれた。
それを聞き終えると部屋のドアが開かれて、アオが中に走り込んできた。
「ゆ、ユウ! 目が覚めたんだね!」
不安げだったアオは僕を見るなり、一転して安心したように破顔した。それは、幼い時に見た光景と似通っていて。
「体調の方は大丈夫? どこかおかしな所とかはない?」
「うん。少し痛みが残るけどだーいじょぶ。なんてね」
アオやアヤメさんの言い方を真似してみる。アオは焦っていると、普通の言い方になるらしいので、少しからかいを込めて。
「良かった、本当良かったよ~! また私のせいでユウのことを……ごめんね」
「うわわっ……」
だけど赤面させられるのは僕の方だった。だって、アオに抱きしめられたのだから。
恥ずかしさやら嬉しさやらで血の巡りが加速して身体が熱くなる。アヤメさんの方を見ると、ニヤニヤと眺めながら、両手でハートマークを作ったりもしてきて。
「お、落ち着いて」
「あっごめんね、つい」
「う、うん」
少し気まずい空気が流れて僕は顔を俯かせた。チラリと様子を伺うと、アオも頬を紅潮させていて。そしてすぐそばにいるアヤメさんは、僕と視線が合うとウインクをした。
「ねぇ、ミズア。依頼の事はどうだったのー?」
「そ、そうだった。お話をしてきたんだけど、何だか少し難しいそうで……」
「ほほー? 話してみてなさいな」
アオは頷く。立った状態のまま話し始めそうだったので、僕はベッドから身体を出して縁に座り直して、僕の隣に座るよう促した。
「ありがとね。それでなんだけど……」
そこからアオの説明が始まった。
「来てくれたのはアリアケ・カイトさん。土木関係のお仕事をしている人で、家族は妹さんだけ。二人で暮らしていたんだって。そして、その妹のレイアちゃんが霊になってしまったそうなの」
「妹さんが……」
「カイトさんはすごーくレイアちゃんを愛していたみたいなの。だから深い未練を持ってもおかしくないよね。しかも、唯一無二の家族だし」
アオはどこか遠くを眺めた。
「それでミズア、何に問題を感じているのー?」
「実は、そのレイアちゃんが死んでいる事に気づいていないみたいで……未練云々よりもどう伝えればいいかがわからなくて」
「確かにそれは難しいね」
どれだけオブラートに包んでもすごいショックを与えてしまって、未練解決どころじゃなくなるかもだし、かといって伝えなければ亡霊化してしまう。
「それと今レイアちゃんは、霊になってからずっと部屋の中にいるみたい。カイトさんが何とか外に出ないようお願いしているんだって。いつまでもつかわからないみたいだけど」
「ふむふむ……それは早めに行かないとねー。亡霊化のこともあるし」
そう一度言葉を切ってから、パンと掌を叩くと。
「よしっ。じゃあとりあえず二人でレイアちゃんに会ってきなよー。時間も無さそうだし、まずは行動あるのみ」
「ぼ、僕も?」
「モチのロン。大変な戦いも起きなさそうだし、初めてのお仕事にはぴったりだと思うなー。ミズアとも一緒だしさ」
アオと目を合わせると、一回頷いてくれて大丈夫だよと伝えてくれる。正直、まだ僕みたいな人間が、ロストソードを振るって良いのかわからなかった。でも、やらなきゃいけないことだともわかっていて。
「わ、わかりました。頑張ります」
僕は覚悟を決めてそう宣言すると、それを聞いたアオはあの頃みたいに表情を輝かせる。それだけで、間違ってないと思えた。
0
あなたにおすすめの小説
【長編版】悪役令嬢の妹様
紫
ファンタジー
星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。
そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。
ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。
やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。
―――アイシアお姉様は私が守る!
最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する!
※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>
既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※小説家になろう様にも掲載させていただいています。
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。
彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。
最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。
一種の童話感覚で物語は語られます。
童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです
貧弱の英雄
カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。
貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。
自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる――
※修正要請のコメントは対処後に削除します。
絡みあうのは蜘蛛の糸 ~繋ぎ留められないのは平穏かな?~
志位斗 茂家波
ファンタジー
想いというのは中々厄介なものであろう。
それは人の手には余るものであり、人ならざる者にとってはさらに融通の利かないもの。
それでも、突き進むだけの感情は誰にも止めようがなく…
これは、そんな重い想いにいつのまにかつながれていたものの物語である。
―――
感想・指摘など可能な限り受け付けます。
小説家になろう様でも掲載しております。
興味があれば、ぜひどうぞ!!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる