ロストソードの使い手

しぐれのりゅうじ

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ギュララ編

十三話 桃奈愛理

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「僕……ですか?」
「そうに決まってるでしょーが! あたしのミズちゃんをたぶらかすなんて、万死に値するわ!」

 すごい形相で僕を見上げてくる。目がマジ過ぎて後ろに後ずさり、アオの手を離した。

「モモ、この人は」
「ミズちゃん安心して。今からこいつを……ってそれ」
「え?」

 モモと呼ばれた人は僕の着ている服を指し示した。そこにはキャラクターが描かれていて。
 その時に僕の脳内に電流が流れた。そのキャラと目の前の子を見て、アオとアヤメさんのリアクションの意味がわかってしまった。途端に羞恥心が爆発して、顔が発火する。

「あんた、どうしてその服を選んだの
「いや、これはなんと言いましょうか」
「素直に答えて」

 ギロリと睨まれる。誤魔化したらぶっ飛ばされそうだ。多分普通に答えてもそうなるだろうけど。

「か、可愛いって思ったから……です」

 恥ずかし過ぎて死んでしまいそうだ。それに殴られることを覚悟していたのだけどそれは起きず、彼女が頬を赤らめて恥ずかしそうにするだけだった。

「ふ、ふーん? あたしのこと好きなんだ」
「いや、好きとは」
「照れないでいいわ。わかっているから……でもごめんなさい。少しキュンとしたけれど、好きになる人は二人までって決めているから」

 何もわかっていないのですが。というか、どうして僕は振られているのか。ちょっと傷つく。

「ということだから、とりあえず一発しビンタしていい?」
「どういうことですか!? 絶対駄目です!」

 魔法使いみたいな風貌をしていきなり物理的な手段を取らないで欲しい。助けを求めようとアオを見ると、彼女は面白そうに静観していた。

「だって、あたしのミズちゃんを惑わしているから」
「いやいやいや、アオを惑わすなんてこと……」
「あ、アオ!? あだ名呼びまでしているなんて……吹っ飛ばす」
「それって……」

 彼女は左手にロストソードを出現させ、刃は出さないものの構え、臨戦態勢を取ってきて。

「そこまでだよモモ。それも閉まって」
「どいてミズちゃん。そいつ倒せない」
「だーめ。この子は私の幼馴染の日景優羽。それに私達と同じロストソードの使い手だから、仲良くして」

 アオが僕達の間に割って入り、モモさんをたしなめる。どうやら助かったらしく、ふっと力が抜けた。

「わ、わかったわ」

 ロストソードを戻してから、モモさんは先程までの敵対心を潜めて、アオの横を抜けて僕と再び相対する。

「ミズちゃんが悲しむだろうから、ぶっ飛ばすのは止める。でも馴れ合うつもりはないから。あんたは今からライバル、幼馴染だからってミズちゃんに対する想いは負けないから」

「は、はぁ……」
「あはは、ユウ大変だね~」

 何故かライバル宣言されてしまう。本当についていけない。当事者であるアオは傍観者のように呑気でいるし。

「一件落着したところでさ、私達今から食事に行こうと思ってたんだけど一緒に――」
「行くわ!」

 食い気味にそう答えた。アオに誘われると一転して朗らかな表情になり、頬の紅潮と供に目元に貼ってあるハートも赤色に戻る。マギアの一種なのだろうか。

「どこに行こうかなって思っていたんだけど、何かアイデアある?」
「もちろんよ! ミズちゃんとのデートコースは常に考えているもの。今回は彼もいるけれど……まぁいいか。こっちよ」

 モモさんはアオの横に位置を取って、僕は彼女達の後ろをついていく形で歩く。

「久しぶりのミズちゃんと食事嬉しいわ」
「そうだね~。しばらく向こうにいたもんね」

 アオの隣を歩くモモさんは凄く軽やかで心なしかピンクのツインテールも喜びに弾んでいるように見えた。
 商店街の表の通りから裏に入る。少し薄暗い道を進み、曲り角にさしかかる地点で止まり、その右手ある店が目的の場所らしい。窓から中を覗くと、秋葉にいそうなメイド服の店員さんが食事を運んでいて。

「ここってまさか」
「そのまさかだよ。入ろう」

  店内の壁は薄い桜色で床は白と黒の四角の模様が交互にあり、雰囲気としては可愛さと落ち着いた感じの両面のある喫茶店だった。
 お客さんはまばらと言った感じで、大人の男性が多く見られる。
 僕達は入口付近の四人席に座った。僕の対面にアオがいてその横にモモさんという形で。

「おかえりなさいませご主人様、お嬢様」

 少しすると白と黒のメイド服に身を包んだ店員さんがお水を持ってきてくれる。

「ただいまー。また来たわよ」
「アイリ様、いつも来てくれて嬉しいです。それに今回はお二人と一緒なのですね。私はクルミって言います。よろしくお願いします」
「注文が決まったらまた呼ぶわ」

 そう伝えるとメイドさんは一度お辞儀をしてから下がっていく。メニュー表はすでに机に置いてあり、写真はなく商品名のみが書かれていた。

「ミズちゃんはどうする?」
「うーんと、私はオムライスでいいかな」
「じゃあ、あたしもそれにしよっと」

 二人は即座に決めてしまい早い決断を迫られる。メニュー表の中でオムライスが一番大きく書かれていて、それが目について。

「ぼ、僕もそれで」
「それじゃ頼もっか」

 アオがクルミさんに声をかけて同じものを三つ注文。ちょっとすると、オムライスが三つ届いた。それは向こうの世界とほぼ変わらない形でいる。

「ケチャップで何か書きましょうか?」
「あたしはハートが欲しいかな」
「私もそれで」

 僕も同じく頼むと、それぞれにケチャップでハートを書いてくれる。

「じゃあ最後に私の愛を込めますね」

 クルミさんは、ポケットからピンクのハート型のマギアを取り出す。

「萌え萌えキュン、美味しくなーれ」

 そう唱えるとハートから柔らかな光が放たれる。それを浴びたオムライスはキラキラとして、さらに美味しそうになった。
 それを終えてから、モモさんはクルミさんにお金を支払う。受け取ってから彼女は再びお辞儀をして下がっていった。
 皿に乗っていたスプーンで、オムライスを食べてみる。口に入れると馴染み深い卵のとろけそうな甘味が頬をとろけさせてくる。飲み込むと、身体が温かくなって、リラックスしてきた。

「驚いたでしょ? このお店のアイデアはモモが考案したんだよ」
「ま、マジですか」
「ここの店主さんに店のアイデア出しを頼まれたのよ。それで、この世界でメイドさんを流行らせたくて、素晴らしさを伝えたら採用されたって感じね」

 そういえば街に歩いていてメイド服着ている人がいた。それもモモさんによるものだったのだろう。

「あたし好みにデザインとか接客方も考えたわ。そうそう、さっき萌え萌えキュンをしてくれたけど、マギアの力で回復魔法がかけられて食べると癒やしの効果があるのよ。この世界ならではも意識したわね」
「そんなにも……すごいですね、本当に」
「ほ、褒めてもあんたのことは好きにならないからね」

 そう言いながらも明らかに嬉しそうにしていた。この人のことを少しだけわかってきた気がする。

「あの、そういえばお名前は何て言うんですか?」
「自己紹介がまだだったわね。あたしは桃奈愛理よ。あんたと同じく日本からこっちに来たの」
「こう見えてもモモは二十歳で私達より年上なんだよ」

 アオの補足で思わず桃奈さんを眺めてしまう。容貌や着ている服的に年上と言われても、違和感しか無くて。

「ふん、変な人だと思ってるんでしょ」
「ユウは可愛いものが好きだからそうは感じてないんじゃないかな。その服も好んで着ているわけだし」
「それ本当なの?」

 肯定してぬいぐるみとかを部屋に置いていることなどの話をすると、凄く共感してくれてそこから好みに関する話へとシフトして盛り上がった。可愛い談義をしながら、オムライスを食べると、味が何倍にも美味しく感じる。話に花を咲かせる僕達の横で、アオは理解できないといった感じで僕達を見ていた。

「それめっちゃわかるわ。寝る時にぬいぐるみがあると、話し相手になって寂しくないものね。それに……って」

 急に話を止めると、頭をブンブンと横に振り出した。

「危ない危ない。仲良く話してしまうところだったわ」
「モモ、結構楽しそうだったけど?」
「いやその。た、楽しいフリをしていたの。一応、これから長く一緒にいるわけだからね」

 絶対にそんなことはないはずなのに、そう誤魔化してしまう。理由が気になるけれど、訊くこともできなくて。

「そ、そんなことより、ミズちゃんに話さないといけないことがあるの」

 いつの間にか全員がオムライスを完食し終えていた。そんな中で桃奈さんがそう切り出す。

「クママさんのことなんだけど、あたし達だけじゃ解決できそうにないわ。だから協力して欲しい」
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