ロストソードの使い手

しぐれのりゅうじ

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ギュララ編

十七話 グリフォドールと林原空

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「良かったわ、大したことなくたどり着いて」
「僕、死にかけたんですけど」
「死んでないからだーいじょぶなんだよ」

 その結論はたくましすぎる。この人達は一体どんな修羅の道を歩んできたんだ。異世界ビギナーとベテラン差を感じる。

「村って中は安全なの?」
「うん、村には結界があるから魔獣は入りこまないよ」
「よしっ早く中に入ろう」

 つまり、さっさと村に避難すれば悪夢の通り魔獣に連れ去られる可能性をゼロにできる。この世界は受け身では駄目な気がするし、入口はすぐそこ。僕は二人よりも前に出て、足早に開けた空間に出た。

「ゆ、ユウ……離れちゃ」
「……うん?」

 アオの引き止める声を振り切って進む。すると、上空から羽ばたく音がして、見上げると青色の巨大な鳥のような魔獣がこちらに下降していた。

「やばっ……」

 それを認知した瞬間に僕は踵を返して二人の後ろに隠れた。

「……あんた少しはプライドみたいなの?」
「離れるなと言われていたの思い出しました」
「あはは……正しい判断だと思うよ。あの子はグリフォドールって言う魔獣で結構強いからね」

 その魔獣は、何かを足で掴んでいたらしくそれを地面に投げ落としてから着陸する。
 グリフォドールは、鷹の顔と翼に、身体はライオンのようでいて猛獣の手と鋭い爪を持ち合わせていた。その姿を端的に言えばゲームに出てくるようなグリフォンだ。大きさは僕の背を超えていて、遠くにいるのに威圧感がある。落とされたのは、銀色の毛皮の人狼のような姿をしていて、ピクリとも動かない。

「あれってウルフェンよね。こっちの島に来て襲われたのかしら」
「わからないけど……少なくとも彼にはもう命はなさそう」

 死者には会っているけれど死体は初めて見る。あんな風になるんだと冷静に観察していた自分がいて少し驚く。

「ウルフェンって魔獣?」
「ううん、テーリオ族の人。あの人狼姿は変身している状態だね」

 そんな会話していると、地上で羽根を休めてるグリフォドールのスカイブルーの鋭い目がギロリと僕を睨んだ。

「何か、嫌な予感する……」
「良い感してるじゃない。グリフォドールは人型の生き物を連れ去る習性があるのよ。でも人型のぬいぐるみとか人形も対象みたいで、それを身代わりにできたりもするの。ちょっと親近感が湧くわ。あんたもそう思うでしょ?」
「わかりますけど、それどころじゃないです!」

 何故この状況で共感を求めてくるのか。いくら自分が対象じゃなくても、少しくらい配慮して欲しい。

「ユウ、絶対に離れないでよ」

 グリフォドールは羽根を大きく羽ばたかせて、空中に滞空し出す。そして鳥類が発する耳に刺さる高い鳴き声が空気を震わせた。

「来たっ……」

 羽根を一度力強く動かすと一気に空中を滑って強襲してくる。

「レイアちゃん力借りるよ……はぁぁぁ!」

 アオは白銀に光を帯びたロストソードを横一閃。銀色の斬撃が撃ち込まれた。それは途中で姿を変え二つに分かれる。

「ピャァァ……」

 グリフォドールは回避しようとするも、同時に二つが襲いかかり、判断が遅れ顔面にもろに喰らう。それに、驚いたのか方向転換し空高くに逃げ出した。

「逃さないから!」

 すかさず、桃奈さんが赤い魔法陣を発生させて、そこから巨大な火球を発射した。背についた羽に直撃して、そのまま力なくさっきまでの場所に墜落する。

「トドメっ!」

 アオは刀身を橙色に変えて、ロストソードで斬り払う。三日月型の光は直線上にいる魔獣を捉えていた。

「ピャアアァァ!」

 だが地面スレスレの所で態勢を安定させると、羽を閉じて防御。それから足でウルフェンを掴むと飛び去ってしまう。

「やばっ!」
「大きさのくせにすばしっこいわね」

 逃すまいとアオと桃奈さんは連続で攻撃するも旋回と急停止で上手く躱されてしまい、グリフォドールは遠くに逃げてしまった。

「……流石に見過ごせないよね」
「ミズちゃん?」
「ちょっと探してくるから先行ってて。別の島に移るほどの体力はまだないだろうから」

 それだけ言い残してアオは森の中に消えていった。それで僕と桃奈さんの二人きりなってしまう。

「行っちゃいましたね」
「強い上に優しくて本当にかっこいいわ……」

 アオの行動に感銘を受けたのか恍惚な表情をしている。

「よし、あたし達もミズちゃんに負けちゃ駄目よね! さっさと村に行くわよ」
「はい」

 突然の出来事に手間取ってしまったが、僕達は村へと足を踏み入れた。
 ウルブの村は四角に囲われた柵の中にあり、自然に溢れていた。建てられている家々のほとんどが木で組み立てられていて、田畑がいくつもあり、他にも色々な植物が植えられている。道もほとんど舗装されていなく、自然のカーペットだった。人工的な物と言えば街灯と中心に置かれている女神像と時計。それはセントラルパークと同じものだった。人の数はまばらで、ほぼ全ての人が何らかの動物の特徴を持ち合わせている。
 ただ一人だけ、女神像の前にいる男性は人間の耳をしていて。

「ソラくん!」

 桃奈さんは彼を見ると弾んだ声で名前を呼んで駆け寄った。

「愛理……ミズアを呼んでこれたのか?」

「ええ。けれど、ちょっとやる事ができてしまって少し遅れて来るわ」

「そうか。それで……彼は?」

 二人の会話を少し後ろで見ていると話の対象がアオから僕に。

「日景優羽。向こうの世界から来た子よ」
「……そうか」

 キリッとした切れ長の目が僕を見る。どこか圧のようなものを感じて、少し緊張してしまう。

「こ、こんにちは」
「ああ」
「……」

 それだけで会話は途切れる。何か続けようとしたいが、話題が見つからず言葉は出なかった。こちらから自己紹介でもした方がいいのだろうか。

「彼は林原空っていうの。あたし達と同じくこっちの世界にやって来た一人よ」

 桃奈さんが無言状態を貫いて彼のことを紹介してくれた。林原さんは、顔さシュッとしてパーツ一つ一つが整っていて美形だった。黒い瞳に黒髪でセンター分けをしている。身長は僕よりも高く、細身ながらもどこか力強さがあって。服装はシンプルな白のシャツに黒の長ズボンで、スタイルの良さがよりわかる感じになっている

「ふふっ、ソラくんはクールな感じとか素敵なのよね。それに、実は凄く優しい所とかも本当最高って感じで」
「……」

 表情をほころばせながらそう褒めちぎる。桃奈さんのその感じは、アオといる時と同じもので。対して、褒められている本人は表情は変わらないものの、恥ずかしそうに顔を逸らした。

「もしかして林原さんのことも……」
「もちろん、ミズちゃんと同じくらい愛してるわ!」
「そ、そうですか」

 堂々とそう言えてしまうメンタルが凄いと思ってしまう。自分もできたならと羨ましさもあった。

「でも、だからなのよ。あんたの気持ちに応えられないのは。好きになるのは二人までって決めてるから。ごめんなさいね」
「……」
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